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82話 外実習を攻略せよ ~野営地到着!ラング、我がまま令嬢に翻弄される①

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食事と休憩で体力を回復した一行は、一夜を過ごす野営地を目指して再び歩みを進めていた。


もっとも、大して疲れていない女性陣は、すでに晩ご飯のおかずで頭がいっぱいらしい。

今夜何が食べたいだの、低カロリー高たんぱくじゃなきゃいけないだの――口を開けば注文ばかりだ。



ラングへのこうしたリクエストはどんどんエスカレートするが、実習中なのだから無理なものは無理なのだ。

「そんなに食べたいなら自分で探せばいいのに」と思うラングなのであった。



一方でエマルシアたち三人は少しは反省したのか、希の背から下りている間は手伝いをしてくれるようになった。

……もっとも、順番が回ってくれば嬉々として乗り込むあたり、微笑ましいやら呆れるやら。

それでも、まったく何もしない付き添い三人衆よりは、はるかにマシだろう。



上級生たちの様子はどう見ても“護衛”や“運営補助”という本来の役割がすっぽりと頭から抜け落ち、ただはしゃぐだけの女子会の延長戦みたいなものだ。


「林間学校か何かと勘違いしていないか?」

そう言ってやりたくなる振舞いだった。


もし下級生からも評価をつけられる制度があったなら、間違いなくぶっちぎりのマイナス評価だ。


――もうツッコむ気力すら湧かないラングなのであった。




額にじんわり汗が滲むころ、ようやく山頂に到達した。

目の前にはTP6。そこから先に野営地への道が続いている。


では、ここでのお題を確認しよう。


【机の上に並べられた宝箱を開けなさい。尚、箱を傷つけたり壊した場合は減点となります。宝箱を開ける秘訣は個人の力、あるいはパーティーが示す団結。だが、団結の前に個の力は遥かにかすむ事を胸に刻む事。】


「崖で見つけた宝箱のカギ~!」


某猫型ロボットのように叫びながら道具袋から取り出すも、再び冷ややかな視線を浴びた。

穴があったら入りたい気持ちもあったが、これは自分の努力が足りないからだと思い直す。

この実習が終わるまでには「ノリツッコミ」まで対応できるように皆を鍛えることにしよう。

ラングはここからスキルを常時発動させる事とした。



スキルの無駄遣い?そんな悪評など今のラングにはどうでもよかった。




宝箱を開けると、中から出てきたのは――いわくありげな地図。

どうやらTP10で提出する「宝」の在りかを示しているらしい。


普通なら宝箱の中に宝があるものだ。

だが、この実習では常識など通用しない。

中身は宝そのものではなく、ただの「手がかり」にすぎなかった。


どうにも課題が回りくどい。

もしかすると、任務を果たそうとしない付き添い上級生たちすら“試練の一部”なのかもしれない。

内部からじわじわとやる気を削ぐ刺客――そう考えれば筋は通る。


ラングは思案しながら顔を上げた。

その刺客を束ねる張本人――わがまま令嬢の姿が目に入る。


……口の周りにクッキーの食べかすをつけたまま、得意げに胸を張っていた。


――ただの食いしん坊だった。

刺客説は、思い過ごしで間違いなかろう。



さて、本来なら多くのパーティーがここで足止めを食らう算段だ。

鍵はTP7の課題と直結している。


【目の前にある崖の途中に看板を掲げました。そこに書かれた文字に従い行動してください。現地の職員または同行する上級生が達成困難と判断した場合は失格となり、この課題は未達成となります。尚、この課題を達成した証は思わぬところで貰えるでしょう。】


