95 とある王国の事情16
「ああ、そういえば申請があったようだな……お前聞いてなかったのか?」
セリーヌさんのカミングアウト(?)後、混乱を極めた私たちでしたが、みんな休憩時間終了と言うことで、詳しく聞く暇もなくお開きに。
私はシオン様のお部屋に戻ったのですが、もう既に他の皆様は解散していたので、シオン様が何か聞いていないか問いただした所、そんなお答えが。
「聞いてませんでした。」
「そうか。」
「どうして残る事にしたのか、何か聞いてますか?」
「まあ、理由は書いてあったが……そういう事は自分で聞いた方がいいぞ。友人なんだろう?」
「……そうですよね。」
そりゃもっともですね。
……それにしてもびっくりです。
確かに制度としては『移民』もあると聞いていますが、『帰らない』という決断は並大抵の事では無いと思うのです。
とにかく、詳しく話を聞かなければ!王宮組だけでなく、みんな話を聞きたいはず!ということで、とりあえず……
「異世界カフェに行くので、外出許可下さい!」
「ハヤテ殿下達が帰ってからな」
くぅ!早く帰ってくれ!
私の願いが届いたのか、ハヤテ殿下達の帰国が来週に決まりました。何だかんだで1ヶ月近く居ましたね。
マサキ殿下は一度帰って、またすぐに来るそうです。
「戻ってきたら、シオンの屋敷に遊びに行くね~」
「来るな。」
「そんなこと言わないでよ。リィナちゃんにも会いたいし!」
「……私にとっては職場ですので、遊びに来られても困ります。」
マサキ様はなんというか……面白い方です。
たぶん、全部わかっていての発言なんですよ。遊びに行くって言ったら「来るな」って言われるのも、「困る」って言われるのも。
たぶん、無邪気さを装うことで相手の印象を操作している感じがします。
シオン様はいつも難しい顔をして侮られないようにしているし、マサキ様は何も考えいないような、頭悪そうな言動で、シオン様とは逆に侮られるようにしているみたいです。
クリスさんやユーリ様は「何考えてるのか判らない笑顔」で煙にまいてる感じですね。見た人が深読みするの待ち?な感じです。
王族って大変だなぁ。
と、しみじみしていたら、マサキ様に苦笑いされました。あら、考えてる事バレましたかね。
そしてあっという間に茶国ご一行様の帰国の日。
この1週間、お別れの夜会だのお茶会だの盛りだくさんでしたが、ほぼ不参加の私は実に暇な時間を過ごしました。もうね、アリッサへのプレゼントを作り終わりましたよ!ダリア様の侍女をしている元同僚のお嬢様たちに出来映えを見てもらったら、合格を頂きました!ええ、4回作り直しての合格ですが、何か?
さて、私はいま、お見送りの為に主居棟の馬車止めに来ています。
陛下と王妃様とユーリ様とダリア様は、謁見の間で正式なご挨拶をしたそうなので、ここに居るのは、シオン様とクリスさんとナンシーと私、少し離れてウィルさん。
「お気をつけて」
「ありがとう」
そう言って握手をするハヤテ殿下とシオン様ですが……なぜか、手を離しません。
「ハヤテさん?」
困惑気味のシオン様が手を引こうと引っ張るのですが、ハヤテ殿下はギュッと握っているみたいで……さすがに振り払う訳には行かないでしょうしね。
「シオン」
「……はい」
「遠慮せずに、全員分持っていきなさい」
持っていく?何を?
