15 お買い物に行こう2
ずらっと、服屋が並ぶ一画にやってきました
屋根と骨組みだけの広い場所に、それぞれの店が棚やショーケースを持ち込んで、服を売っています
いわゆる『洋服屋』ではなく、フリーマーケットの豪華版といった感じ
「大通りに店舗があるブランドも、出店していますよ」
「もう一度言ってください」
もう何度も何度も、もう一度言ってもらってます
なんかもう、申し訳ないやら、自分が情けないやら------
「気にする必要はありません。そうやって聞きなおす事で覚えるんですから、遠慮なく聞いてください。気にしていたら、上達しませんよ?」
「・・・」
気にするなと言ってくれているニュアンス・・・だけど
「すみません、もう一度・・・」
あああああ、本当にすみませんっ
長文は勘弁してくださいっ
「これ、かわいい」
「リィナ、服を見たかったのでは?」
私は今、服屋で雑貨をみています
最初は服を見ていたんですよ?
そうしたら、運命の出会いが!
「もふもふ~」
ピンクのウサギさん・・・つまり、ぬいぐるみ
あ、ちなみに"もふもふ"は日本語使いました
「リィナ」
ちょっと・・・いや、かなり呆れたようにクリスさんに見られてますが、良いじゃないですか!かわいいもの好きに、年齢は関係ない!
「クリスさん、私この子買います!」
「・・・まあ、あなたの給料ですから、何を買ってもいいですが」
「ついでにこの店で服も買います」
「ついに、服がついでになりましたか」
なんか軽くけなされました
そういう言葉は、ちゃんと通じるものなんですねえ
とりあえず無視して、店員さんを探します.....
「すみませ~ん、この黄色いスカートの、違う色はありますか」
"色違い"という言葉がわからないので、こういう表現になるんです
持ってきてくれたのは、オフホワイト・紫紺・グレー・サーモンピンク
とりあえずピンクは却下
「クリスさん、これ着てみたいです」
「"試着してもいいですか"と聞くと良いですよ」
「はい。ええっと------」
結局、普段着としてオフホワイトと紫紺のスカート、ブラウスを2着買って、あとはパジャマ代わりに着れるものを買う
ナイトウェアは、専門の店があり、試着するまでもなくすんなり決まった
というか、スケスケの物とか無かったし
初日に渡されたセクシーなナイトウェアは一体なんだったんだろう・・・
「クリスさん、市場、楽しいですねっ」
「そうですか、よかったです」
服とウサギ(の ぬいぐるみ)を抱えて、にこにこ笑顔でそう言うと、クリスさんも笑顔で答えてくれました
あ、ちなみに今は荷物を持っているので、手はつないでいません
こんなに顔がいい人と手をつないだら、ドキドキしたり、うれしく思うのが普通の女性なのだろうけど・・・
残念ながら、手をつながなくて良かった~と思ってホッとしている私・・・
どうなんだろう女として・・・
いやいや、この人笑顔の裏になんかありそうだから、警戒心が沸いてくるんだよね------偏見ですけど、なにか?
「どうしました? リィナ」
「いえ、なんでもないです。次はどこに行きますか?」
「そうですね・・・食材を見に行きましょうか」
「はい。楽しみです」
それでも、このデートのような状況は、少し楽しいです
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移動して、青果売り場に来ました
さすがに市場っぽいです
野菜と果物が、山積です
日本では見たことの無い野菜もたくさんあります
「クリスさん、これは何ですか?」
「それはマールという果物ですよ」
「あの赤いのもマールですか」
「ええ、マールは熟し具合によって、味が楽しめるんですよ」
熟す前の青いものはレモンのような酸味、黄色やオレンジ色になってきたら甘酸っぱく、赤く熟れたら甘くなるらしいです
そんな調子で、質問を繰り返して色々な言葉を勉強しました。
その合間に、クリスさんはお屋敷宛に野菜や果物の配達を注文したりしています
だいぶ、聞き取れるようになりました
今日一日(というか、まだ昼前なので、半日)だけで、ずいぶん語彙が増えたわー
なるほど、さっきのマールは箱買いですか
「リィナ、この調子だとあっという間に話せるようになりますね」
「本当ですか?」
そうなるとうれしいです
うれしくてニコニコしていたら、また頭をなでられました
「クリスさん、私この世界に来て、よく頭をなでられるです」
あれ?文法変かな?通じるかな?
「そうですか?確かに、向こうの世界ではあまり頭をなでないかもしれませんねぇ。嫌ですか?」
「嫌ではないです」
みんな優しくなでてくれるので、気持ち良いですよ。
「なんか、意味があるのかなーと思って」
「そうですねえ・・・褒めるとき、赦すとき、あとは愛情表現としてですね。向こうの世界とそれ程変わらないと思いますよ」
「なるほどー」
そういえば、メイド長に謝ったときに、頭なでられたな~
赦してくれたって事なんだね。なるほどね。
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鮮魚売り場に来たら、新鮮な魚であふれていました
海が近いのかしら
と思って聞いてみたら
「ちがいますよ、冷蔵技術が発達しているんです」
「そう・・・ですか」
この国には、海は無いそうです
「戦時中は、魚介類は異世界から輸入していたそうですよ」
「は?輸入?」
「はい輸入です。それに召喚だって、いわば"人材の輸入"ですよ?」
「ほ、他にも輸入品ってあるんですか?」
お酒・タバコなどの嗜好品から服やお菓子まで・・・
「私とシオン様のスーツも、イギリスのテーラーに作らせてますよ」
輸入業者にオーダーすると、直接行って発注してきてくれるんだとか・・・
私が思っていた以上に、異世界交流が盛んなようです
そして、クリスさんは魚も注文していました
えっ!? 魚も箱買いって多・・・ああ、冷蔵技術が発達してるから、問題ないんですか。そうですか。
この国では生魚は食べますか?・・・食べませんか、そうですか。
えっ? 食べさせるところもあるんですか?
ぜひ教えてくださいっ
「(クスッ)・・・日本人は刺身が好きですね」
(ムスッ)そうですよっ
笑わなくても良いじゃないですか
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そろそろお昼にしようかと、市場に併設されている食堂街に来たところで、声をかけられました
「クリス様? クリス様ではありませんか?」
誰、この騎士風の鎧を身につけた美女-------
意外と普通に買い物できましたね
ウサギは抱き枕にする予定のようです(笑)




