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125. 回る意識

「あんた、何やってるのよ!」


 ルナが真っ赤な顔で叫ぶ。その目には涙すら浮かんでいる。


「そうよ! 抜け駆けだわ!」


 シエルも頬を真っ赤に染めて抗議する。普段は冷静なシエルが、こんなに取り乱すなんて。


「こんなのダメよ!」


 ミーシャが本気で怒っている。


「あ、こ、これはレオンと話をしていただけで……!」


 エリナが慌てて弁解する。その顔は真っ赤だ。


「そ、そう! まだ何もしてないから!」


 レオンも慌ててフォローする。けれど――。


「『まだ』って何なのよぉ!」


 ルナが涙目で叫んだ。その瞬間、ミーシャがレオンに飛びかかった。


「うわぁ!」


 ドサッ! レオンはベッドに押し倒され、上からミーシャがレオンの唇へと狙いを定める――。


「あっ! ダメ!」「ダメェェ!」


 ルナとシエルは必死に妨害しようとレオンの上にのしかかってきた。


「うわっ! 重い! 重いってばぁ!」


 レオンは三人の柔らかな、でも確実な重さに目を白黒させた。


 ルナの髪が顔にかかり、ミーシャの香りが鼻腔をくすぐり、シエルの体温が伝わってくる。


「ダメ! レオンが潰れちゃうわ!」


 エリナは慌てて少女たちを引き剥がそうとする。けれど、三人はがっしりとレオンを掴んで離さない。


「離さない!」


「離すもんですか!」


「抜け駆けは許さないわ!」


 ものすごい力で抵抗するミーシャに逆に引っ張られてしまうエリナ。


「きゃぁっ!」


 次の瞬間――――。


 バランスを崩したエリナがレオンの上にドサッと落ちてくる。


「うぐっ……!」


 四人の重み――――。


 それぞれは軽いのだが、四人合わせるとかなりの重量だ。


「おほぉ……」


「ちょっと重いわよ!」「あなた離れて!」「いやーーっ!」


 女の子たちはレオンの上で暴れ――――。


「邪魔するなら……くすぐってやるわ! それそれーー!」


 ミーシャは空色の瞳を輝かせ、エリナを襲う。


「きゃははは! や、やめてよぉぉぉ!」


「じゃぁ私も……。それっ!」


 今度はシエルがミーシャを襲う。


「ひぃぃぃ! ちょ、ちょっと……ひっひっひ、きゃははは!」


 そのうちみんな楽しそうに笑い始めた。


 しかし、レオンは完全に身動きが取れない。天井がぐるぐると回っている。いや、回っているのは自分の意識か。


 どうしてこうなった――――?


 その問いへの答えはもう分からなかった。ただ、柔らかな感触と、甘い香りと、温かさと、そして少女たちの笑い声だけが、レオンの意識を満たしていた。


 こうして、長い夜は、笑いと温もりに包まれていった。



       ◇



 翌朝――。


 『アルカナ』のメンバーとギルバートは、ギルドマスターの案内でギルドの地下深くへと向かっていた。


 普段は入ることのない、職員専用の扉。その奥にある、狭い階段。下へ、下へと続いていく石造りの階段は古く、所々欠けており、慎重に足を運ばなければならない。


 壁には魔法のランプが灯されているが、その光は弱々しく、階段全体を照らすには足りない。影が、不気味に揺れている。


「こんな場所があったなんて……」


 シエルが小声で呟いた。その声には、底知れぬ不安が滲んでいる。


「領主にも知られていない、極秘の場所だ」


 ギルドマスターが、慎重に階段を降りながら答える。


 階段を降りきると、そこには重厚な鉄の扉があった。


 ギルドマスターが、扉に手をかざすと魔法陣が反応し、ゴゴゴと重い音を立てて開いていく。


 その向こうに広がっていたのは、異様な光景だった。


 石造りの広い部屋。天井は高く、アーチ状になっている。壁一面には、無数の棚が設置されており、そこにはガラスの瓶が並んでいる。


 その瓶の中には――。


「うっ……」


 ルナが、思わず口を押さえた。


 瓶の中には、様々な生物の標本が保存されていた。魔物の目玉。奇妙な形をした内臓。見たこともない異形の生物。それらが、透明な液体の中に浮かんでいる。


 ホルマリンのツンとした匂いが、鼻を突く。薬品の匂い。死の匂い。それらが混ざり合い、部屋全体をおぞましいものにしている。


「気分が……悪いわ……」


 ミーシャがいつもの余裕を失い、顔を青ざめさせる。


 部屋の中央には、大きな作業台がある。その上には、フラスコ、試験管、魔法の計測器。それらが雑然と置かれている。


 そして、その作業台の前に、一人の老人が立っていた。


 白衣を纏い、分厚い眼鏡をかけた、痩せた老魔術師。その髪は真っ白で、背中は丸く曲がっている。年齢は八十を超えているように見えた。


 けれど、その瞳だけは鋭く光っている。まるで、全てを見通すかのような、鋭い眼光。


「来たか」


 老魔術師が、振り返った。その声は、意外にも力強い。


「紹介しよう。こちらは、王立魔導研究所の元所長、エルウィン博士だ」


 ギルドマスターが、老魔術師を紹介する。




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