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81話 課外実習を攻略せよ~希の背中と女子会とクッキーと

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマークやリアクションを頂けるととても励みになります。

よろしくお願いします。

途中いろいろあったものの──無事にTP4の課題をクリアすることができた。


ちなみにTP4の課題の内容は以下の通りである。


【飛行する生物を捕獲しなさい】


……正直、一行にとっては簡単すぎる課題だった。


「鳥さん、お願い」


エマルシアが協力関係にある鳥たちに声をかければ、それだけで解決である。

ただし──その光景はとんでもなく絵面が悪かった。


我も我もと彼女めがけて殺到する様子は、どう見ても「少女が鳥の群れに襲撃されている」図でしかない。ホラー以外の何物でもなかったのだ。


担当職員は顔を引きつらせつつ、鳥まみれの少女にそっとタグを渡すしかなかった。


一方その頃、ボスチキ(バイオレンスチキのボス)は嫉妬にかられて群がる鳥たちを排除しようと暴れかけたが──


「そんなことしたら、めっ!でしょ」


エマルシアの叱責一つでしょんぼり。大人しく引き下がってしまった。


「鳥さんたち、ありがとう!」


彼女の一言で鳥たちは一斉に飛び立っていった。

だが──その大半が黒っぽい色をした鳥だったため、どうにも「不吉な前兆」にしか見えなかったのである。




では次だ。

この先は勾配がさらにきつくなる。


いよいよ本格的な山登りの様相を呈してきたわけであり、しかも次のTP5の課題をクリアするためには、引き続き食材を探しながら進まなければならない。

──だが、その道中で女達は目的すら忘れ去り、醜い争いを始めることになるのだ。


その前に、TP5の内容を確認しておこう。


【この地で収穫した食材で夕食のメニューを作りなさい。棄権する場合は職員に申し出る事。配布予定の携行食で足りないようなら追加分を支給します。ただし、本課題については未達成となります。】


事前に課題の内容は調べてある。

準備に抜かりはなく、時間のロスを極限まで減らしつつ一行は進んでいた。


「険しい道のりだが……みんな頑張って欲しい」

そう思ってラングがふと目をやると──


「そろそろ時間なので代わってください!」


「もうそんな時間なの……ズルしてないでしょうね」


「またそんなことを。さっき“15分で交代”って約束したじゃないですか」


「ほら皆さん、順番は守らないといけなくってよ」


「「はい、レイチェル様」」


ようやく上級生二人が希の背から降り、代わりにエマルシアとウルマが乗り込む。


──そう、今の状況を説明すると「希の背を巡っての争奪戦」が繰り広げられているのだ。

最初はレイチェルの取り巻き令嬢が「自分たちも乗りたい」と言い出したのが発端で、他の三人も我も我もと主張。

そこで折衷案として「一度に三人・15分交代」というルールが定められた。


……ただし、レイチェルだけはなぜか“常に乗り続けている”のだが。

こういうのは気にしたら負けである。


ワ~キャーと賑やかで、まるで女子会のような光景。

貴族の子女らしい取り巻き令嬢たちも、こうなると結局は同じだ。


ラングがおやつ用のクッキーを差し出すと、さらに騒ぎは大きくなった。


「親鳥の帰りを待ちわびるヒナか!」


思いっきり突っ込みたい気持ちを抑え、ラングは小さな声で呟くだけに留めた。

下手に刺激して藪蛇(やぶへび)をつつく趣味はなかったからだ。


今回は「味方増やし」も兼ねて、ある程度は甘味をばら撒いて盛大に餌付けする予定だったので量の心配はない。

……だが、食べすぎにも程がある。


特にレイチェルの食いしん坊ぶりが際立っていた。

池の鯉に餌やりをしたことがあるだろうか?


──あれを思い浮かべれば、おおよそ正しい想像であろう。




「お昼ご飯が食べられなくなりますよ~。これ以上は、めっ!ですよ」


エマルシアの真似をして、可愛らしく(たしな)めてみたラング。

だが返ってきたのは、女子たちからの一斉に冷たい視線だった。


(……いや、そんなに睨まなくてもいいだろう。俺だって少しくらい優しくされたいんだけど)


希ばかりがちやほやされ、ラングは拗ねた。


それにしても、背中を女子会の会場にされている希も気の毒だ。

あとでたっぷりご褒美をあげて労ってやらなければ……。



気が付けば、交代制のルールからラングは完全に除外されていた。

「ラングが乗ることを条件に」というはずの約束も、すっかり形骸化。

横紙破りもいいところだが、もちろんそれを口にできる勇気はラングにはない。


こうして大騒ぎのまま進んでいるうちに、一行はTP5にへ辿り着いた。

到着していたパーティーが「何事だ?」と目を丸くするほどである。


今回のお題は、先ほど確認した通り「食材集め」。

ラングとコッコは藪に突撃し、草の種やら蜘蛛の巣やらを体中にくっつけながら戻ってきた。

木の根を掘り返してはボスチキと喜び合う──そんな健気な姿を見ても、女子たちの胸は痛まないのだろうか。


たまに思い出したようにウルマが手伝う程度で、後の連中は「食材集め」というワードそのものを忘れているようにしか見えない。


(……お前ら、何しに来たんだよ)


もちろん声に出せず、心の中で毒づくだけのラングだった。


「そろそろ、昼食にしませんか?」


息を切らしながら、もう一度提案する。

下手にボケてもスルーされるのは身に染みた。だから必死に真面目な提案を繰り返す。

疲労困憊で、このままでは体がもたないのだ。


だが遥か先で待っていた女子たちは──


「上り坂といっても案外楽勝だったわね~」

「ほんとほんと。この調子なら野営地まであっという間なんじゃない?」

「あら皆さん、わたくしの希が皆さんを乗せて差し上げているからこそですのよ。感謝なさいな」

「はい、希様ありがとうございます♡」


(……いやいや、待て。先で待ってる時点でおかしいだろ。食材探しながら登ってたら、普通は俺と一緒に行動するはずなんだが?)


