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67. 完全なるアウェイ

 やがて、馬車は王宮へとたどり着く。


 五階建ての白亜の宮殿。


 レオンはその威容を見上げ、思わず感嘆の声を漏らした。


 こんな建物は、見たことがない。白い大理石の壁、金箔の装飾、色とりどりのステンドグラス。全てが、想像を超えた豪華さだった。


(これが、王国の中枢か……)


 緊張が、胸の奥で高まっていく。



       ◇



 かなり待たされた後、ようやく謁見室へと案内される。


 長い廊下を歩きながら、レオンはドクン、ドクン、と激しく耳の奥に叩きつける心臓の振動を聞いていた。


 謁見室の扉が開かれた瞬間、レオンは想像以上に豪華で広大な空間に息を呑んだ。


 天井は遥か高く、巨大なシャンデリアが煌めいている。壁には豪華なタペストリーが掛けられ、王国の歴史を描いた絵画が並んでいた。


 そして、中央には玉座へと続く赤じゅうたんが敷かれ、その両側にはずらりと貴族や事務方が並んでいる――。


 彼らの視線が、一斉にレオンに向けられた。


 好奇、軽蔑、警戒、嫉妬。様々な感情が、その瞳に渦巻いている。


 壇上の玉座には、王国の国王、レスター三世が座っていた。


 初老の男だった。白いあごひげを蓄え、重厚な王冠を被っている。だが、その瞳には、入ってきたレオンをつまらなそうに見つめる、冷めた光が宿っていた。


 まるで、期待外れの見世物を見るような目だった。


『クーベルノーツ冒険者、レオン・グレイフィールド――前へ!』


 進行役の声が響き渡った。


 レオンは教えられたように恐る恐る進み、玉座の前でひざまずく。


「まだ子供じゃないか……。スタンピードを止めたというのはお主か?」


 レスター三世はぶっきらぼうに聞いた。その声には、明らかな失望が滲んでいた。


「は、はい……。わ、我がアルカナ四人の精鋭と共に殲滅しました」


 レオンは声が震えないよう、必死に平静を装う。


「三万もの魔物を五人でということか?」


「はい。火山を噴火させることで倒せました」


 一瞬、謁見室が静まり返った。


 だが、それも束の間のことだった。


「バカバカしい。人間が火山を噴火させられるわけがない」


「そうだ! 騙されてはなりませんぞ!」


 貴族たちがヤジを飛ばす。その声には、明確な敵意が込められていた。


「いや、実際にそれでスタンピードは一掃でき……」


「たまたまだ! たまたま!」


「そうだ偶然噴火しただけだろ!?」


 ヤジはうるさくなるばかりだった。レオンの声は、彼らの怒号に掻き消されていく。


「証人はおるのか?」


 レスター三世が、あごひげをなでながら言った。


「い、いや……。自分とメンバーしか火山にはいませんでしたので」


「それじゃ証明はできんのう」


「い、いやでも……」


 レオンは言葉に詰まった。


 砦の兵士たちは、火砕流が魔物を飲み込む光景を見ていた。だが、それを引き起こしたのがレオンたちだという証明は、確かにできない。


「まあいい。今ここで、そちの力を何か見せてみよ」


「……え?」


「火山を噴火させられるほどの凄いスキルなら、何か今見せられるものもあるじゃろ?」


 レスター三世の声には、(あざけ)りが混じっていた。見世物のように試されている、そう感じた。


「あ、いや、このスキルは未来がたまに見えるだけなので……」


「未来視じゃな? じゃぁ、今は何が見えるのじゃ? ん?」


「え……と、今はスキルは起動してないので……」


「は? いつなら見えるのじゃ?」


 レスター三世は不愉快さを隠すことなく眉をひそめた。


「それは……何か事件が起こらない限りは起動しないので……」


「なんじゃ、使えんのう……」


 部屋に失笑が漏れる。


 クスクス、クスクス、と。


 その笑い声が、レオンの胸をえぐった。


 女の子たちの命がけの死闘が軽んじられていることに、やるせない憤りが湧いてくる。


「平民ですから仕方ないでしょう」


「平民はこれだから……」


 貴族たちはここぞとばかりにレオンを見下した。その視線には、明確な軽蔑が込められている。


 レオンはキュッと唇を噛んだ。


 悔しい。


 あの十万人が歓喜した凱旋は何だったのか? なぜ正当に評価されないのか?


 シエルやエリナの活躍であれば、証人もいるし、実演することもできるだろう。


 その素晴らしい武技を見せつけてやりたかった。


 だが――シエルを王都に連れてくるわけにはいかない。


 レオンは叫びたい心をぐっとこらえ、藪蛇にならぬようあえて沈黙を貫いた。


「男爵に叙爵するという話もあったがなぁ……」


 レスター三世はあごひげをなでた。


「本物なら今後も活躍してくれるでしょう」


「その時でもよいのではないですかな?」


 貴族たちはレオンが貴族になられては困るようだった。


 平民が成り上がることなど、彼らにとっては許しがたいのだろう。



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