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73. 過去との決着

 街灯に照らされた金髪が、夜風に揺れている。その手には黄金色に輝くロッドが握られ、空色の瞳には楽しげな光が宿っていた。


 聖女の微笑みではない。


 獲物を追い詰めた捕食者の笑み。


「あらあら、私たちを『楽しむ』つもりでしたの? 残念ですわね。今夜楽しむのは、私たちの方ですのよ」


 ミーシャがロッドを高く掲げると、ヴゥン!という響きと共に沼が輝き、さらに柔らかくなっていった。男たちの身体が、腰まで沈んでいく。


「ひ、ひぃぃぃ!」


「た、助けてくれ!」


 植木の陰からレオンたちがさっそうと現れる。


「全員動くな!」


 エリナは剣を抜き、その黒曜石のような瞳には冷たい怒りが燃えている。ルナは杖を構え、緋色の瞳に炎が揺らめいていた。シエルは弓に矢をつがえ、碧眼が鋭く狙いを定めている。


 完璧な陣形だった。


 まるで、最初からこうなることを知っていたかのように。


「き、貴様ら気づいてたのか?!」


 リーダーは顔をゆがめる。その表情には、驚愕と恐怖が入り混じっていた。


 プロとしての誇りが、音を立てて崩れていく。完璧な計画だったはずだ。相手は新人パーティ。何の問題もなく仕事を終えられるはずだった。


 それが、なぜ――。


「女の子たちを守るのが僕の仕事なんでね」


 レオンが前に出た。


 その翠色の瞳には、冷たい光が宿っていた。普段の温和な表情はどこにもない。そこにいるのは、仲間を傷つけようとした者を許さない、戦士の顔だった。


「で、ガンツ、話を聞かせてもらおうか?」


 レオンは襲撃メンバーの最後尾で、ぶざまに沈みながら必死に顔を隠している大男に声をかけた。


「な、なんで分かった……!?」


 ガンツは驚愕に目を見開く。黒い布で顔を覆っているのに、なぜ分かったのか。


「僕には全部見えてるんだよ」


 レオンの声は、静かだった。


「カインが君たちを雇ったこと。君たちがどんな目的でここに来たのか。そして――君たちが今まで何をしてきたのかも」


 その言葉に、男たちの顔から血の気が引いていく。


 全部知られている。


 今夜の計画だけではない。今までの全ての「仕事」が。


「ひ、ひぃ……!」


 ガンツは恐怖に震える。泥に沈みながら、まるで地獄に引きずり込まれていくかのような錯覚に陥っていた。


「さて、どうしようか」


 レオンは冷たく微笑んだ。


「君たちを衛兵に引き渡すのは簡単だ。でも、それだけじゃ、カインは懲りないだろうね」


 その言葉に、男たちは絶望の表情を浮かべた。


 月のない夜空の下、アルカナの逆襲が始まろうとしていた。



       ◇



 一行はけりをつけるべく、カインの屋敷へと向かった。


 縄で縛られたガンツを先頭に、レオンたちは堂々と石畳の道を歩いていく。


 月明かりすら届かぬ闇夜の中、彼らの足音だけが静寂を破っていた。


 五つの影が、夜の街を進んでいく。


「お、おい、本当にこんなことして大丈夫なのか? カイン様は貴族とのコネがあるんだぞ……」


 ガンツは怯えた声で言う。縄に縛られた巨体が、小刻みに震えていた。


「大丈夫。今夜、全てに決着をつける」


 レオンの翠色の瞳には、静かな決意が宿っている。


 その瞳の奥には、過去の屈辱と、仲間を守るという覚悟が燃えていた。


 カインに追放された朝のことを、レオンは今でも鮮明に覚えている。


 公衆の面前で罵倒され、セリナに裏切られ、全てを失った。あの時、冷たいギルドの床に転がって意識を失いかけた時、自分の人生は終わったと思った。


 だが、終わらなかった。


 四人の少女たちと出会い、新しい人生が始まった。


 そして今夜、過去との決着をつける。


 もう、後戻りはできない。



      ◇



 カインの屋敷は、豪奢な造りだった。


 大理石の外壁、金箔で装飾された門扉、手入れの行き届いた庭園。全てが、成功した冒険者の証だった。


 だが、レオンは知っている。


 その輝きの多くは、他人から奪い取ったものだ。


 レオンの汗と涙も、ここに搾取されていた。何年もの間、彼の鑑定能力が稼ぎ出した報酬の少なくない割合が、この屋敷の維持費に消えていったのだ。


「カイン様! セリナ! 大変です!」


 ガンツが玄関から大声を出し、カインとセリナを呼び出す。その声は、夜の静寂を切り裂いた。


 しばらくして、足音が屋敷内に響く。


 バタバタと慌てた足音――。


「何事だ……?」


 出てきたカインは、縄に縛られたガンツとアルカナ一行を見て、驚愕に目を見開いた。


 その碧眼には、理解できないという困惑と、徐々に湧き上がる恐怖が浮かんでいた。


「レ、レオン……!?」


 セリナも後ろから顔を出し、その場面に凍りつく。


 栗色の髪が乱れ、パジャマ姿のまま飛び出してきていた。かつての妖艶な美しさは、今は恐怖に歪んでいる。


「よぉ、カイン。久しぶりだね」


 レオンは静かに微笑んだ。


 だが、その瞳には怒りの炎が燃えていた。抑制された、しかし確実に燃え盛る炎が。



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