79話 課外実習を攻略せよ~情報を探れ!
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「知ってる? この課外実習では毎年二割から三割ほどの落第者が出るんですって。
人数を揃えて必死に取り組んでもそうなのに……あなた達三人で本当に達成できるのかしら?
従者も――見たところ、そこのちんちくりんと、鳥の魔物だけ。
まったく、魔物を連れ回すなんてどうかしてるわ。せいぜい周りに迷惑をかけないよう気をつけることね。
それじゃあ、せいぜいみっともなく足掻いてごらんなさい」
傲慢な少女は言いたい放題言い捨て、その場を去っていった。
「ちんちくりん」呼ばわりされたラングは気の毒だったが、
彼女がラングの腕にしがみつく希の存在に気づかなかったのは幸いだった。
縮小化してるとはいえ、強者のオーラを放つ希の存在に気づかない時点で底の浅さを露呈している。
やがて、この“ちんちくりん”にしがみついた神獣の恐ろしさを思い知ることになるだろう。
ラングは小さく呟いた。
「……後でほえ面かくなよ」
そして、彼女だけでなく、その背後に控える後ろ盾の連中までも容赦しないと、心に誓った。
☆ ☆
ウルマをTP1(タスクポイント1)に残し、一行は行動を開始した。
次のタスクポイント――TP2へ向かう道すがら、ラングたちはTP1で渡されたエリアマップを広げ、さらに作戦を練る。
演習地は東西に長い楕円形をしており、TP1を出てすぐに分かれ道がある。
西に向かうと時計回りにTP2、TP3、TP4、TP5と順にタスクポイントがある。
西回りは軽い山登りの様相を呈していて、登り切った頂部に一夜を過ごす野営地があり、そこにTP6もある。
反対に東へ進むと、最初に辿り着くのはTP10。そのまま反時計回りにTP9、TP8、TP7と逆順に配置されている。
最初は「どちらからでも攻略可能なのか」と思えたが、地図をよく見ると落とし穴があった。
――TP6の野営地のすぐ東側に、断崖が走っているのだ。
つまり、TP6から東のTP7へ進むことはできず、その逆も然り。
西回り、東回りの二つのコースは崖で分断されており、全てのタスクを踏破するには、どうしても一度は引き返さざるを得ない。
常識的に考えれば、TP1から順に西へ進み、TP6の野営地で一泊。
翌朝、道を戻って東回りへ移り、TP10からTP7へと進むのが正攻法だろう。
あるいは逆に、最初にTP7まで一気に駆け抜け、帰路で課題を回収していく方法もあり得る。
だが――。
二日間という制限時間を考えれば、行ったり来たりを繰り返すのは致命的だ。
演習の特性を踏まえれば、各タスクが互いに関連し合うのは明白。
ならば、早い段階で課題の全容を暴き、効率的に踏破する策を立てなければならない。
各パーティーには人数に応じて必ず上級生が付き添う。
そのため単独での行動は許されず、必ず上級生とペアで動かなければならない。
その前提を踏まえ、ラングは仲間に役割分担を指示した。
「お嬢とアリッサはTP2に着いたら、その場でウルマっちを待っててほしい。
待ってる間は、協力してくれそうな動物と交信して、このエリア全体の動植物の情報を集めてほしいんだ。
……アリッサは少し退屈かもしれないけど、ウルマっちの護衛のバイオレンスチキが来るまでは、TP2から動かないでね!」
二人は頷き、自然に指揮を執るラングの声に耳を傾ける。
今回の司令塔は言うまでもなくラング。
先日の魔物討伐で見せた的確な采配が、全員に十分な信頼を抱かせていた。
「3人が合流したらアリッサの出番だね。 周囲を警戒しつつTP3まで進んで課題を確認。
そこから大きく離れない範囲で挑戦してみて」
「了解!」
アリッサは力強くうなずく。
「俺は希に乗ってTP10から東回りに進むよ。
そのままTP7に出て、崖を登ってみる。希ならどんな崖でもヒョイヒョイ登れるからね。
野営地のTP6を確認したあと、TP5、TP4を経由して合流するつもりさ!」
大まかな行動方針は、これで定まった。
「崖を登るって……あんた無茶するわね。ま、希がいれば大丈夫なんだろうけど」
アリッサは呆れ顔で肩をすくめる。
だが額には、やる気を象徴するハチマキをきりりと締めていた。
