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122. 奪い合うポジション

 そのただならぬ叫び声に、隣の部屋で眠っていたエリナが目を覚ました。


 最初は夢かと思った。けれど、壁越しに聞こえてくるのは、確かにレオンの声だった。苦しみに満ちた、絞り出すような声。エリナの胸に、鋭い痛みが走る。


 彼が、苦しんでいる――――。


 それだけでエリナの体は動いていた。ベッドから飛び起き、パジャマのまま部屋を飛び出す。月明かりに照らされた廊下に出ると、既にミーシャも部屋から出てきていた。その顔には深い憂いが浮かんでいる。


「お聞きになりました……?」


「うん……」


 短く頷き合った時、ルナとシエルも部屋から駆け出してくる。赤いパジャマ姿のルナは息を切らせ、白いパジャマ姿のシエルは碧眼を不安で曇らせていた。


「な、何なの、今の声……レオンの声よね?」


「レオンが……苦しんでる……」


 四人の視線が、一斉にレオンの部屋の扉に向けられた。その向こうから、まだ苦しそうな呻き声が漏れ聞こえてくる。


 みんないたたまれなくなってお互いの顔を見合わせた。


 昼間は、あんなに元気そうにしていたのに――きっと、無理をしていたのだ。私たちを心配させまいと、ずっと一人で抱え込んでいたのだ。


「あいつは、いつも一人で抱え込みすぎるのよ……」


 エリナの言葉に、三人が力強く頷いた。ミーシャの瞳には決意の光が宿り、ルナは拳を握りしめ、シエルは唇を引き結んでいる。


「言葉だけの慰めでは……ダメね」


 ミーシャが、普段の演技を脱ぎ捨てた素の声で呟く。


「行動あるのみ。彼が一人じゃないって、体で感じてもらうしかないわ!」


 ミーシャはぐっと両こぶしを握った。


「え……? それって……」


 エリナはたじろいだ。『体で感じてもらう』という響きにはさすがに抵抗を感じてしまう。


 しかし――。


「そうよ……あたしたちの想いで、あいつを守るんだ」


 ルナが頷き、シエルも決意を込めて言葉を継ぐ。


「ボクたちは、いつもレオンに守られてばかり。今度は……ボクたちが、彼を温める番ね」


 三人はうなずき合い、ミーシャが、そっとレオンの部屋の扉に手をかける。


「えっ……。ほ、本気……なの?」


 エリナは慌ててミーシャの肩に手をかけるが――。


「あなたは外で待っててもいいのよ? ふふっ」


 ニヤリと笑ったミーシャはエリナの手を振り切って突入し、ルナとシエルも続いた。


「あぁぁ……。もぅ……」


 エリナもせめぎあう心のうちを振り切ってみんなに続いた。



       ◇



 四人は息を潜め、お互いに顔を見合わせ、静かに、できるだけ音を立てないようにそーっと部屋の中に足を踏み入れた。


 カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。その淡い銀色の光が、ベッドの上の影を浮かび上がらせていた。


 横たわるレオンの姿は、見ているだけで胸が痛くなるほど苦しそうだった。脂汗が額を伝い、枕を湿らせている。シーツを握りしめた拳は白く、呼吸は浅く不規則だ。その体は悪夢の中で何かと戦っているかのように小刻みに震え、時折ピクリと痙攣する。


「……やめ……ろ……」


 うわ言のように、レオンが何かを呟いた。その声は絞り出すような、痛々しい声――。


「……逃げ……て……」


 その必死な響きに四人の胸が締め付けられる。


 ミーシャはタタッと小走りで駆け寄り、誰よりも先にレオンの右側に滑り込む。そしてそっと、その肩に頬を寄せた。


(あっ!)(ずるーい!)(んんっ!)


 三人が、声にならない声で抗議する。


 けれど、シエルも負けていない。すかさず反対側、レオンの左側に潜り込み、その左腕を両手で優しく包み込んだ。まるで壊れ物を扱うかのに、慈しむように。


 タッチの差で負けたルナとエリナも必死だった。このまま引き下がるわけにはいかない。ルナは素早くミーシャとレオンの間に体を滑り込ませようと試み、エリナはシエルとレオンの間、レオンの胸のあたりに体を寄せた。


(んーーっ!)(んっ!)(んんっ!)


 四人はもぞもぞと動きながら、お互いを押しのけ、いい位置を奪い合う。けれどその動きは慎重で、レオンを起こさないように、傷つけないように。やがて絶妙な位置取りで落ち着いていった。


 右側にミーシャとルナ。左側にシエルとエリナ。四人の体温が、レオンを包み込んでいく。狭くなったベッドの中で、四人の少女はそれぞれの温もりでレオンを守るように寄り添う。


 レオンの顔に柔らかい髪がかかり、四つの呼吸が聞こえ、心臓の鼓動が伝わってくる。


 その変化に、レオンの体がピクリと反応した。震えが、少しずつ収まっていく。荒かった呼吸が、穏やかになっていく。


 そして――レオンの目がゆっくりと開いた。


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