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46. いつまでも、どこまでも

「熱い……っ! 熱いよぉ!」

「死ぬ……死んじゃう……っ!」


 ルナが悲鳴を上げる。ミーシャが喘ぐ。少女たちの声が、恐怖に引き裂かれていく。


 三人は本能のままに身を寄せ合った。レオンの腕の中で、二人の少女が震えている。その温もりだけが、この地獄において唯一の救いだった。


 だが、不思議なことに、岩陰だけは安全だった。


 まるで、神が掌で三人を守っているかのように。見えない力場が、死の熱波を遮っている。【運命鑑定】が選んだ場所。その意味を、レオンは身をもって理解した。


 ――やがて、爆風が収まる。


 しかし、安堵する間もなかった。


 ガン! ガガン! ドォン!


 異様な破裂音が、暗黒の世界から響いてくる。噴煙で覆い尽くされた空から、何かが降ってくる。


 火山弾。


 それは、死の雨だった。


「あ、危ない!」


 ミーシャがとっさに両手を掲げる。金色の魔法陣が展開し、聖なる障壁(ホーリーシールド)が傘のように三人を覆った。黄金の光が、絶望の闇に抗うように輝く。


 ――そして、地獄の空爆が始まった。


 ドガガガガガ! ガン! ガン!と、樽ほどもある灼熱の岩塊が、まるで神々の怒りのように降り注ぐ。数百キロはありそうな巨岩が地面に激突するたびに、大地が断末魔の悲鳴を上げる。衝撃波が空気を切り裂き、轟音が鼓膜を殴打する。


 ガァン! ドシャァン!と、火山弾が聖なる障壁(ホーリーシールド)を直撃する。一発。二発。三発。まるで巨人が戦鎚で殴打しているかのような、凄まじい衝撃。


「きゃあぁぁ!」

「いやぁぁぁ!」


 ミーシャとルナが悲鳴を上げた。


 二人はレオンにしがみつく。プライドも、強がりも、何もかもかなぐり捨てて。ただの怯える少女として。


 小さな体が、死への恐怖でがたがたと震えている。涙が頬を伝い、唇が恐怖で引きつっている。


 レオンは何も言わなかった。言葉など、無力だった。


 ただ、二人を強く、強く抱きしめる。


 自分も恐ろしかった。鼓膜が破れそうな轟音が止まらない。【運命鑑定】は生存の可能性を示してくれてはいるが、そこに保証などないのだ。


 「大丈夫」と言いたかった。


 でも、嘘になる。


 だから、ただ抱きしめた。


 万が一のことが起こっても、せめて最期の瞬間まで、一人じゃないと伝えるために。


 三人は祈り続けた。


 ただ、生きたいという、魂の叫びをこめて。


 ――ドォォォン! ガガガガガガガ!


 火山弾は容赦なく降り続けた。


 一つ、また一つと積み重なり、やがて三人を囲む岩の壁が築かれていく。


 光が、遮られる。


 音が、くぐもる。


 まるで井戸の底に閉じ込められたように。


 暗闇が、三人を包み込んでいく。


 息苦しい。熱い。そして、絶望的に恐ろしい空間。


 どれほどの時が経っただろう。


 ポゥ――。


 闇の中に、光が灯った。


 三人の体が、突然、虹色に輝き始めたのだ。


「へ……?」

「こ、これは……?」

「まさか……」


 ポゥポゥポゥポゥポゥポゥ……。


 光が、止まらない。


 まるで、天界から祝福が降り注いでいるかのように。次々と。次々と。魂の奥底から、光が爆発する。


 レベルアップ。


 また、レベルアップ。


 さらに、レベルアップ。


 三万の魔物を葬った功績が――今、神々の加護となって三人の存在を書き換えていく。


 全身の細胞が再構築される感覚。骨が、筋肉が、神経が、すべてが作り直されていく。魂が何段階も昇華し、存在の位階が跳ね上がっていく。


「す、凄い……」


 ルナが震える声で呟いた。


 体中に、今まで感じたことのない魔力が奔流のように駆け巡っている。血管が光の糸のように輝き、心臓が新しい鼓動を刻み始める。制御できなかった力が、まるで従順な獣のように手の中に収まっていく。


 ――これが、本当の私の力。


 レオンも【運命鑑定】の力が飛躍的に強化されていくのを感じていた。一段と頼もしくなったスキルの輝きが心の奥底に感じられる。


「これが……三万体分の、加護……」


 ミーシャも信じられないという表情で己の手を見つめた。


 大賢者(だいけんじゃ)への道が、突如として開かれたのを感じる。知識が。理解が。叡智(えいち)が。まるで滝のように流れ込んでくる。世界の理が、少しだけ見える気がする。


「やった……」


 涙で(にじ)む視界。


「あたしたち……やったんだ……」


 一時は失敗したと思っていた。


 全てを台無しにしたと思っていた。


 でも、違った。


 自分の力は、ちゃんと届いていた。


「よくやった。君たちのおかげだ」


 レオンがギュッと二人を抱きしめる。


 その言葉を聞いた瞬間、ミーシャの中で何かが溢れ出した。


 ずっと欲しかったもの。


 ずっと求めていたもの。


 認めてもらえる喜び。


 必要とされる幸せ。


「うぅ……うわぁぁぁん……」


 聖女の仮面などかなぐり捨てて、ミーシャは声を上げて泣いた。


 子供のように。


 孤児院で一度も泣けなかった分を取り戻すかのように。


 レオンは何も言わず、ただ静かに抱きしめてくれている。


 ミーシャはその胸に顔をうずめ、この人といつまでも、どこまでも共に生きようと誓った。



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