旅の途中から
世界中に散らばったお宝を求めて一人、旅を続ける青年ジェイル。
今回彼が旅の中継地点として立ち寄ったとある町を歩いていると見知らぬ老婆が突然声を掛けてきた。
「ちょいとそこの旅の若者よ、お待ちなさい!」
黒いローブを身に纏い水晶玉を手にしたその風貌からして老婆は占い師のようだった。
「なんだい婆さん?悪いが忙しいんだ。それに占ってもらう余裕があるほど今は金銭的にもまずい状況でね。」
そう、今彼の財布の中身は風前の灯で銅貨がたったの二枚。これは少量の薬草程度しか買えないほどの金額である。この町に来る旅の道中でほとんど使い果たしてしまっていたのであった。
「いやいや金は取らんよ。どうやらお前さんの顔には死相が出ているようでの。この先は気を付けなされよ。」
「死相だって!?」
つまり死が近日まで迫っているということなのか!?
老婆の思わぬ発言にびっくりしたジェイルだが占いの類をあまり信じないようにしている彼にとって、すぐさま聞き流すことは造作もなかった。
「死相ねぇ…。忠告はありがたいがそういうの俺はあまり信じる方じゃないんだ。まあでも婆さんも良かれと思って言ってくれたわけだし頭の片隅には入れとくぜ。じゃ!」
老婆はまだ何か言いたそうだったが今は急いで財布に余裕を持たせなければならない。でなければ今夜は食事なしの野宿になってしまう。せっかく町に来たのだから宿には泊まりたい。
ジェイルは早々に老婆の前から姿を消した。
それに彼は死をまったく恐れてなどいない。というのも彼は不老不死の一歩手前の秘薬とも言うべき
「天使の神水」を口にしており一度死んでも再び息を吹き返すことが可能なのだ。
この秘薬は彼等トレジャーハンターの間では結構有名な代物であった。
傾きかけた太陽がジェイルの背中をぐいぐい押してくる。必死で探し回り彼はなんとか町の仕事依頼所ギルドへと滑り込んだ。
受付でさっそく今日までに間に合う仕事があるか聞いてみた。
「残念ですが今日のお仕事はもう全て紹介済みなんです。明日からのお仕事でしたらそちらのリストで確認できますよ。」
「えー、そんなー!」
無理もなかった。特に短時間労働で当日に給料が手渡される仕事等は夕方の今の時間帯に残っているはずもない。仕方ないが今宵は野宿と、銅貨で食せる軽いおやつ程度の食事で手を打つしかない。
ジェイルは受付に勧められた明日から可能な仕事のリストを渋々眺めることにした。
「えっーと、明日からのは・・ネズミトカゲの駆除・・・スライダーフィッシュの捕獲・・・中流貴族のボディガード・・・・アサッテ盗賊団のアジトの偵察に・・・・魔術師クロヌイの新術被験者募集・・・等々か。」
「うーん、クロヌイは高額のうえ新術が拝めるっつー魅力があるがいかんせん体が耐えうるかどうか。盗賊団の方は長丁場になりそうだし、無難なのは貴族のボディーガードかなぁ…」
掲示板に貼り出されたリストの前で一人ブツブツ言葉を吐いていると隣のベンチに腰掛けていた男が立ち上がりこちらに話し掛けてきた。
「その腰に携えた剣。それなりに使い込んでるところを見るとあんたなかなか腕が立ちそうだな。」
タンクトップからはみ出るその男の筋骨は隆々としており見た目からしてこの男の方がやたらと腕が立つように見えるのはもはや明白である。
「今日は知らない連中からよく話し掛けられるな。あんたは?」
「俺はゲインツァ。今日中に払えるってわけにはいかないがそのリストに載ってる依頼よりかは早く金を手渡せる仕事があるぜ。簡素だが寝床もある。どうだ、引き受けてみないか?」
腕の立つ剣使いを求めているということはそれなりに危険が伴う仕事内容なのだろう。元々明日のボディーガードを視野に入れていたジェイルはさほど内容が変わらないと踏んであまり迷うことなくこの男の話に乗ることにした。ちなみにここ表ギルドは暗殺等の仕事依頼は御法度なので安心だ。