13 はじめての遭遇?
夕食後に、また勉強することになりました。
ここは旦那様の執務室です
旦那様は仕事中。私とクリスさんは応接セットで勉強しています
『むかしむかし あるところに うつくしい おひめさまが いますた』
「そこは『いました』ですよ」
『・・・おひめさまが いました』
子供用の絵本を読んでいます・・・声に出して。
今朝から勉強し始めて、辞書を片手にとはいえ、もう絵本読めるって、すごいと思うっ
自画自賛っ
『ちいさいころから とても かしこく、うつくしいおひめさまは みんなにあいされて そだちました』
『クリス、少しいいか』
『はいシオン様。「リィナは続けててください」』
そう言ってクリスさんは旦那様の机に向かいました
『としごろに なった おひめさまには たくさんの---がきました』
「リィナ、読めない言葉をさりげなく飛ばさないで」
チッ、聞いていたか
「そこは『縁談』だな」
旦那様が仕事をしながら教えてくれた。本も見ずに。これって、この世界ではすごく有名なお話なのかな?
『たくさんの えんだんがきました。おうさまと おうひさまは おひめさまを しあわせにしてくれるひとを えらぶために おひねさまの 』
「『おひめさま』です」
クリスさんから、発音訂正入りました......
『おひめさまの あにの ふたりのおうじさまに きゅ・・きゅぅ、きゅこ』
『求婚者』
旦那様から、読めない字の指導入りました......
『きゅうこんしやたちの・・・』
『きゅうこんしゃ』
『きゅうこんしゃたちの すじょうを しらべさせました』
訂正ばかりで、話が進みません
『ちょうなんが むかったさきは こくないの ゆうりょくきぞくの あとつぎ。』
"長男が向かった先は国内の有力貴族の跡継ぎ"ってことか
王様と王妃様の長男って、王太子様とかってことかな?
『きゅうこんしゃは いいました "わたしが ひめを めとったならば すきなものを なんでもかってあげます。ひめには まいにち あそんで くらして もらいます"』
"私が姫を娶ったならば、好きなものを何でも買ってあげます。姫には毎日遊んで暮らしてもらいます"って、うわー、嫌な貴族だねっ
『ちょうなんは それを おひめさまに つたえました。すると おひめさまは "まいにち あそんでいたら することが なくなってしまうから いやです"と いやがりました』
うん、なかなか懸命なお姫様だね。
金さえ与えとけば良いとか思っているような貴族の嫁は嫌だよねっ
『じなんが むかったさきは りんごくの おうたいしさま』
"次男が向かった先は隣国の王太子様"ね。
『おうたいしさま は いいました "ひめが わたしのもとに とついでくださったら りょうこくの きずなは ますます つよくなるでしょう"』
なるほど、政略結婚だね。
『じなんは それを おひめさまに つたえました。すると おひめさまは "わたくしは おとうさまと おかあさまの そばを はなれたく ありません"』
他国には嫁に行きたくないって事かな
『けっきょく、ひめは こいびとの このえきしと けっこんしました』
"結局、姫は恋人の近衛騎士と結婚しました"
・・・はあ!?
恋人居たんかい!!
ひょっとして王様と王妃様、王子様方って、お姫様と近衛騎士を別れさせたかったの?
でも、こういう話って、"障害を乗り越えて二人は結ばれました。めでたしめでたし"パターンじゃないの?
しかも物語始まったばかりなのに、もう結婚しちゃったよ? しかも、結構あっさりと。
「リィナ、もう遅いので、今日はここまでにしましょう」
「はい。わかりました」
話の続き・・・ちよっと気になりますが。
また明日、読ませてくれるかしら
「では、失礼します」
「おやすみなさい、リィナ」
「はい。おやすみなさい、クリスさん。おやすみなさい、旦那様」
「おやすみ」
パタン-----------
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リィナが部屋からでて、少したった頃、シオンがリィナの読んでいた絵本をペラペラとめくっていた
「どうしました? シオン様」
「いや、なつかしいな と思って」
「そうですね。昔は毎日のように聞かされていましたからね」
そう言って、クリスが苦笑する
「絵本ってのは、容赦がないな。結局、王女が隣国へ嫁がなかったから、戦争が起きた」
「そのことで、王家を責める国民が居ないことが、せめてもの救いですけどね」
「さっき、リィナがなんか微妙な顔をしていたな」
「ああ、きっと"恋人の近衛騎士"ってところでしょうね。彼女の国では政略結婚をする者は多くは居ないでしょうから」
「なるほど」
「私たちの感覚からすると、恋愛結婚の方が厄介ですけどね」
「まったくだな」
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旦那様の執務室を出て、部屋へ帰る途中・・・迷子になりました
たしかに、いつもクリスさんに部屋まで送り迎えしてもらってますけど
まさか迷うとは・・・
ええっと、いちど執務室に戻ったほうがいいかな
・・・
しっ執務室への戻り方がわかんないなんて事、ないんだからねっ
た・・・ただ、戻ったら、迷惑かなって思ってるだけなんだからねっ
カタン
っつ!!
背後から音がして、びっくりして振り返ると・・・
あ、メイドさんだ
『あ・・・・・・』
「・・・・・・」
気まずい
今日クリスさんが言っていたことが頭に浮かぶ
"まだ言葉が通じませんからね。第一印象で苦手意識を持たれたら、お互い気まずいでしょう?"
話しかけていいのか、いけないのか
でもこのままでは部屋に戻れない
よしっ
『あ、あの!』
"迷ってしまって"と言いたいが、あいにくまだ"迷う"という単語を知らない・・・
『わたしの部屋・・・どこに・・・』
自分でも情けなくなるくらい、片言だけど、伝わるかしら
きょとんとしていたメイドさんが何かしゃべる
『ああ、♖✈❀✰✡✤✷✿☺☾なの?』
ごめんなさい、最初と最後しかわかりませんっ
無言の私に気を悪くするでもなく、私の手をとって、足早に引っ張っていくメイドさん
そうこうしているうちに、見慣れたフロアにたどり着いた
『ここでしょ?』
今度は聞き取れた。そして、間違いなく、ここは私が使わせてもらっている部屋で。
ああ~、よかった
私のほっとした雰囲気を感じたのか、メイドさんはにっこり笑ってから、立ち去ろうとする
『あっ、あの。どうもありがとう』
急いでお礼をいうと、メイドさんは立ち止まり、振り返って言った
『どういたしまして。私はナンシーよ』
『わたしは、リィナです』
『リィナ、勉強✍❂♔◎ってね』
『ありがとう』
何言ってるか、ちょっとわからなかったけど、きっと"勉強がんばって"って言ってくれたんだと思う。
メイドさん改めナンシーさんは、ニコニコ笑顔で小さく手を振りながら、戻っていった。
そして私は、いつものとおりシャワーを浴び、今日も早々に寝ることにした
メイドさんと遭遇しました。
ちゃんと挨拶できて、よかったね。




