126. 恐るべき人災
「博士、こちらが『アルカナ』と蒼き獅子騎士団長だ」
「ふむ……」
エルウィン博士は、アルカナの五人を値踏みするように見回した。その視線は、まるで標本を観察するかのよう。
「若いな。こんな若造どもが、あの寄生体と遭遇して生き延びたのか」
その言葉には驚きと、そして僅かな敬意が込められていた。
「まぁいい、時間がない。早速、調査結果を報告しよう」
エルウィン博士は、作業台の上にある水晶のレンズを指差した。
そのレンズの下には、ガラスのシャーレがあり、その中に――あの寄生体のサンプルが置かれていた。
赤黒い肉片。既に死んでいるはずなのに、まだ微かに脈打っているように見える。その表面には、黒い紋様が浮かび上がっていた。
「……これか」
レオンが、サンプルを見つめた。
「ああ。君たちが持ち帰ってくれた、貴重なサンプルだ」
エルウィン博士は、レンズを覗き込みながら言った。
「一晩中、調査した。そして、恐ろしい事実が判明した」
エルウィン博士は、作業台の上に二枚の羊皮紙を広げた。
そこには、複雑な波形が描かれている。まるで心電図のような、不規則な線。素人目には、ただの落書きにしか見えない。
「見てくれ。これが、この寄生体から検出された魔力残滓のパターンだ」
博士が、一枚目の羊皮紙を指差す。
「そして、これが――」
二枚目の羊皮紙を指差す。
「数ヶ月前、スタンピードが発生した地点の地層から検出された、異常な魔力パターンだ」
二つの波形を、並べて見せる。
レオンが、目を凝らす。二つの波形は――。
「……同じ?」
「その通り」
エルウィン博士が、頷いた。
震える指で、二つの波形をなぞる。その手が、明らかに震えている。恐怖なのか、怒りなのか。
「完全に一致する。間違いなくこれは、同一の魔力源から発生したものだ」
その言葉が、部屋に響く。
沈黙――――。
みんなその意味を理解しようと、必死に考えている。
「つまり……」
ギルバートが口を開いた。その声が、震えている。
「あのスタンピードは……」
「ああ」
エルウィン博士が、重々しく頷いた。
「天災などではない。この『寄生体』を使い、人為的に引き起こされた『人災』だったということじゃ……!」
その瞬間――部屋の空気が、凍りついた。
誰も、息ができない。
ただ、その衝撃的な事実が、心に突き刺さる。
「なん……ですって……?」
ミーシャが、信じられないという表情で呟いた。その顔から、血の気が引いている。
「人為的……って……」
シエルの声が、震える。
「そんな……嘘でしょ……?」
ルナが首を振る。その目には、涙が浮かんでいる。
「なんのために……?」
エリナが思わず頭を抱えた。
「街を滅ぼそうなんて、一体何が目的なのよぉ!!」
その叫びは、悲痛だった。
スタンピードで、いくつもの村が沈み、もう少しでクーベルノーツも滅ぶところだった。それが、全て――人の手によって、引き起こされたもの?
「分からん……」
エルウィン博士が、首を振った。
「奴らの目的は、まだ分からん。だが……」
博士は、机の引き出しから一枚のスケッチを取り出した。
「奴らの『印』だけは、判明した」
そこに描かれていたのは――三日月を喰らう、一羽の鷲。
その紋章は禍々しく不吉で、見ているだけで不快感を催すものだった。鷲の目は赤く、まるで血のように描かれている。三日月は、鷲のくちばしにくわえられ、今にも砕かれようとしている。
「これは……」
レオンが、息を呑んだ。
「この寄生体の核に、微細な魔術刻印で、これが刻まれていた」
エルウィン博士が、説明する。
「恐らく、製造者の印だ。この紋章を持つ組織が、寄生体を作り出し、スタンピードを引き起こし、そして――」
博士は、ギルバートを見た。
「公爵を操っている」
その言葉に、ギルバートの拳が震えた。
「……許せん……」
低く、怒りに満ちた声。
「くぅぅぅ、許せん……!」
拳がテーブルを叩くドンッ、という鈍い音が響く。
「この紋章の組織を……必ず、見つけ出す……!」
その目には、復讐の炎が燃えていた。
「落ち着いて、ギルバート」
シエルが、ギルバートの肩に手を置く。
「怒りは分かるわ。でも、冷静にならなければ、奴らの思う壺よ」
「……分かっている」
ギルバートが、深呼吸をする。




