表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/126

49. オーガジェネラル

「おりゃぁ!」

「せいっ!」

「はぁぁぁ!」


 隘路を埋め尽くす魔物の群れ。押し合いへし合いながら、死に物狂いで突破しようとする。精鋭たちが次々と斬り伏せていくが、倒しても倒しても、後から後から湧いてくる。まるで終わりのない悪夢のようだった。


 疲労が蓄積し、剣が重くなり、動きが鈍くなっていく。


 エリナは、その光景を食い入るように見つめていた。


 Aランク剣士ブラッドの剣さばき。最小限の動きで、最大限の効果を生み出す達人の技。一切の無駄がない、洗練された殺人術。


(見える……全部、見える……)


 覚醒した視界が、ブラッドの動きの全てを捉えている。足の運び方、重心の移動、呼吸のタイミング。それらが一つの流れとなって、完璧な剣技を生み出している。


 体が、覚えていく。


 頭ではなく、魂で理解していく。


「交代します!」


 気づけば、エリナは前線に躍り出ていた。


 さっき体で覚えたブラッドの動き。最小限の足運び。無駄のない重心移動。呼吸と剣撃の完璧な調和。


 シュッ! とオークの喉を切り裂く。


 ザシュッ! とゴブリンの心臓を貫く。


 ズバッ! とリザードマンの首を跳ねる。


 一撃、一殺。


 迷いのない、完璧な剣技。


「ほう?」


 ブラッドの目が見開かれる。


 先ほどまでとは、まるで別人だった。剣速が桁違いに上がっている。動きに淀みがなく、まるで舞を舞っているかのように美しい。


 エリナは相手の動きを読み、百分の一秒先を行く。剣技の極意――先読みと反射の究極の融合。それは、長年の修練を積んだ達人だけが到達できる境地のはずだった。


 そして驚くべきは、その持久力。


 二十体、三十体と斬り伏せても、剣速が落ちない。むしろ加速していく。戦えば戦うほど、動きが洗練されていく。


(私……戦える……!)


 五年前、村を焼かれた日から、ずっと求めていた力。大切な人を守れなかった無力感を、ようやく払拭できる力。それが今、全身を駆け巡っている。


「エリナ! フォールバック!!」


 突然の後退命令に、エリナは動きを止めた。


「え……?」


 まだ戦える。まだまだ戦える。この力があれば、どこまでも戦い続けられる。そんな万能感が、全身を満たしていたのに――。


 エリナは困惑しながらも、渋々命令に従って下がった。


「くっ!」


 剣についた緑色の血を拭いながら、不満を口にする。


「まだ行けます!」


 ブラッドが首を振る。だが、その表情は先ほどとは違っていた。冷たい軽蔑ではなく、そこにあるのは――。


「これは前座だ。彼らに任せておけ」


 軽蔑ではなく、熱のこもった期待の眼差し。


「お前の出番に向けて、温存しておけ!」


「……え?」


 エリナは驚いて顔を上げる。


 認められた――。


 ついに、認められたのだ。


 あの厳格なブラッドが、自分を戦力として認めてくれた。温存しろと言ってくれた。それは、本番で自分の力が必要だと認めてくれたということ。


 胸の奥で、何かが熱く燃え上がる。


「ハ、ハイ!」


 元気よく返事をして、湧き上がってくる笑みを誤魔化しながら、水筒の水をゴクゴクと飲んだ。冷たい水が、熱を帯びた体を冷やしていく。


 隘路の向こうから、まだ魔物たちが押し寄せてくる。


 だが、エリナはもう怯えていなかった。


 赤い剣が、朝日を受けて輝く。


 五年前、全てを失った日から、エリナはずっと復讐だけを考えて生きてきた。家族を殺した盗賊たちへの憎しみ。自分だけが生き残ってしまった罪悪感。それだけが、彼女を動かす原動力だった。


 でも、今は違う。


 守りたいものができた。


 仲間がいる。信じてくれる人がいる。一緒に戦ってくれる人がいる。


 復讐の剣士は、守護の戦士へと生まれ変わりつつあった。



       ◇



 精鋭兵たちが交代しながら熾烈な前線を維持していた、その時だった。


 グォォォォ!


 大地を震わせる重低音の咆哮が、隘路全体に響き渡った。それは魔物の叫びというよりも、地獄の底から這い上がってきた悪魔の雄叫びのようだった。


 見れば、身長四メートルはあろうかという巨大なオーガジェネラルが、味方の魔物すら踏み潰しながら隘路を突進してくる。その姿は、まさに戦場の悪夢そのものだった。


 来た――。


 ブラッドもエリナも、反射的に剣の柄を握り締める。


 【運命鑑定】が示した、最後にして最大の脅威の登場だ。奴を逃せばアンデッドを再編されて悪夢は甦る。何としても、ここで仕留めなければならない。


 だが――。


「で、でかい……」


 エリナの顔が青ざめる。今まで見たどんな魔物とも、格が違った。


 筋骨隆々とした腕には、大木をそのまま削り出したような巨大な棍棒が握られている。一振りするだけで蜥蜴人(リザードマン)が数匹、まるで落ち葉のように吹き飛ばされていく。


 それはどう見ても、剣で戦うような相手ではなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