簡単なお仕事
「よしわかった。その話乗せてもらうぜ!…で、仕事内容はなんなんだ?」
「なぁに簡単さ。ある倉庫の見張り番をしてもらいたい。ここで話すのもなんだから歩きながら話そうか。」
ギルドを後にし外へ出るとゲインツァという男は詳しい仕事内容を話し始めた。彼が言うには町のはずれにある森の中に建てられたある食料備蓄倉庫の見張りを夜通しでしてもらいたいのだという。もちろん報酬は終えたその日のうちに貰えるらしい。
「倉庫の見張り番か…でもなんだって見張りを?お宝が保管されているわけでもないし頑丈な鍵さえ掛けておけば大丈夫な気もするんだがな。」
「まあ普段はそうなんだが、最近アサッテとか言う妙な盗賊団がこの近辺に出没しているらしくてな。奴等に大事な倉庫を荒らされては敵わん。」
「なるほど…」
日没が近いため二人は松明を片手に森の中にある倉庫を目指しスタスタと歩いていった。
倉庫に着くとジェイルとゲインツァの他にもう一人の男が立っていた。どうやらジェイルと同じくゲインツァがスカウトした見張り番らしい。仕事仲間というわけだ。
「彼も君と同じくこの倉庫の見張り番として俺が雇った者だ。まあ仲良くやってくれ。」
男は東の国伝承であるジェイルにとっては珍しい刀を装備していた。どうやらサムライらしい。
備蓄倉庫の横には簡易ベッドが備え付けられた二階建ての小屋が設置されておりここで軽い休息を取りつつ交代しながら見張り番をしてもらうようだ。
「ベッドは自由に使ってもらって構わないぜ。それと棚の中に乾燥果実の保存食があるから腹の足しにでもしてくれ。」
「そうそう、これを忘れていたんだ。」
ゲインツァはポケットの膨らみから褐色の小瓶を取り出した。
「栄養ドリンクだ。元気がみなぎるぜ!こいつでなんとか眠い夜を頑張ってくんな。俺はこの部屋の二階にいるからもし盗賊を捕まえるようなことがあったら声を掛けてくれ。まだ仕事が残ってるんでな。」
栄養ドリンクをジェイルに手渡すとゲインツァは二階へと上がっていった。
とりあえず挨拶ぐらいは…と、共に任務をこなす刀を帯びた隣の男にジェイルは声を掛けた。
「俺はジェイルってんだ。まあよろしく頼むぜ。さっそくで悪いんだが先に休ませてもらってもいいかな?長旅で疲れちまってて…」
「来て早々泣き言とは呆れた奴だな。だがお主の流脈が少し乱れているのは事実か。足でまといにでもなられては厄介だ。休息を許可しよう。」
「すまねぇ。二時間眠ったらまた戻ってくるから。」
日が落ちて浅いこともあってまだ治安は悪化しないであろうと予想し、すごく勝手だがジェイルは少しの仮眠を取ることにした。
「ふぃ~。ちょっくら短い夢の頂へ昇天させてもらうぜ。そうそうゲインツァに貰った栄養ドリンクを先に飲んどくか。これで起きたときには元気ハツラツだな。」
瓶の蓋をはずしゴキュゴキュと一気に食道を通過させ胃に栄養を浴びせる。
「あまりうまくないな。」
空になった瓶をベッド脇の棚に置くとジェイルは目覚ましタイマーをセットし深い眠りへと落ちていった…。一方外では倉庫を囲む森から発せられる不穏な空気をもう一人の見張り番のサムライが察知していた。
「うむ…かすかに木々の影が乱れる気配を感じるな。野生の猛獣か、はたまた例の盗賊団とやらか…それとも…」
だがサムライの予想とは裏腹に何事もなく辺りの静けさはずっと続いた。
やがて二時間程経過しジェイルは目覚めた。
「ふぁ~。ちったぁ寝たぜ。だけどちょっくら頭がフラフラするな。」
棚に陳列してあった保存食を頬張ると彼は小屋から出てきた。
「どうやら変わりないようだな。」
「起きたのか。今のところ問題はない。」
「先に休んじまって悪かったな。交代だ。あんたは俺が来る前から見張っていたんだろう。」
「いや、俺はいい。」
「遠慮するなよ。あんたの分まで働いておいてやるからさ。寝ておいた方がいいぜ。」
サムライはずっと森の一点を見つめジェイルの言葉にもあまり関心を持たなかった。
それからさらに時が過ぎ去り夜空に浮かぶ月の傾きがかなりの時間経過を表わしていた真夜中頃。暗闇をジッと見定めていたサムライが突然声を上げた。