9 この国の事5
朝食を終えて、お屋敷に戻ってきました。
眼科へ行くときは、コンタクトをしていなかったし、ぼんやりとしか見えてなかったこのお屋敷の外観は、かなり大きな『豪邸』でした。
まず、王宮正面から真っ直ぐ伸びた大通りの、突き当たりにある。
つまり、お向かいが王宮。
まあ、大通りの長さ(?)が結構あるので、向かい側といっても、かなり遠いのですが・・・
もちろんお屋敷の大きさは、王宮に比べたら比べ物にならないのですが、少なくとも周りのお屋敷と比べると、一番大きいと言っても過言ではないくらいです。
旦那様は、ひょっとして、結構偉いのか、またはお金持ちだったりするのかもしれませんねえ・・・
ただ、王都の中心地にあるせいか、建物に比べて庭が小さいのがちょっと残念です。
でも、きれいに整えられた前庭には、おそらく、きっと、何かの花が咲くのだろうなという感じ・・・
・・・近くで観察でもしなければ、何の植木なのか、わからないです。
バラかな?バラっぽいな・・・
今度、クリスさんにでも聞いてみよっと。
ともあれ、視力がよくなったし、食べ物の心配も少しはなくなりました。あとは語学ですね!
さあ、すぐにでも勉強を!
と思っていたら、『写真を撮る』って。
そういえば、身分証明書用の写真を撮るって言ってましたね・・・忘れてました。
写真を撮り終わったら、旦那様に呼ばれました。
もちろん、クリスさんも一緒です。
執務室と呼ばれる、初めて入る部屋へ通されました。
大きなデスクが2つと、小さめの応接セットがあり、テーブルの上にも書類が置いてある。
あきらかに『仕事中』という感じのところに入っていったので、なんだか居心地が悪いです。
旦那様の仕事、大変そうな事を聞いたばかりだし。
「すまない、そこにある書類に目を通しておいてくれ」
旦那様が私にそう言うと、クリスさんが応接セットに案内しくれて、ソファでお茶を入れてくれた。
クリスさんはそのまま、旦那様の机に向かい、仕事の手伝いを始めたので、私はテーブルにおいてあった書類に目を通す・・・
ふむふむ・・・居住連絡届?
自分が異世界にいることを知らせたい人に、連絡をとってくれるんだ
へぇ~
ちょっと親切
ん ?・・・いや、まて。いきなり異世界に呼び出されるのが、親切なわけないじゃんっ
そういえば、"勝手に呼び出した訳ではない"って言ってたけど
どういう意味だろう。
そのうち教えてもらえるかしら
とりあえず、両親に連絡してもらおう
3年間も帰れないなら、アパートも引き払ってもらった方がいいし、
職場や友人にも連絡してくれるだろうし
職場・・・職場かあ。もう戻れないだろうな。忙しかったけど、それなりに楽しいこともあったけど。
なんか、こんな急に辞めることになるとは思いもしなかったな------
何で私、こんなところにいるんだろう・・・
・・・ハァ-------------
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盛大なため息が聞こえて、シオンは思わず書類から顔を上げた
隣を見ると、クリスも顔を上げて、莉奈を見ている・・・
まずいかな
召喚主は、召喚者の"心のケア"にも、気を配らなければならない。
呼びたくて呼んだ訳ではないのだが・・・それを言ったら、呼ばれたくて呼ばれた訳ではない彼女は、こちらよりも、もっといい迷惑だと思っているだろう。
・・・そういえば、昨日から、まともに話をしていない
クリスに任せっぱなしだった
やっぱりまずいよな
「クリス、午後からの王宮での報告だが・・・」
「そうですね、私が行ってきます」
クリスが"心得ている"とばかりに、うなずいてくる
こちらの意図を正確に読める、優秀な家令で助かる。まあ、性格にはやや問題があるが・・・
これで、午後から時間ができた
色々話をしなければならないだろう・・・ため息の理由も、聞ければ聞いたほうがいい。
正直気が重い。年上の女性をどう扱ったら良いかとか、考えるだけで面倒くさい
シオンは自分もため息をつきたくなり、あわてて口を押さえた
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『居住連絡届』を書き終わったくらいに、旦那様がソファに移動してきた。
その後ろにクリスさんが立つ
「手術はどうだった」
いきなり手術の話ですか!?