崖の途中の看板にはこう記されていた。


「崖上の地面を掘りなさい。各パーティーは☆印の場所を一か所だけ掘ること。二か所以上を掘った場合、または妨害行為が発覚した場合は不正とみなし実習を終了します。」


崖上に到着すると、職員が何人か待機していた。

不正監視のためだろうが――ラングを見るなり露骨に驚いた顔をした。


「えっと……君、どこから来たんだ?」

「……あっちからです」

「いや、そっちは崖なんだが」

「はい、崖です。大変でした」

「まさか登ったのか!?」

「いえ。従魔が普通に歩いて運んでくれました」

「……歩いて? どういうことだ……?」


職員は頭を抱えて混乱中。ラングは適当に流して、さっさと地面を眺める。


☆印がいくつも描かれている中で、一つを掘り返すと――鍵が出てきた。

そう、この鍵こそが先ほどの宝箱を開けるためのものだったのだ。



なお、世の中には宝箱を開けるスキルがある。

斥候職などが持っていることが多いのだが、課題の文面を読めば使ってはならないと誰もが理解できるはずだ。


「よ〜し、見てて! 私のスキルで一瞬で開けてあげるんだから!」


――直後、仲間にマッハで頭をはたかれる女生徒。

そのやり取りを見てラングは思った。

(うちのメンバーにも、このくらいの“ボケとツッコミ”は身につけさせねば)



ラングは一連のやり取りを見て素直に感心した。



一方で、日暮れ前ながら野営の準備を始めているパーティーもちらほら見える。

恐らく情報収集のために人数を分けなかった連中だ。あるいは個人技でTP6を突破した者もいるのだろう。


だが彼らは気づいていない。

TP7で手に入れた鍵以外で宝箱を開けると、魔法式が発動し、宝の位置を示す印が消えることを。

つまり彼らが手に入れて喜んでいたのは――宝の位置が示されていない、ただの二枚目のエリアマップにすぎないのだ。


TP6とTP7の厄介な点は、宝と地図を同時に提出して初めてクリア扱いになること。

早々と野営地に着いた彼らは、この時点で実質三つの課題を失っている。

何せTP10を突破すれば計三つのタグがもらえる仕組みだからだ。


TP7のクリア条件は「宝の地図」。

TP6のクリア条件は「宝」。


底意地が悪いと言ったのはこのためだ。


そうとは知らずに未着組を鼻で笑う者たちは、最後のTP10で盛大に絶望するだろう。

――せいぜい今だけは、束の間の優越感に浸るがいいさ。




宝箱を開けた後、一行はそのまま野営の準備に入った。

確かにTP9は“早い者勝ち”の課題だ。今から狙えば潰すこともできる。


だが――無理は禁物。

それに崖を自由に上下できる彼らにとって、慌てる理由は微塵もない。

ふるい落とされるのは、せいぜい全体の一割程度なのだから。


恐らく他のパーティーは明日、今日来た道を戻り、反時計回りに攻略を進めるだろう。

だがラングたちなら、そのまま時計回りに進軍できる。


距離も時間も一切ロスがない――その優位は計り知れない。

まさに“希さまさま”である。


ならば今夜はたっぷり時間をかけ、晩餐ばんさんの準備といこう。

調理場や水場に近い好立地はすでに他のパーティーに押さえられている。

TP6周辺で仲間待ちしている組も、場所取りだけは抜かりないようだ。


だが――問題なし。

むしろ何もない、だだっ広い場所の方が都合がいい。


そうして、一見立地的にはお世辞にも良いとは言えない場所で、ラングは声を上げた。


「皆さん、少し下がっていて下さいね」


仲間が下がったのを見届け、ラングは道具袋から“それ”を取り出す。

――そう、改良型コンテナハウスだ!


今回はなんと、トイレと浴室完備。

調理道具一式は学園が用意してくれている。

至れり尽くせりの、「一夜城」である。


「いかがでございましょうか? お嬢様方」


ラングが鼻高々に説明を終えると――


「最高よ!」


と即答。最高評価である。

逆にこれで不満を言おうものなら、一万字の反論レポートを提出してもらわねばなるまい。


普段見慣れているはずのエマルシアですら、少し驚いた表情を見せる。

改良前を知るアリッサとウルマは、それなりに目を見張る。

付き添いの上級生たちは衝撃のあまり言葉も出ず、口をパクパクさせていた。


だが――レイチェル嬢だけは違った。


「オホホホホ! 素晴らしい宿泊所をご用意くださったのね。まぁ、気に入らない所も幾つか……ない事もないですが、野営ですもの……、我慢して差し上げますわ。さ、早く中を案内なさい!」


……想像の斜め上を行く発言である。


「えっ、な、何? どういう事でしょう……?」


ラングは“改良型コンテナハウスで皆をあっと言わせるつもり”だった。

だが実際は――“レイチェルにあっと言わされてしまった”のである。







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