意味が分からず、キョトンとして周りを見渡すと、クリスさんを始め、みんな驚いています。あれ、これはまたいつもの私だけ知らないパターンですね。
「ハヤテさん……それは」
「大切なモノを守る為に何かを捨てる決意というのは、一見立派な行為に見えるかもしれない、私の友人のようにね。でもその時になって後悔するまえに対策を立てる事も出来るはずだよ」
ハヤテさんの言う“私の友人”というのは、眠ってるウィリアムさんの事でしょうか。
「守るための手段を一つでも多く揃えておきなさい。……まぁ、付け入る隙を与えないのが一番だけれどね。」
なんだかよく分かりませんが、シオン様はハヤテ様のお話を聞いたあと、黙って一度頷きました。
本当に何のやり取りだったのかよく分からないんですが・・・誰かあとで説明してくれるかな。聞いてもいいのかな。聞かないほうが良かったりするのかな。
そしてハヤテ様は次にクリスさんとお別れの挨拶をし、シオン様はシュウ君(なんかシュウ様って言い辛いんだよね)と握手しています。なるほど、順番に握手していくんですね。私は4番目ですかね。
ナンシーさんと握手したハヤテ様が、私の前に移動してきました。
「元気でね、リィナさん」
そう言って握手を
「はい。ハヤテ様もお元気で」
「もし帰還までに気が向いたら、茶国に遊びに来ると良い。歓迎するよ」
それは、微妙ですね。行ったら最後、そのままこの国に帰って来れなくなったりしませんかね。
「大丈夫、もう無理な勧誘はしないから。今の貴女を見たら分かったよ。きっと本来の貴女は少し慎重過ぎるほど思慮深い人のようだからね。・・・どうか、シオンを頼むよ。」
そう言うと、ハヤテ様は私と握手し、馬車に乗り込んでいきました。
・・・頼まれてもね、何をすればいいんでしょうね。
続いて、シュウ君が来ました。
「シュウ様、お元気で」
「ん」
シュウ君と握手。そして、左手に持った包みを差し出されました。
「やるっ」
「ありがとうございます」
何だろう、いま開けた方がいいのかな?包みを開けてみると・・・ブローチみたいです。
仲直りのしるしですかね、真ん中にキャッツアイのはまった、綺麗なブローチ。いいのかな、こんなもの戴いて。
そうこうしている内に、マサキ様がナンシーとの挨拶を終えて来ました。
「なになに?・・・へぇー、シュウってば大人になっちゃって」
「うるさいっ」
若い叔父さんは甥っ子の頭を突いたりしてからかってます。あーあー、シュウ君真っ赤になっちゃって、可哀想ですよイジメしゃ。
「い、いやだったら、着けなくても・・・いい、けど」
からかわれたからか、ちょっと半泣き気味のシュウ君。
「とても綺麗なブローチですね、シュウ様ありがとうございます、大切にしますね。・・・マサキ様もお気をつけて」
「うん、またねリィナちゃん。今度は茶国のお土産、持ってくるからね」
「はい、楽しみにしています」
マサキ様はシュウ君を抱えて馬車に乗り込みました。
「リィナ殿」
「サクラ様。道中、お気をつけて」
「うん・・・シュウのブローチだが」
「はい?」
「できれば今、身につけて欲しいんだが」
「はい、わかりました・・・これでいいですか?」
「・・・うん、大丈夫のようだ。実はそのブローチには少々細工がしてあってな」
「え?」
「そのうち役に立つかもしれない。だから、できるだけ身につけておいてくれ。じゃあな」
「え、あの、な・・・」
細工!?細工って何!?何がされているんですか!?何の役に立つんですか!?
馬車に乗り込むサクラ様に手を伸ばしたまま、口をパクパクあけていると、アカリ様が来ました。
伸ばしたままの手をキュッと握られ、すぐに離されました・・・え、握手終わり?
「大丈夫よ。シュウの側にはハヤテお兄様がいるし、この国にはマサキお兄様がまた来るのだから、そうそう悪用はされないわ」
「あ、悪用!?」
「だから大丈夫だって。気になるなら、あとでシオン様にでも聞いてみなさい。」
「はぁ・・・わかりました」
「私はね、お兄様たちほど心配はしていないわ。だって貴女は『桐城』なんでしょ?ハヤテお兄様は逆にそれで心配してるみたいだけど・・・まぁ、がんばってね」
そう言ってさっさと馬車に乗るサクラ様。
全員乗り終わると、しばらくして馬車が動き出しました。
シュウ君とサクラ様が手を振ってくれました・・・手の振り方も王族ですね、さすがです。
「ねぇ、リィナ」
「何?ナンシー」
「“とうじょう”って何?」
「・・・私の父方の苗字です」
「そうなの?なんでサクラ様が知ってるの?」
さぁ、なんでですかねぇ・・・っと、それはともかく!
「シオン様っ!これっ!シュウ君に貰ったんですが、これなんですか?」
おっと、ついシュウ君って言っちゃったよ。不敬ですよね、すみません。
着けたばかりのブローチを外して、シオン様に見せました。シオン様はそれを手にとって・・・
「どれ・・・ああ、これは・・・その・・・たぶん」
「はい?」
「・・・検証してから渡す。クリス、預かっててくれ」
「はいシオン様」
なんだか色々うやむやなまま、とりあえず茶国ご一行様は帰って行きました。
そしてその翌日、私とナンシーはやっと元の年齢に戻れたのでした。はぁーやれやれ。
リィナの苗字とかシュウ君のブローチとかは、次回。
たぶん小話集みたいな感じで色々目線で書こうと思います。




