表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/128

115. 震える体温

 ガチャッガチャッ、ガチャッガチャッ!


 騎士たちの足音が近づいてくる。無骨な重い足音が祠の前を通り過ぎようとして止まった。レオンの心臓が激しく波打つ。シエルの手が震えた。


「くそっ! 見失った!」


 一人の騎士が悔しそうに叫ぶ。


「お前はあっちだ!」「了解(ラジャー)!」


 バタバタと散開していく足音。レオンはまだ動かない。シエルはぎゅっとレオンにしがみつく――――。


 足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなった。それでもしばらく待つ。一分、二分と時間が過ぎていく。


「うちの騎士団……ギルバートまで……」


 シエルが頭を抱える。その声が震えている。


「ついに、見つかっちゃった……もう、逃げられない……」


 その言葉にレオンの胸が締め付けられた。シエルはずっと、この日が来ることを恐れていた。家に連れ戻される日。自由を奪われる日。また『商品』として扱われる日。


「大丈夫」


 レオンはシエルを抱きしめた。ぎゅっと、温かく、しっかりと。


「絶対に守り切るから」


 耳元で囁く。その言葉にシエルの体が少しだけ力を抜いた。


「……ありがとう……」


 シエルは涙目で小さく頷く――。


 けれどレオンの心は穏やかではなかった。【運命鑑定】を失った今の自分に、最善の選択肢は見えない。ただ全力を尽くすしかないのだ。


 シエルの銀髪が頬に触れ、その震える体温が伝わってくる。この温もりは、絶対に守る!


「行こう。みんなが待ってる」


「……うん」


 レオンが手を差し出すと、シエルはその手をしっかりと握った。碧眼には恐怖と不安の中にも、レオンへの信頼の光が宿っている。


 二人は再び走り出した。追手の声が遠くから聞こえる。けれど二人は諦めなかった。希望が待つ場所へ、必ず辿り着いてみせる――――。



       ◇



 レオンは事前に調査しておいた、フェンスの壊れた場所を抜けた。そこから民家の庭に侵入する。洗濯物が干され、シーツが風に揺れている。その間を二人は駆け抜けた。


「あら!?」


 庭にいた主婦が驚いて声を上げる。


「すみません! 通ります!」


 レオンは謝りながら走る。裏口から路地に出て、また民家の庭を走る。シエルの手を引いて道なき道を、ただひたすらに駆けていく。


 息が上がる。喉が渇く。足が痛い。けれど止まらない。止まれない。背後からまだ追ってくる気配がある。鎧の音が、じわじわと近づいてくる。


 ピィィィィ!


「いたぞーー! あそこだ!」


 時計台の上から指示が飛ぶ。さすが王国最強の騎士団、包囲探索能力も想像以上だった。


「くそっ! しつこい……!」


 レオンの額に汗が滲む。シエルも必死についてきている。その顔は汗と涙で濡れていた。


 やがて二人がたどり着いたのは、木々が茂る街で最も大きな公園だった。


「シエル! あの一番高い木の上に!」


「分かった!」


 シエルは弓を背負い直すと、しなやかな動きで大木の幹を駆け上がった。まるでリスのように軽やかに枝から枝へと飛び移り、あっという間に木の上に姿を消す。


 レオンも不器用に木を登り始める。


「レオン! 手を!」


 シエルが手を伸ばしてくれた手を掴み、引っ張り上げてもらう。


 ようやく太い枝の上にたどり着いて、やれやれという感じで息を整えるレオン。


 木の葉がいい感じに二人を隠してくれていた。


 次々と公園になだれ込んでくる騎士たち。その数、およそ三十。ガシャ、ガシャ、ガシャと重い足音が響く。


「どこだぁ!?」「探せぇ! 遠くへは行ってないはずだ!」


 怒号が飛び交い、騎士たちが公園中を探し回っている。


 木の上でレオンとシエルは身を寄せ合った。レオンがシエルを抱きしめ、シエルもレオンにしがみつく。二人の体温が重なり、心臓の音が聞こえる。ドクン、ドクン、ドクンと、二人とも激しく波打っている。


 息を殺し、身じろぎもせず、ただ通り過ぎるのを待った。シエルの銀髪がレオンの頬に触れる。その髪は汗で湿っていた。レオンの腕の中で、シエルが小刻みに震えている。レオンはシエルを抱く腕に力を込めた。大丈夫、絶対に守る。そう無言で伝える。


 時間が永遠のように感じられた。下では騎士たちが草むらを探り、茂みを調べ、噴水の裏を確認している。


 頼む、気づかないでくれ。


 レオンは心の中で祈った――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