11. 懐いた子猫
【運命鑑定】が、自動的に発動している。
【スキルメッセージ】
【新パーティ結成】
【運命の輪が、回り始めた】
【パーティ評価】
現在戦力:Fランク
潜在戦力:測定不能(SSS級以上確定)
【未来予測】
このパーティは、大陸の歴史を塗り替える可能性を秘めている。
レオンは、静かに目を閉じた。
胸の奥で、熱いものがこみ上げてくる。
今朝、全てを失った。
仲間に裏切られ、恋人に捨てられ、家族に見放された。
絶望の底で、死を覚悟した瞬間もあった。
でも――。
今、隣には四人の仲間がいる。
傷だらけで、訳ありで、世界中から見捨てられた少女たち。
だが、その瞳には希望が宿り、その心には可能性が眠っている。
彼女たちと一緒なら、どこまでも行ける。
レオンは、そう確信していた。
朝日が、五人を照らしている。
路地裏に差し込む黄金の光が、まるで祝福のように、彼らを包み込んでいた。
傷ついた者たちが、お互いを認め合った瞬間。
落ちこぼれたちが、手を取り合った瞬間。
それは、後に伝説となる五人の、物語の第一歩だった。
追放された軍師と、見捨てられた少女たち。
彼らの逆転劇が、今、幕を開ける。
◇
警備隊の賞金首受付窓口。
重厚な木製のカウンターの向こうで、中年の係員が『信じられない』という顔で書類を何度も確認していた。
「本当に……本当にゴードン・ブラックを捕まえたんですか?」
係員は、書類とレオンたちの顔を交互に見比べた。
「そうですよ?」
レオンはにっこりと笑う。
「三年間、王国の精鋭部隊すら出し抜いてきた男を、まさか……」
その視線が、レオンと四人の少女たちを舐めるように観察する。
傷だらけで、埃まみれで、明らかに装備も貧弱な若者たち。
どう見ても、新人冒険者。いや、冒険者ですらないかもしれない。
それが、Cランク相当の賞金首を捕まえた?
信じられないのも無理はなかった。
「まあ、捕まった報告は受けてますからね……」
係員は、諦めたように溜息をついた。
そして、金庫から二百枚入りの革袋を取り出してくると、目の前で手際よく金貨を数え始める。
チャリン、チャリン、チャリン。
金属同士がぶつかり合う、心地よい音が響く。
「うわぁ……、金貨が……こんなに……」
ルナが、目を丸くして声を漏らした。
「ボク、弓を射っただけなのに……」
シエルも、言葉を失っている。
「素敵ね……」
ミーシャの空色の瞳が、金貨の山を映してキラキラと輝いている。聖女の仮面の下で、現金な本性が顔を覗かせていた。
エリナでさえ、普段の仏頂面が崩れて、呆然と金貨を見つめていた。
少女たちは、ぽかんと口を開けたまま、次々と積み上げられていく金貨の山に目が釘付けになっている。
レオンは、そんな彼女たちの姿を見て、目頭が熱くなるのを感じていた。
彼女たちは、きっとこんな成功体験をしたことがないのだろう。
いや、それ以前に、まともな食事すらろくにできていなかったはずだ。
あの路地裏の様子を見れば分かる。彼女たちがどれほど追い詰められていたか。
――でも、もう大丈夫だ。
レオンは心の中で誓った。
この【運命鑑定】があれば、どこまでも行ける。
彼女たちに、二度とあんな惨めな思いはさせない。
「はい、金貨二百枚です」
係員が、革袋の口を縛って差し出した。
レオンは代表して、それを受け取る。
ずっしりと重い。
この重みが、新しい人生の始まりを実感させてくれた。
「ありがとうございます」
レオンが礼を言って踵を返した瞬間。
四人の少女たちが、わっとレオンを取り囲んだ。
「こんな大金、初めて見たわ!」
エリナが、興奮を隠せない様子で言った。普段のクールな表情が崩れ、年相応の少女の顔になっている。
「あなた、一体何者なの!?」
シエルが碧眼をキラキラさせながら詰め寄る。
「ねえねえ、もっとやってよ! もっと儲けさせて!」
ルナが袖を引っ張りながらせがむ。さっきまでの警戒心はどこへやら、まるで懐いた子猫のようだ。
「悪くないわね……あなたと組むの」
ミーシャが優雅に微笑みながら言った。だが、その空色の瞳は金貨の入った革袋に釘付けだった。
四人とも、目をキラキラと輝かせながらレオンに言い寄ってくる。
さっきまで殺気を放っていたとは思えない変わりようだった。
それもそのはずだ。彼女たちは生まれて初めて「成功」を味わったのだ。
自分たちの力で、何かを成し遂げた。
誰かに認められ、報われた。
その喜びが、彼女たちの表情を輝かせているのだろう。




