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58. 凱旋パレード

「もうすぐ到着ですよー」


 御者の明るい声が、眠りこけていた五人を現実へと引き戻した。


「ん?」

「へ?」

「もう?」


 いつの間にか、争っていた少女たちも疲れ果てて眠りに落ちていたらしい。床に座っていたレオンも、揺れる馬車の中でうとうとしていた。


 馬車は一面の小麦畑を抜ける一本道を、クーベルノーツへ向けてパッカパッカと順調に進んでいる。


 麦畑を抜ける風が黄金の穂を揺らし、まるで大地が呼吸しているかのような壮大なウェーブを描いていた。


 つい数日前、この道を逆方向に進んだ時のことを、レオンは思い出していた。あの時は不安と緊張で胸が張り裂けそうだったし、仲間たちを死地に送り込むという重圧に、押し潰されそうだった。


 だが今は違う。


 同じ風景が、まったく別のものに見える。黄金色の穂が揺れるその様が、まるで自分たちの凱旋を祝福しているかのようだった。


 窓から顔を出すと、前方に堅牢な城壁が見える。


「はぁ、無事に帰って来れたんだなぁ……」


 レオンが深い安堵の息を漏らす。


 帰ってきた。


 五人全員、誰一人欠けることなく。


 その事実が、何よりも嬉しかった。


「行くときは泣いてたケドね。ふふっ」


 エリナが少し意地悪な調子で笑った。だが、その声には温かさが滲んでいる。黒曜石のような瞳が、どこか優しく細められている。


「それは言わないでよ……」


 レオンは苦笑いを浮かべながら肩を落とした。


 仲間たちを危険に晒すことへの恐怖と、それでも前に進まなければならないという決意が、涙となって溢れ出していたのだ。


 だが、あれだけの想いを込めたからこそ、奇跡を起こせたのかもしれない。


 レオンは少し瞳を潤ませながら、徐々に大きくなっていく城門を眺めた。


 その時だった――。


 ポン! ポンポン!


 城門の上で赤青緑の鮮やかな魔法が炸裂し、まるで打ち上げ花火のような盛大な光の軌跡を描いた。光の粒子が朝の空にキラキラと舞い散り、虹色のカーテンのように揺らめいている。


「え?」

「なに?」

「どうしたの?」


 五人は思わず窓に顔を寄せる。


 見れば城門のあたりに、数百、いや千を超える人々が集まっている。老人も、子供も、男も、女も。みんな手を振り、拍手をして、馬車を熱狂的に歓迎しているではないか。


「ははっ、こりゃぁ凱旋パレードですなぁ! すごい!」


 御者は楽しそうに笑った。


「が、凱旋パレード!?」


 五人はその盛大な歓迎に圧倒される。


 まさか、こんな出迎えが待っているとは、夢にも思っていなかった。



        ◇



「アルカナー!」

「ありがとーう!」

「最高だぜ!」

「英雄様だ!」


 歓声と盛大な拍手の中、馬車はゆっくりと速度を落として城門をくぐった。


 ポンポーン!


 魔法の花火が景気よく弾ける中、馬車はパッカパッカと蹄の音を響かせ、ゆったりと石畳の道を進んでいく。


 うわぁぁぁぁ!


 英雄の馬車の登場に、街全体が歓声に包まれた。


 通りの両側は人の海で埋め尽くされている。みんな涙を流しながら、笑顔で『アルカナ』の偉業を讃えていた。


 母親が子供を肩車して手を振っている。老人が杖を振り上げて叫んでいる。若者たちが肩を組んで歌っている。


 十万人の命を救った。


 その感謝が、街中から溢れ出していた。


「サンキュー!」

「アルカナ万歳!」

「命の恩人だ!」


 通りに面する家の窓からも、声がかかる。老人が涙を流しながら手を合わせ、子供が無邪気に手を振り、母親が赤ん坊を抱きながら感謝の言葉を叫んでいる。


 花びらが窓から投げられ、五人の頭上に舞い降りる。赤、白、黄色、ピンク。色とりどりの花弁が、祝福の雨のように降り注いでいく。


 一行は圧倒されながらも、窓から手を振って応えていった。


「ボクたち、凄いこと……やったんだね……」


 シエルの碧い瞳に涙が光る。男装の下から感情が溢れ出している。


 つい数日前まで、自分は逃亡者だった。将来も見えず、行き詰まり、ただ逃げ続けるだけの存在。それが今、こんなにも大勢の人に感謝されている。


「落ちこぼれから……こんな風に……」


 ミーシャも目を潤ませる。聖女の仮面など、もうどこにもない。ただの感動に震える少女の顔があった。


 孤児院で誰にも本当の自分を見せられなかった。聖女を演じ続けなければ、居場所がなく必死だった。でも今は違う。本当の自分を受け入れてくれる仲間がいて、その仲間と一緒に、こんな奇跡を起こせた。


「みんな……喜んでる……」


 ルナが窓から身を乗り出し、群衆を見つめる。


 かつて、自分は化け物だと思っていた。強すぎる力は呪いであり、人を傷つけることしかできないと。でも、その力で、こんなにも多くの人を救うことができた。


 この歓声の中にいる一人一人が、自分の魔法のおかげで生きている。その事実が、胸を熱くする。


「私たち……本当に……」


 エリナも、普段のクールな表情を崩し、涙を一筋流した。


 復讐だけを生きがいにしていた。家族を殺した者たちへの憎しみだけが、自分を動かす原動力だった。でも今、人を救う側に立っている。守る側に立っている。


 五年前に失ったものは、もう戻らない。


 でも、新しく得たものがある。


 仲間がいる。信じてくれる人がいる。そして、守るべき人々がいるのだ。



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