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二人きりの旅

死神は北にあるノンスウェルの方角を指で示した。


「ノンスウェル地方って言ったら辺境もいいとこの場所だな。ああ、あんたの術でひょいっと連れてってくれるわけね。」


「何を言っておる。そうそう術法は使えん。お前さんをここまで運んでくるのにも相当使ったんじゃからな。北に向かって歩いて行けば町があるじゃろ。そこで馬車でも借りるがよい。」


「そうしたいのは山々なんだけどさ。大体俺がゲインツァに雇われていたのも金が無いからでだな。それに北の辺境にこんな服装で行ったら寒くって凍えちまうよ。宿賃すらないんだぜ。」


「安心せい。ゾンビとなったお前さんは多少の気温の低下なら支障はない。寒さをあまり感じなくなっておる。凍ってしまえばどうしようもないが常に動いていれば大丈夫じゃろう。」


「ほんとかよ…。」


ジェイルの服装は布で織られた長袖の上服に、いくつかポケットのついているダボついたタイプのズボン、そして革製のブーツだった。到底、北の凍える大地では通用しそうにない服装である。

お金が無いのが心配であったが北に進んで行けば途中町があるそうなのでそこでまた仕事を探せばいいと考え死神とともにノンスウェルを目指すこととなった。


石台のあった草原の丘から低地へ下ったところで彼は死神にまた声を掛けた。


「そうそうあれからゲインツァの野郎はどうなったんだ?あいつ放っておいたら何しでかすか分かんねえだろう。それに借りもある。奴には一発くれてやらねえと気がすまねえ。」


と、隣で浮遊していた死神の顔を見るとまたあの人間の老婆の顔に戻っていた。

先程剥がした老婆のマスクをずっと手に持っていてそれをいつの間にかお面のようにピッタリ取り付けたらしい。


「この顔の方がなにかと人間に馴染みよい。ゲインツァとかいう奴はもうあの場所からとっくに消えたようじゃよ。気配がない。」


「なんだって!?」


「お前さんの他にもう一人いたじゃろ?あやつが何かしたようじゃな。詳しいことは知らんがの。」


「あいつか。今思えばあのサムライはそんなに悪い奴じゃなかったな。なにかと融通も聞いてくれたし。ちょっとだけあの森に戻ってみてもいいかな?」


「駄目じゃ。神水の効果も永久に続くとは限らん。今は早急に元に戻ることに専念した方がよいぞ。」


「ちぇっ…。」


いつか一矢報いることを内に秘め、彼は湧き上がる怒りの黒い炎をなんとか小さく抑えた。


周囲の草原は大変見晴らしがよく随分遠くの景色まで見通すことができる。離れた場所に雑草の連なりが途切れた道らしき一本線が見えたためとりあえずそこに向かった。

煮え湯を飲まされた例のあの森らしきところはいくら視野を広げて見ても目に入ることはなかった。かなり遠くまで死神によって運ばれたようだ。サムライがどうなったかやはりジェイルは気に掛けていた。


てくてく歩くいていくとやがて先程見えていた小道へと辿り着いた。幸い北の方面へと繋がる道であったが途方もなく続いているのが眼前のなにもかも取り払ったような地平線でよくわかる。


頭上の真上に昇っていた太陽がおもしろいように傾いていき、所々、石が転がり落ちている雑な小道を歩いてかなりの時間が経過。そして彼はある事に気付いた。腹の虫が少しも鳴き声を立てない。


「そういえばここに来てなんにも口にしてないんだけど全然空腹感が来ないんだが…。」


相変わらず浮遊しながら何を考えているのか分からない死神は物静かに呼応する。


「まあ死んどると同じ状態じゃからの。死人がいくら動こうがエネルギーは消費せん。そもそもエネルギーが無いんじゃからな屍には…。もっとも魔物のアンデットだと話が別じゃがの。」


「あっそうなの。さっきも言ったけどなかなか便利でもあるよなゾンビってのは。まあ自我を保っていられればこそだけどさ。」


「まあそうなるのう。」


永遠に続くような錯覚すら感じずにはいられない途方もない一本道を、意思を持ったゾンビと変装した死神というおかしなコンビがひたすら旅をする。


やがて日が沈み夜を迎えた。道から少し外れて地面に口を開けた小さな窪みにジェイルは腰を下ろした。


「この辺でゆっくりしようぜ。また明日朝一で出発するよ。それにしても食料の心配をしなくていいからこりゃぐっすり眠れるな。」


「そうは言ってもあやつらがおとなしくしておればよいがの…。」


「ん!?」


なにやら闇に乗じて複数の何者かが向こうの方からゆらゆらと近づいてきていた。彼等は光を灯し大きな岩のそばで次々と腰を下ろした。しばらくして寝静まった小動物を叩き起こすかのごとく彼等のバカ騒ぎ声が響きに響いた。どうやらガラの悪い野盗の集団のようであった。


「う、うるせー。こんな状態じゃゆっくり寝つけねぇよ。ったくめんどうなことにならなければいいがな。」


ジェイルの場所からは少し離れてはいるものの下手に立ち上がったりしたならば完全に目視できない距離でもない。皮肉にも欠けた月明かりがここに一人獲物がいるよ、と伝えているようにも思えた。


「ちょっと死神婆さん、あいつらなんとかできねぇかな?幻術かなんかで軽く眠らせるとかさ。」


「お前さんにもしものことがあれば手を貸すがその時まではそうそう力を使えんよ。あやつらがうまく寝付くまでの辛抱じゃな。」


とは言っているものの彼等は一向に騒ぎを静める様子がない。そればかりか酒が入ったおかげでテンションが軌道に乗りつつある。


「いやー、今日のあのバカ親父の面見たかよ!」


「ぎゃははははは!あれは傑作だったなオイ!」


「金目の物は全てやる。だから命だけはお助けくだされ、わしには家族が・・・・なんてみっともねぇ面で言いやがるからよ〈わかった、そこまで言うなら許してやる〉つったら一瞬安心したような面しやがるからムカついてすぐぶっ刺してやったよ。その後の奴の顔っつったらこりゃ大笑いだったぜ!」


「まったくだ!しかしお前はやりかたがエグいエグい。どうせ殺るんだったらもっと安心させて俺等が去ると見せかけてからぶっ刺しゃあいいのによ!奴にもっと安心の時間を与えてやれよ!」


「てめーの非道さには敵わねえよ!」


「がっーはっはっはっはっ!」


なるべく気配を消し頭に腕を組みながら寝そべって夜空を見上げるジェイル。


「うるさい上にとんでもねぇ野郎共だな。」


やがて野盗の一人が用を足そうと立ち上がった。月の光で暗闇が和らいではいるがこの窪みは彼等のいる場所から少し死角になっている。と、思ったが堂々と浮遊していた死神が暗がりに写し出されていた。


「あーん?なんだありゃ?」

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