表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/130

81. 心にしみる失敗作

 エリナは復讐のために剣の修行ばかりしてきた。


 ミーシャは孤児院で料理当番はあったが、言葉巧みに男の子たちにやらせてばかりだった。


 ルナは魔法学院で寮暮らし。


 シエルに至っては公爵令嬢で、料理など習ったことがない。


 それでも――。


「レオンのために、ちゃんと作らなきゃ」


 ルナが、真剣な表情で言った。


 いつものツンデレ少女の面影はなく、ただ純粋に、大切な人を想う少女の顔がそこにあった。


「……そうね」


 エリナが頷く。


 その黒曜石の瞳には、ただ誰かを想う温かさが揺れる。


「レオンは、私たちのために命を懸けてくれた。今度は、私たちがレオンを支える番よ」


 ミーシャの言葉に、全員が頷いた。


「じゃあ……も、盛り付けだけでも頑張りましょ?」


 シエルが不安げな顔で、作り笑いを浮かべる。


 四人の少女たちは、不器用ながらも、精一杯の愛情を込めて――料理に向き合った。



    ◇



 コンコン。


 昼過ぎ――扉をノックする音が響いた。


「レオン……入るわよ」


 エリナの声だった。


 返事をする気力もないレオンを気にせず、扉がゆっくりと開く。


 そこには、少女たち四人が立っていた。


 皆、どこか不安そうな、それでいて決意に満ちた表情をしている。


「あの……お昼、作ったの」


 シエルが、遠慮がちに言う。


 その手には、木のお盆。その上には、簡単な料理が乗っていた。


 目を引いたのは――焦げた肉だった。


 真っ黒に焦げた、もはや炭に近い何か。


 そして、不器用にガタガタに切られた野菜の煮物。大きさがバラバラで、煮込み時間も怪しい微妙な見た目をしている。


 お世辞にも、美味しそうとは言えなかった。


「あ、あの……私たち、料理とか、あんまり得意じゃなくて……」


 ルナが、真っ赤な顔で言い訳する。


 いつもの勝ち気な表情はどこへやら、今は恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいの顔をしている。


「ごめんなさいね。もっと美味しく作れればよかったんだけど」


 ミーシャも、珍しく申し訳なさそうにうつむく。


 いつもの余裕ある笑みはなく、純粋に落ち込んでいるようだった。


「……食べなきゃ体に悪いわ。食べてよ?」


 エリナが、ぶっきらぼうに言った。


 その顔は、少し赤い。彼女なりに、精一杯の優しさを込めているのだろう。


 レオンは、ゆっくりと体を起こした。


 四人の少女たちを見る。


 皆、心配そうな、それでいて温かい眼差しを向けている。


 レオンの胸に、温かいものが込み上げてきた。


 ああ――。


 この子たちは僕のために不器用に、必死に。


 誰も料理なんてできないのに、それでも僕のために。


「……ありがとう」


 声が、震えた。


 お盆を受け取り、震える手でフォークを握る。


 焦げた肉を、口に運ぶ。


 硬い。


 そして、苦い。


 正直、料理としては失敗作だろう。


 だけど――。


「美味い……」


 涙が、こぼれた。


 こめられた気持ちが、嬉しくて。


 自分のことを想ってくれる人がいることが、嬉しくて。


 自分は一人じゃない。こんなにも、自分のことを想ってくれる仲間がいる。


 スキルを失っても、力を失っても――この絆だけは、失われていない。


「レオン……!」


 少女たちが、ベッドの周りに集まってくる。


「泣かないで……」


 シエルが、そっとレオンの手を握る。


 その手は温かくて、優しかった。


「私たちがいるから……」


 ルナが、涙目で言う。


 いつものツンデレはどこへやら、今は純粋に心配する少女の顔だった。


「レオンは一人じゃないんだから……」


 ミーシャが、優しく微笑む。


 それは計算された聖女の笑みではなく、心からの笑顔だった。


「……私たちを、信じて」


 エリナが、静かに言った。


 その黒曜石の瞳には、強い決意が宿っている。


 優しい言葉が、レオンを包み込む。


 温かさが、胸に満ちていく。


 レオンは涙を拭いながら、焦げた肉を――そして、ガタガタに切られた野菜を、一つ残らず食べた。


 こんなに心にしみる料理は、今まで食べたことがない。


 どんな高級料理よりも、どんな名店の味よりも――この不格好な料理が、何よりも美味しかった。


 温かい。


 心が、温かい。


 カインは「役立たずは追放」と言った。


 でも、この子たちは違う。


 力があろうとなかろうと、スキルがあろうとなかろうと――ただ、自分という存在を大切にしてくれる。


 それが、どれほど尊いことか。


 それで、どれほど救われることか。


 未来を視る力を失っても――この絆があれば、きっと道は開けるはずだ。


 自分にだって、できることがきっとある。


 今は道が見えないけど、絆があればきっと道は開けるのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