「あっという間に終わって、びっくりしました。すごいですね、こちらの世界」
「そうか。街はどうだった?」
「馬車で見ただけですが、すごくきれいな街ですね」
「この国自慢の王都だからな」
ふふっ
なんだか誇らしそうに、うれしそうな笑顔で言う旦那様を見て、つい笑ってしまった
「なんだ?」
「いえ、すみません。さっきクリスさんも同じことを言っていたので、つい」
・・・本当は"かわいかったので、つい"なのだが、"かわいい"とか言われるの嫌かもしれないので、クリスさんをダシにつかう。
旦那様は、『そうか』と言って、クリスさんをチラッと見た
「そうだ、お前の呼び名を決めなきゃならないんだが」
なにかあるか?
と聞かれても・・・?
「なにかとは ?」
「向こうでは、何て呼ばれていた ?」
「あだ名とかですか ?・・・りな、りなさん、りなちゃん・・・ですが」
「・・・それは、あだ名では無いだろう」
旦那様は、少し渋い顔をしている
別に、"りな"と呼んでもらってかまわないのだけど・・・と言うと
「・・・いや、本名はまずい。多少なりとも変えるべきだ」
「はあ」
なんで本名がまずいのか、さっぱりわかりません
でも、まあ、郷に入っては郷に従えってことわざもあるか
「好きに呼んでもらって、かまいませんよ」
あれ ? わたしずっと前にも同じこと言った覚えがあるな・・・
なんか、急に思い出しました
「そういえば、昔、"リィナ"と呼ばれていたことがありました」
・・・元彼にですけどね
「"リィナ"ですか。それは、かわいらしいですね」
クリスさんが、そんなことを言ってくれる
「・・・リィナか。うん、それにしよう」
旦那様も同意する。
うーん、まあ、元彼に嫌な思い出があるわけではないので、まあいいか。
というか、リナもリィナもあまり変わらないんじゃ・・・いえ、何でもありません。
「じゃあ、今日からリィナと名乗るように。屋敷の中でも、外でもだ」
「わかりました」
「じゃあ、早速だがリィナ。今日は少し時間をとるので、召喚の事と、この国の事を説明しようと思う」
「はい」
「シオン様、先ほどリィナさんに、この国の医療や技術力が高いという事を、少しだけお話しました」
「そうか、他には ?」
「この国が王制だということと、王妃様の支持が高いということを・・・」
「・・・そうか」
あれ ? なんだか旦那様は渋い顔をされています
「王妃様は、人気者なんですか ?」
「・・・」
ますます渋い顔をされています
「まあ、国民の支持は高い」
「はあ」
「・・・たまに、厄介なだけだ」
いいんですか ? 自国の王妃様を厄介者扱いして
「少し、この国の歴史を話そうか」
そう言って、旦那様はクリスさんにもソファに座るように促す
「この国は、25年程前まで、戦争中だったんだ」
「えっ ?」
びっくりですっ。戦争してたの ? 20年前なんて・・・
「そちらの国では、戦後、半世紀以上たって、戦争の記憶自体が風化されていると聞いているが、こちらはまだ20年だからな、風化するにはまだ時間がかかるだろう」
「・・・わたしは幼かったですが、戦時中を良く覚えていますよ」
クリスさんが、寂しげな顔でそう言う
彼は私と同い年と言っていた・・・5才ぐらいだったのだろう。
「幸いというか、この国が勝利した。相手国は第3王子を人質として、受け渡した」
人質・・・
「その人質の妻になったのが、現在の王妃だ」
「・・・ごめんなさい、意味がわかりません」
王妃というのは、王の妻では ?
何で他国の王子の妻になった人が、王妃なんですか・・・
「ああ、説明が足りなかったな、すまない。その王子はもう亡くなっている」
「王子の死後、現在の王様の後妻となられたのですよ」
ああ、なるほど
「もう亡くなったとはいえ敵国の王子と結ばれていた王妃は、平和の象徴なんだ」
「そうなんですか・・・それで、厄介というのは ?」
今の話で、何が厄介なのかが全くわからない
「彼女は、良くも悪くも『女王様』な性格をしているんだ。普段は王妃として威厳のある申し分の無い振る舞いをしているが、たまに・・・それが裏目に出る」
「・・・つまり?」
「・・・自己中心的で、周りを振り回す、巻き込む、挙句に自分は知らん顔する、あとは」
「もっ、もういいですっ」
「・・・そうだな、私もあまり、王妃の話はしたくない」
旦那様がなんだか疲れたような顔でそうつぶやきました。
なんだか、すごい王妃様みたいです
振り回して巻き込んで知らん顔するのか・・・平和の象徴が。
すごいなあ
この時はまさか、その王妃様に自分も振り回される日が来るとは、全く思いもしませんでした・・・
今後は呼び名が『リィナ』になります
シオンサイドをやっと書けました(短かったけど)
シオンの一人称は今のところ『私』です




