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72. 処刑の合図

狂月の鴉(ルナティック・クロウ)なら間違いないわ。ぽっと出の小娘たち、目立ちすぎちゃったわね。ふふふ……」


 セリナの妖艶な笑みには、冷酷な悪意が浮かんでいた。


 かつてレオンに向けていた微笑みとは、まるで別人のよう。仮面の下に隠されていた本性が、今、むき出しになっている。


「よし! ガンツ。すぐに頼みに行け。ついでにお前も行って楽しんで来い」


「え? いいんですか? あの可愛い娘たちを……。ひっひっひ……」


 ガンツは下卑た笑みを浮かべると、嬉しそうに出ていった。その足取りは軽く、まるで祭りにでも行くかのよう。


 残されたカインとセリナは、顔を見合わせてニヤリと笑った。


「レオン……お前は出しゃばりすぎたんだ。俺より目立つとか許されんだろ? これはお前の自業自得だ……」


 カインは自分に言い聞かせるように呟く。


 蝋燭の炎が、彼の瞳を照らしている。


 嫉妬と憎悪に狂った男の目。


 自分が間違っていたとは、絶対に認められない。だから、相手を潰す。


 それが、カインという男の選んだ道だった。



       ◇



 翌日の夜――――。


 月も出ていない闇夜の中、狂月の鴉(ルナティック・クロウ)のメンバーは黒頭巾に身を固め、アルカナの拠点近くの物陰で息をひそめていた。


 闇に紛れた彼らの姿は、まるで死神のようだった。黒い衣に身を包み、顔を覆い、呼吸さえも殺している。彼らの目だけが、闇の中でぎらぎらと光っていた。


 屋敷の窓からは、温かな光が漏れている。


 その中で、何も知らない少女たちが笑い合っている。


 その無防備な姿を見て、男たちの目が下劣な欲望に濁った。


「あの美少女たちと楽しめるなんて、夢みたいだぜ。くっくっく……」


「昨日のババァはいまいちだったからな。やはり若い子じゃないと……」


 メンバーの男たちは襲撃が待ちきれない様子で軽口をたたいていた。その声には、人間とは思えない残虐さが滲んでいる。


 彼らにとって、これはただの「楽しい作業」だった。


 金をもらって、人を壊す。それだけの話。


「おい、静かにしろ……窓の明かりが消え始めたぞ。工作部隊はスタン魔道具の安全装置を解除しておけ」


 リーダー格の男が、鋭い視線で屋敷を睨む。その目は、獲物を狙う蛇のようだった。


「お、いよいよか! 俺は銀髪の子な」


「なら俺は聖女だな。あの胸がそそるぜ」


「赤髪のガキもいいぞ。あのくらいの年頃が一番……」


 男たちの邪悪な笑い声が、闇に溶けていく。


 ほどなく、屋敷の照明が全部落ちた。


 闇が、屋敷を包む。


 静けさがやってくる――――。


「おやおや、あいつらお楽しみタイムか?」


「小僧一人に美少女四人だろ? 毎日とっかえひっかえしてるに違いない。羨ましい」


「まぁ、今日は俺らが楽しませてもらうんだがな。ひっひっひ……」


 下卑た笑い声が、夜気に響く。


「ヨシッ! シーフ行け!」


 リーダー格の男は小柄な男をまず放った。


 男は音もなく闇を駆け、ゲートの鉄の門扉についた錠前にとりついた。細い指が、精密な道具を操る。


 カチリ。


 あっさりと鍵が開き、男はサムアップして合図した。その手際は、まさにプロ。何百という家に忍び込んできた経験が、その指先に宿っている。


「行くぞ!」


 男たちは隊列を組み、足音を立てずに一気にゲートをくぐっていく。


 ガンツも必死についていった。その巨体が、闇の中を駆けていく。ちゃんと仕事を見届けないとカインに叱られるし、何より美少女のおこぼれに目がくらんでいた。


 屋敷を目指してアプローチの石畳をかけていく襲撃者たち。


 勝利を確信した笑みが、その顔に浮かんでいる。


 こんな簡単な仕事はない。眠っている小娘たちを襲うだけ。抵抗などあるはずがない。


 その時だった。


 パチン!


 どこかから、指の鳴る音が響いた。


 まるで、処刑の合図のように――。


「へ?」


 リーダーが不穏な響きに顔を向けた時だった。


 ジュォン……。


 不気味な音が足元から鳴り響いた。


 それは、大地そのものが唸り声を上げているかのような、不吉な響きだった。


 直後、足元の石畳が黄金色に光輝く。


 まるで、天罰が降り注ぐかのように。


「うぉっ!」


「な、なんだこれは?!」


「しまった!」


 刹那、石畳の道は底なし沼へと様変わりし、一気に襲撃者たちを飲み込んだ。


 つい先ほどまで固い石畳だった地面が、今は泥のように柔らかくなっている。足を踏み出すたびに、ずぶずぶと沈んでいく。


「ぐはぁ!」


「やばい!」


「逃げろーー!」


 しかし、足元のぬかるみは容赦なく足をからめとり、右足を上げれば左足が沈み、もがけばもがくほど、どんどんと沈んでいく一方だった。


 まるで、亡者の怨念がその命を奪おうとしているかのように。


「ふふっ、逃げられませんわよぉ」


 二階の窓を開け放ち、ミーシャが姿を現した。

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