さらに「わたくしの希」とのたまうレイチェル嬢。


(いつからお前の所有物になったんだよ……)


しかも取り巻きまでが「希様」とか持ち上げる始末。

(俺の従魔なんだけどなぁ……。 食材集め頑張ってる俺のことは微塵も敬わず、その従者を敬うってどういうこと?)


もちろん口には出せない。

だがラングの心に、少しづつ不満が募っていった。




そもそも、あの上級生たちは何をしに来たのだろう。

護衛? 運営補助? ――聞いてあきれる。


レイチェル嬢は希の背に乗り、ただはしゃいでいるだけ。

取り巻き令嬢たちは、自分の順番が回ってくるのを今か今かと待つことしか頭にない。


「本末転倒」という文字をノート二ページにびっしり書かせて提出させようか――

そう考えはしたものの、やはり口に出さなかった。

下手に反抗したら後が怖いからである。



ラングには【言霊】という力がある。だがそのスキルを使っても、口では女性陣に勝てるはずがない。

結果は見えている。散々言い負かされ、最後にはグシャッと踏みつぶされる姿しか思い浮かばない。

しかも相手は六人。絶望的な数的不利だ。


一対一ですらKO負け確定なのだから、多勢に無勢では勝負にならない。

だからラングは、この実習の間は大人しく忠実な下僕として振る舞うことを決めた。


「は~い、お嬢様方♡ 昼食の準備ができましたよ~」


――その変わり身の早さが、ラングの何よりの強みなのかもしれない。


だが、レイチェル嬢がちゃっかり料理長のお弁当を食べ始めているのは何故だ?

付き添いの上級生は各自で昼食を用意する決まりだったはず。

さも当然のように頬張るその姿に、ラングはため息をつくしかなかった。


「ねぇエマ、あなたのところの料理長は素晴らしい腕前なのね。

これほど美味しいお弁当をいただいたのは初めてですわ。

冷えてなおこれだけ美味しいのだから、温かいうちに食べたらどれほどのものかしら」


「レイチェル様、確かにこのお弁当を作った料理長は凄腕です。

でも我が家の専属ではなく、カイエイン商会の社員食堂で腕を振るっているんです。

実は私の料理の先生でもあって……鎮潮祭の出店が大成功したのも、料理長のご指導あってこそなんですよ!」


慕う料理長を褒められて、エマルシアもまんざらではない。

普段はしかめつらしい顔をしている彼が、時々ふと見せる温かい笑顔がふと目に浮かんだ。


「ですが、ラング君も本当に凄いんです!

見たこともないレシピを料理長に教えたり、スイーツだってラング君がいなければ、今みたいに手軽に食べれるようになってないって……料理長がいつも言ってるくらいなんです!」


エマルシアは気分を良くしたのか、ラングの事も褒め始めた。

まるで彼の凄さを誰かに伝えたくて仕方がないかのように。

それと同時に、苦しい時、窮地に立った時――いつも自分を助けてくれるラングへの想いがあふれ出し、言葉に熱がこもった。


「それは興味深い話ですわね。もう少し詳しく聞かせていただけなくて?

その出店とは……まさか街外れで甘味騒ぎを引き起こした”カイダン商会”だったかしら?」


「違います! カイエイン商会です!」


レイチェルもまた、ラングに強い関心を寄せ始めた。

知り合ってまだ間もないのに、彼という存在から目を離すな――女の直感がそう告げていた。


そしてエマルシアから聞かされた――、

『鎮潮祭での街を揺るがす甘味騒動』の仕掛け人がラングだったという事実が、さらに心を揺さぶったのだ。


そして、彼女のラングへの関心度は、一気に跳ね上がった。


エマルシアの誉め言葉で、ラングもようやく不満が解消する。

だが、その後も止まない称賛は、ついに褒め殺しの様相を呈するのであった。



「まぁ、なんてこと!

スイーツという至上の喜びは、ラングが見つけた砂糖のおかげだったのですわね!

さきほどいただいたクッキーも、本当に素晴らしかった!

あんなものを知ってしまったら、もう後戻りはできません。

私の味覚が覚えてしまったのですから……あの口いっぱいに広がる甘美な幸せを!」


レイチェルは両腕を天に突き上げ、大げさに叫ぶ。

劇中のヒロインがクライマックスを迎えたかのように――そして、その勢いのままにとんでもないことを口走った。


「ラングをいずれ当家に……いえ、私のものに!」


「……レイチェル様、今、聞き捨てならない事を仰いませんでしたか?」

エマルシアの声が低く響く。


「そ、空耳じゃありませんこと?」


思わず心の声が漏れ出てしまい、レイチェルは慌てる。

口を尖らせ口笛を吹いてなんとかごまかそうとしているのだが……いかんせん音は出ていなかった。



――こうしてラングをめぐる恋の戦線に、新たな強敵が加わった。

我がままオレサマ令嬢という常識も尻尾を撒いて逃げ出すような――とびっきりの強敵が。


エマルシアはまだ自覚していない自分の気持ちに戸惑いつつ――

乙女の直感が、警戒アラートを鳴らしていた。


本来の目的である「いじめグループとの対決」は忘れ去られ、二人の視線が火花を散らす。


その様子を横目に、落とされたり、よいしょされたり、挙句の果てにはなんだか重苦しい雰囲気にさらされて……せっかくの絶品お弁当の味も感じられないラングなのであった。







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