表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/126

65. お前もかぁぁぁぁ!

「へ……?」


 レオンが固まった。思考が停止する。


「き、貴族には側室は普通に居るわ……」


 シエルが顔を赤くしながら踏み込む。その声は、小さく震えていた。


「そう、私が正妻で、側室ワン、ツー、スリーでもいいのよ? ふふっ」


 ミーシャが楽しそうにみんなを指さす。その笑顔は、まるで女王のようだった。


「なんであんたが正妻なのよ!?」


 ルナが怒った。その緋色の瞳が、炎のように燃えている。


「まぁ、あくまで一例だわ」


 ミーシャは優雅に微笑む。その余裕ある態度が、かえってルナの怒りを煽った。


「ぶーーっ!」


「はいはい、落ち着いて。どうなるかなんて未来のことは分からない。ただ……僕が好きなのは『仲良くできる優しい子』、これだけは言っておくよ」


「あら、私だわ!」


 ミーシャがおどけた調子で言った。


「はぁっ!? あんた面白いわ! ははっ」


 ルナが天を仰いで笑った。


 そのやり取りがおかしくて、みんなつられて笑ってしまう。


 重かった空気が、一気に軽くなる。笑い声が部屋に響き渡った。温かい空気が、テーブルを包む。


 これでいい、とレオンは思った。


 争うのではなく、笑い合える関係。それこそが、アルカナの在るべき姿だ。


「じゃあ、『レオン争奪優しい子選手権』ってこと? いいじゃない、楽しくやろ」


 シエルは楽しそうに碧眼を輝かせた。


「そうよ? 楽しくね? レオンにキスとか……絶対ダメよ?」


 エリナはギラリと瞳を光らせる。その黒曜石のような瞳には、明確な警告が込められていた。


「分かったわ」


「はぁい……」


「しょうがないわねぇ……」


 三人の少女は渋々承諾する。


「ふぅ、良かった。エリナのおかげだよ。ありがとう」


 レオンは優しい瞳で笑いかけた。


 その笑顔を見た瞬間、エリナの心臓が跳ねた。


「え?」


 男と距離を取り続けてきたエリナには、男女の距離感の機微が分からない。


 この時エリナの中で、ある仮説が頭をもたげた。


 こんなに可愛い女の子たち三人から言い寄られても、毅然とNOと言い放つレオン。


 もしかして他に好きな人が居るのではないだろうか?


 『アルカナのメンバーの誰か』で、三人以外と言えば……私?!


 その瞬間エリナの中で勘違いが暴走した。


 えっ!? うそ……。


 その暴走した妄想に、エリナの心臓は早鐘のように高鳴った。


 レオンは自分のことを好きだから三人をけん制している?


 だから、自分に「ありがとう」と言ってくれる?


 だから、自分を特別扱いしてくれる?


 エリナの中で妄想がどんどん膨らんでいく。


 いや、まさか、そんな……。


 でも、もしかしたら……。


 エリナはそっとレオンを見た。


 レオンはにっこりと自分を見てほほ笑んでいる。


 そののびやかな笑顔、美しい翠色の瞳。今まで気づかなかったが、レオンは整った顔立ちをしていた。優しげな眉、すっと通った鼻筋、柔らかな唇――。


(そうかも!?)


 この瞬間、エリナの瞳にポゥっと桃色の輝きがともった。



       ◇



 崩壊の危機が何とか回避できた――。


 やれやれ、これで一段落だ。エリナがまともで良かった。


 レオンは深くため息をつく。


 その時だった――――。


 ピロン! 


【スキルメッセージ】

【好感度状況】

エリナ:70→110【ラブ】※注意


「……へ?」


 レオンは固まった。


 目の前のメッセージを、二度見する。


 見間違いではない。


 エリナの好感度が、一気に四十も上昇して、【ラブ】になっている。


(エリナ……お前もかぁぁぁぁ!)


 思わずレオンは頭を抱えた。


 いったいどこで地雷を踏んでしまったのだろうか?


 普通に話しただけだ。感謝しただけだ。なのに、なぜ――。


 レオンはキュッと口を結んだ。


「ふふふ……レオンの独り占めなんて……私が絶対許さないんだから……」


 エリナは嬉しそうにレオンの腕をガシッとつかむ。


 そのほほは紅潮し、心なしか息も荒かった。その黒曜石のような瞳には、今までにない熱が宿っている。


 これは、さっきまでのクールな剣士ではない。


 完全に、恋する乙女の目だ。


 レオンは絶望した。


 運命は――また、新たな試練をレオンに課したのだ。


 四人。


 四人全員が、自分に恋している。


 世界一を目指すよりも、この少女たちの暴走を止める方が、よほど困難かもしれない――そんな予感が、彼の胸をよぎった。


 だが――少女たちはみんなとても幸せそうな笑顔なのだ。


 幸せなら……いいのかなぁ……。


 それはレオンにとって唯一の救いだった。


 こうして、英雄たちの夜は更けていく。


 笑い声と、甘い空気と、そして――レオンの深いため息と共に。


 伝説の始まりは、思いがけない方向へと転がり始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