これは例の鎮潮祭で使ったもの。今回も全員で身につける予定で、あの時の連帯感を思い出す意味もあった。
「動物たちとの交信は、もう始めてるよ。
さっき鳥さんが仲間を集めてくれるって言ってたから、他の動物にも声をかけてみるね。
それと――ラング君、絶対に無茶しちゃだめだから」
同じくハチマキを締めたエマルシアが、真剣な眼差しで釘を刺す。
「あんたは俺の母ちゃんかい!」
ラングが突っ込むと、二人はいつもの調子でじゃれ合い始めた。
「は~い、二人だけの空間は禁止~。いちゃいちゃも禁止~」
「もう、アリッサからかわないでよ」
そんな美少女たちの掛け合いを眺めながら、ラングは自然と笑みを浮かべた。
――雰囲気は悪くない。力を発揮するには、やっぱり笑顔が一番だ。
そうこうしているうちに、一行はTP2へ到着した。
掲示された課題は――
【状態異常「麻痺」「毒」の治療薬となる素材を集め、提出しなさい】
予想どおり、採取系の内容だった。
移動しながら素材を見分ける知識と観察眼が試される。
「あちゃ~……人選ミスったかなぁ。TP1をエマちゃんにして、ウルマちゃんにこっち来てもらった方がよかったかも」
アリッサは早くも頭を抱える。こういうところで一喜一憂するのが彼女らしい。
「いや、そんなことないよ。目的の素材がこの周辺にしかないとは限らないし、採取系の課題は他のエリアでも出る可能性がある。
全部で十個の課題がどういう内容かを把握してから判断すればいい」
ラングは落ち着いていた。
課題は個別ではなく、エリア全体を通して組み合わせて考えるべきだ――そう確信していたからだ。
「そうね。焦る段階じゃないと思うわ。ラング君の言うとおり、まず情報を集めるのが先決ね」
エマルシアもラングに頷く。
その言葉は同時に、自分の役割の重さを改めて意識させた。
「でしょ? 急がば回れってやつだ。打ち合わせ通り、自信を持っていこう!」
「「うん!」」
ラングの声に二人が力強く応える。
それを合図に、一行は各方面に散っていった。
ラングは人目の届かない場所まで進むと、巨大化した希にひょいと飛び乗った。
あとは猛烈なスピードに振り落とされないよう、必死にしがみつくだけ。
希のおかげで、TP10からTP7までは瞬く間だった。
見上げるほどの絶壁も、希にとっては平地同然。
強力な爪でザクザクと岩肌を突き刺し、平然と登っていく。
――崖登りじゃなくて、崖歩きだよね、これ。
俺が危うく落ちそうになったときは、容赦なく糸でぐるぐる巻き。
そのままぶら下げて運んでくれる。
……見知らぬ人が見たら、完全に「大蜘蛛がエサを運ぶ風景」だ。
崖を越えてTP6に至るまで、わずか40分足らず。
普通なら半日近くかかる距離を、希はなんでもないように進んでしまう。
かわいいだけじゃなく、本当に頼りになるなぁ。
糸から脱出した俺は、希に思いきり抱きついて感謝と愛情を伝えた。
――いつも希がしてくれていることを、たまには俺から返したっていいじゃないか。
だって大好きなんだから。
「お~い、みんな~、お待たせ~!」
TP3を少し過ぎた辺りで、三人がしゃがみ込んで懸命に何かを探している姿が見えた。
どうやら素材集めを頑張ってくれていたらしい。
「うそ、もう一周してきたの? まだ一時間も経ってないのに」
「うん、頑張りました。(希が)」
「ラング君、さすがね! 怪我とかしてない?」
「うん。崖から落ちかけたけど、希がぐるぐる巻きにして助けてくれたから大丈夫」
「ラングさん……崖から落ちたんですか?」
「いやいや、落ちてないってば。蜘蛛の餌みたいにされちゃったけどね……」
「「その姿、見たかった(です)」」
「見られたくないわ!」
なんとも緊張感のない会話だが、これくらい余裕がある方がいい。
付き添いの上級生たちは希の姿にドン引きしていたけどね。
顔がひきつってる人もいたので、小型化していつもの定位置に戻ってもらった。
「ラングの従者だから怖がらなくていい」と説明すると、ようやく安心した様子だった。
……ただ、一人だけ異常に希へ興味を示している人がいるのが気になる。
チラチラとアピールされても無駄だよ。お触りは禁止ね。
とりあえずTP3で休憩をとりつつ、情報のすり合わせをすることになった。




