14 お買い物に行こう1
異世界4日目です。
もうさすがに夢オチは期待しないわ~
ハァ------
それにしても、向こうでは私、行方不明4日目ってことよね
お父さんお母さん、とりあえず莉奈は異世界でも元気ですよ
心配かけてるよね、ごめんねー
お兄ちゃん、さすがに異世界には乗り込んでこないよね?
・・・来るわけないか
「リィナ、おはようございます」
「おはようございます、クリスさん。あの、昨日わたし・・・」
「ナンシーに聞きました。迷子になったそうですね?」
クリスさんが申し訳なさそうな顔で言った
うう・・・恥ずかしいです。
「はい。部屋まで連れて来てもらいました」
「一人で部屋に戻らせてしまうなんて、私が失念していました。失礼しました」
そう言ってクリスさんは、丁寧に頭を下げてくれる
「いえっ、私こそ!・・・早く覚えます」
間取りを。
と言っても、このお屋敷大きいってば!
間取り図とか無いですか?
なるほど、防犯上渡せないと・・・まあ、当然といえば、当然ですかね。
となると、記憶力が頼りってことですね。
まあ、大丈夫でしょう。
方向感覚は良いほうなんですよ。
そんな話をしながら、食堂に行くと、旦那様にまで謝られました
ガッツリ、頭を下げられました------
そんなに謝られるような事では無いと思うのですが・・・と言うと
「泣くほど不安だったんだろう?」
「・・・ナンシーが、リィナが"廊下でしゃがみ込んで泣いていた"と言って・・・」
「はあ?」
いや、泣いてないし
しゃがみ込んでもないし
大体、この歳で迷子になること自体恥ずかしいのに、迷子で泣くなんてもっと恥ずかしいですっ
「・・・」
「・・・」
「・・・」
沈黙を破ったのは、クリスさんでした
「これは、やられましたね」
「・・・ナンシーの奴」
「・・・」
旦那様、舌打ちはお行儀悪いですよー
とりあえず、目標が出来ました
ナンシーさんとは、仲良くなろう。
ええ、それはもう頑張って仲良くなりますともっ
いたずらっ子は味方につけておいた方がいいのです。
・・・自分に被害がおよぶ前にね。
「さてリィナ、今日の予定ですが」
「はい、クリスさん」
朝食後、クリスさんに、迷子防止のための屋敷案内をしてもらいつつ、今日の予定を聞きます
「市場に行きましょう」
「・・・マーケットですか」
「はい。給金を前貸ししますので、好きなものを買っていいですよ」
おおっ!それはうれしいかもっ
「ただし、屋敷を出たら、日本語も英語も禁止です」
あっ、やっぱり勉強の一環なんですね------
「辞書は持参して良いですよ」
「・・・はい。わかりました」
というわけで、お買い物に行くことになったのです。
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マーケットは、王都の外れにあるそうです
馬車で近くまで来て、あとは歩いていくことになりました
マーケットまで馬車で行ってしまうと『貴族の馬車』ということで、いろいろ危険らしいのです
この国、治安が悪そうには思えないんだけどな
今度詳しく聞いてみよう
今日はいい天気------
と思っていたら、クリスさんがつぶやいた
もちろん、異世界語(?)で
「夕方から、雨が降るかもしれませんね」
「ええっ!?」
すっごくいい天気なのに!?
「空気が少し、湿っています・・・こういう時は、雨が降ることが多いんです」
「そうなんですか」
湿度が高いわけでもない、さわやかな風が吹く、いいお天気です
なので空気が少し湿っているというのが、私には良くわかりませんが
・・・こちらの世界の人には誰でもわかることなんですかね
それとも、クリスさんは実は気象予報士?
そんなわけないか
まさか天気オタク?
・・・
などと、考えていたら、クリスさんは急に日本語に戻し・・・
「リィナ、いま何か変なこと考えてませんか」
「いえっ、別に変なことはっ」
「声が上擦ってますよ」
「いえ、ホントに変なことじゃないんですけど。でもとりあえず、すみませんでした」
「・・・追求される前に謝っとこうと言う訳ですか? そうですか・・・」
「いや、だからホントに・・・」
「じゃあ何を考えてたんです?」
うっわー、すっごい爽やかな笑顔なのに、目が笑ってないよ
「目が笑ってませんか。そうですか」
口に出していたみたいです・・・やばい、ますます笑顔が怖いっ
「あの、ホントすみませんでした。私には天気予報は出来ないので、クリスさんは専門の勉強でもしたのかなと思っただけです」
嘘は言ってない!
「・・・」
だから目が怖いですって
「ホントですっ」
「・・・」
「しつこい男は、嫌われますよっ」
「くっ・・・」
しぶしぶといった感じで、許してもらえました
けど、ひょっとして前にも"しつこい"って言われたことでもあるのかな
「リィナ?」
「はいっ、すみません」
人の心読むの、ヤメテクダサイ~
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市場に着きました
「大きいですね」
「今日は一般開放の日ですから、普段よりにぎやかですね」
「・・・もう一度言ってください」
容赦なく異世界語を話してくるクリスさん
もちろん私は聞き取るのに必死です。
さっきの事があったから、なんとなく意地悪されている気がする・・・のは、きっと気のせいだと思う。
「さあ、まず何を見ますか」
「服が見たいです」
この市場、いつもは青果・鮮魚・生花などがメインで、週1回の一般開放の日は服や雑貨などの店も出店する・・・らしい
観光客用のパンフレットに書いてありました・・・辞書片手に読みました
「じゃあ、行きましょう」
そう言って、歩き出すクリスさん
・・・人が多くて、付いて行くのがやっとです
ああ、このままだと見失ってしまう!
「まっ、まってください~」
辞書片手に頑張って言ってみたら、立ち止まってくれました
振り返ったクリスさんは、満面の笑顔
さっきの目が笑ってなかった笑顔と違って、今度はなんかうれしそうな笑顔ですけれども・・・
あれ? ひょっとして、わざと置いて行こうとしました?
勉強の為とはいえ、ちょっとイジワルですね?
「はぐれないで下さいね」
そう言って、クリスさんは手を差し伸べてくれました
あまり深く考えずにその手を握りました
が、
手をつないでお買い物って、なんだかデートっぽくない?
「リィナ、どうしました」
「いえ、なんでも」
クリスさん、美形なので、すれ違う女性が振り向くんです
そして、手をつないでる私も視線を感じるんです
次は"手を離してください"って、言えるようにならなきゃね




