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落とした仮面

まるで顔に貼り付いたシールでも引き剥がすかのように老婆は問答無用で顔の皮膚をもぎ取っていった。

老婆の唐突な奇行に、驚きと心配が入り交じり声を荒らげずにはいられない。


「わかったからもうやめろ!」


そして剥がしきった皮膚のしたから現れたのは所々黒くくすんだ肉がついていない純粋なドクロの素顔であった。漆黒のローブから骸骨の顔が覗いているその姿を垣間見て誰しもが連想するだろう……死神だと。


「これがわしの正体。お前さんと同じアンデッドと呼ばれる種族さ。人間には死神なんて呼ばれているがの。まあ実際大差ないんだけどね。よし、では話の続きさ。よくお聞き。」


開いた口が塞がらない彼の感情などお構いなしに勝手に話を推し進めるドクロ婆さん。下顎がシャカシャカ音を立てながら上下し、これまで通り言葉を発しているその姿は不気味以外のなにものでもない。


「待て待て待て、まだ頭の整理がつかねえよ!いきなり現れて顔を剥がして自分は死神でしたなんて言われてもよ。要は魔物と似たような類ってことだろう?それにしてもやけにフレンドリーな死神だな。びっくりの連続でなにがなにやら・・・」


「お前さんが驚くのも無理はないね。ゾンビ化してしまったんだからね。」


「いやそのことじゃなくて・・・・・え!今なんて!?」


「神水を飲んでいたおかげで自我を失わずに済んだみたいだけどね。」


ドクロ婆さんは事の真相を話してくれた。彼女?によれば、ゲインツァの言っていたように栄養ドリンクを飲まされたジェイルはゾンビ化してしまったらしい。だが彼が以前口にした「天使の神水」の一度死んでも生き返るという効力により意識までは侵されておらずゾンビではあるが通常の人間としての行動は可能とのこと。普通はあのドリンクを飲んでしまった時点で自我を失ったさまよえるゾンビと化す予定だったとか。


ちなみに「天使の神水」のおかげでゾンビとなっても自我を保っていられるため本来の蘇生効果はこれでチャラになったとドクロ婆さんは話す。


「マジかよ・・・俺がゾンビ・・・・。せっかくの神水の効果も失っちまったってのかこれで・・・。

いや、あれがあったからこそ、とここは考えるべきか。」


今までとなんら遜色ない手の平を見つめ何度もグッと握ったり開いたりしてみる。とても信じられなかった。


「でもさぁ、ゾンビって言ったって自分を自覚できるんだから普段と変わりないような気がするけどな。体も今のところ至って普通だぜ?」


腰を下ろしていた石台から飛び跳ね、付近を小走りで走ってみる。足も己れの意思通り問題なく動くことを確かめた。


「全然大丈夫じゃん。アンデッドってことは死んだまま甦ったってことだからむしろこのままのほうが好都合とさえ思えてきたんだが…。」


「随分楽観的な奴じゃ。だが事はかなり深刻だと思うがの。よいか、ゾンビ化したということは自己修復機能が働いていない。すなわち傷を負ったとしても回復ができんということじゃ。しばらくは問題ないじゃろうが後々傷口が腐って肉が落ち、最後にはわしのように骨だけの存在に成り果ててしまうぞい。」


「そ、それはさすがに困るな…」


そう言われて自分とドクロ婆さんのドクロ顔を置き換えて考えてみたとき、彼は首筋の変な寒気を心底感じた。


「じゃが安心せい、そのためにわしがおるのだからな。わしが操るのは冥府の術法。通常の回復魔法ではできんゾンビとなったお前さんの傷を再生させる術を持っておる。」


「ホントか!さすがは死神!」


「喜ぶのはまだ早いぞい。お前さんを元の人間にすら戻す方法も知っておる。これはお前さん自身がある段階を踏まねば成立せんがな。」


「元に戻る!?そんなことまでできるのかよ!もはや死神と呼ぶには失礼に値するな。」


あまりの朗報にゾンビになったことなどすっかり忘れ、有頂天になってしまったジェイルであったが、ふと辺りに広がる風吹く草原の揺らぎを目にしハッと我に返った。


いくらなんでも都合が良すぎる話でもある。死神が自分を手助けするメリットなんてあるのだろうか。彼は尋ねてみた。


「今更だが助けてくれたことに関しては礼を言っとくよ。だけど冷静になって考えてみて、なんで俺にそこまで肩入れするんだ?俺がゾンビになってあんたの仲間入りしたからなのか?じゃなければ交換条件として魂を捧げよなんて最後になって言うんじゃないだろうな?」


「本来ならば魂をいただくのじゃがな。」


「!?」


「いや、冗談じゃ。だが交換条件ということについてはあながち間違いではないぞい。実はわし本来の目的は冥界に帰ること、なんじゃが厄介なことに天使共がゲートを封鎖してしまってな。これを解くにはお前さんの協力が必要なんじゃよ。」


「冥界だと!?噂には聞いたことがあったが本当にあるんだな…。なるほど、あんたの目的はわかった。俺もあんたの助言無しでは元に戻れないし協力はする方向でいるけど人間である俺にできることなんてしれてると思うぜ。おっと今はゾンビだっけか。」


「さっきも言ったがお前さんが元に戻るにはいろいろ段階を踏まねばならん。その過程でわしが冥界に戻るキッカケとなる副産物がいろいろあるんじゃよ。」


「副産物?」


「まずは第一段階じゃ。お前さんの体に一度バンパイアの血を流す必要がある。ではさっそく行くとするかの。向かうは北の辺境ノンスウェル地方じゃ。」

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