4. 四つの色
どうして、こんな場所に。
どうして、誰も彼女たちを見出だせなかったのか――――?
レオンの瞳が、熱を持った。
視界の端が、黄金に染まる。
【運命鑑定】が、自動的に発動していた。
彼女たちの真実が、燃える文字となって浮かび上がる。
【エリナ・ブラックソード】
潜在能力:S級剣聖
現在状態:復讐の炎に焼かれる戦乙女
未来予測:このままでは一年以内に美しく散る
【ミーシャ・ホーリーベル】
潜在能力:伝説の大賢者
現在状態:仮面に本心を封印した氷の聖女
未来予測:誰にも愛されず、偽りの微笑みのまま朽ちる
【ルナ・クリムゾン】
潜在能力:古の竜殺しの魔力
現在状態:自身の力に怯える紅蓮の魔女
未来予測:暴走により最愛の人を灰にする
【シエル・フォン・アステリア】
潜在能力:神弓の継承者
現在状態:自由を求める籠の鳥
未来予測:売られて、壊される
――全員、世界を変える才能と美貌を持っている。
レオンは息をのんだ。
全員、伝説級の潜在能力。
全員、世界を変えるほどの才能を秘めている。
なのに――本人も周りも誰も気づいていない。
世界は彼女たちを「落ちこぼれ」と断じ、見捨てていた。
こんな路地裏に追いやり、朽ちるのを待っていた。
なんという、もったいないことか。
なんという、愚かなことか。
彼女たちの「未来予測」は、どれも悲劇で終わっている。
このまま放置すれば、彼女たちは全員、一年以内に――。
だが、この悲劇は回避できる。
【運命鑑定】の力で、彼女たちを救えるのだ。
心臓が、大きく跳ねた。
これが、【運命鑑定】が示した「最善の未来」への入り口。
四人の戦乙女との出会い。
新たなる絆の、始まり――――。
◇
レオンは一歩、前に踏み出した。
「君たち」
レオンは口元の血を袖で拭いながら、声をかけた。
四人が一斉に顔を上げる。
長い睫毛の下から、宝石のような瞳たちがレオンを射抜いた。
漆黒。空色。緋色。碧色。
四つの色が、四つの感情を映している。
警戒。諦め。恐怖。そして――消えかけた、かすかな希望。
その希望の光を、消させてはいけない。
レオンは直感的にそう思った。
「俺と組まないか?」
単刀直入に、そう告げた。
回りくどい言い方をしている余裕はない。彼女たちの警戒心を解くには、真正面からぶつかるしかない。
エリナが汚れた頬を手の甲で乱暴に拭った。
その仕草すら、なぜか優美に見える。
「……あんた、誰?」
かすれた声だった。喉が渇ききっているのか、それとも長い間誰とも話していなかったのか。
だが、その声の奥に秘められた芯の強さは隠せない。
どれほど追い詰められても、この少女は決して折れない。そういう種類の人間だと、レオンには分かった。
「僕はレオン・グレイフィールド。さっき追放された、元Aランクパーティの軍師だ」
正直に、全てを明かした。
隠しても仕方がない。どうせ傷だらけの姿を見れば、何かあったことくらい分かるだろう。
「……はぁ?」
エリナの細い眉が、不機嫌そうに吊り上がる。
「Aランクに居たって? エリートじゃない!」
その声には、明確な敵意が込められていた。
「あたしたちFランクの落ちこぼれを、嗤いに来たわけ? それとも、惨めな姿を見て優越感に浸りたいの? とっとと消えな!!」
「違う」
レオンは首を横に振り、四人を真っ直ぐに見つめた。
「君たちは落ちこぼれなんかじゃない。本物だ」
レオンは、確信を込めて告げた。
「俺には、視えるんだ」
「はぁ……? 一体何が視えるっていうの?」
ミーシャが、静かに問いかけた。
聖女のような柔らかな声音。だが、その奥には鋭い刃が隠されている。試すような、値踏みするような、冷ややかな視線。
法衣は泥と煤にまみれていたが、凛とした彼女の美しさは揺るがない。むしろ、汚れの中でこそ際立つ、純白の輝き。
ああ、この子は賢い。
レオンは直感した。見た目の柔らかさに騙されてはいけない。この少女の本質は、氷の刃だ。
「君たちの、真の輝きが視える」
レオンは、一人一人の目を見ながら告げた。
まず、黒髪の剣士に向き直る。
「エリナ」
名前を呼ばれた瞬間、エリナの体がわずかに強張った。
「君は剣聖になれる」
「……は?」
「君の中に眠っている才能は、本物だ。復讐のために研ぎ澄ましたその刃は、いずれ正義の剣となる。君は世界を救い、英雄となるんだ」
エリナの漆黒の瞳が、大きく見開かれた。
次に、金髪の僧侶へ。
「ミーシャ」
「……あら」
「君は大賢者の器だ。千年に一人と言われる、魔法の極致に至る者。そして――」
レオンは、少しだけ声を落とした。
「その聖女の仮面の下に隠している、本当の君も含めて。全部、視えている」
ミーシャの微笑みが、一瞬だけ凍りついた。空色の瞳の奥で、何かが揺れる。




