表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/114

77話 課外実習を攻略せよ~後ろ盾ごと叩き潰してやろうじゃありませんか

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマークやリアクションを頂けるととても励みになります。

よろしくお願いします。

ラングが前世で好きだった言葉がある。



「cool heads but warm hearts」

(クールヘッドとウォームハート)



イギリスの経済学者アルフレッド・マーシャルの言葉だ。

新古典派経済学の基礎を築き、著書『経済学原理』は長らく経済学の教科書として用いられた。

また、彼の弟子であるケインズは「公共投資による有効需要の創出」を唱え、後の経済政策の礎となる理論を打ち立てたことで知られている。



冷静な頭脳と温かい心。

難題を解決しなければならない今のような状況の時にこそ、必要とされる心構えだ。

エマルシア達三人の心情に寄り添いながら、彼女達を思いやる温かい気持ちと、冷静な判断力をもって事にあたりたいと思う。




相談相手に選んだのは、アルマ・トルマ兄弟、エマルシアの父であるアルバート会頭、そして会頭付き秘書のナターシャ。

エマルシアを同席させるかどうかは迷ったが、彼女自身の強い希望により、自分の口から状況を語ってもらうことにした。


ここで、彼女の説明をまとめて課外実習の概要を整理しておこう。


1.演習地には1~10のタスクポイントがあり、それぞれに課題が提示される。

2.各ポイントには教職員が常駐し、到着したパーティーの課題の成否を判断する。

3.課題をクリアすると「タグ」がもらえ、それを10個集めれば完全制覇。

4.全クリアは必須ではないが、半数未満だと落第。

5.課題の難易度に優劣はないが、加点要素が存在する。

6.演習地が広大なため野営が必須となり、それも評価対象となる(期間は2日間)。



つまり、人数が多いほど有利な仕組みになっている。

また、アルマ支配人が学園OBから得た情報によれば、課題は「その場で解決できる」とは限らず、遠く離れた場所に糸口があるケースもあるという。

さらに「早い者勝ち」の課題もあり、到着が遅れると解決不能になることすらあるらしい。


課題のお知らせにはこう明記されていた。


「実習では、地形およびエリアをよく観察し、その特性を十分理解した行動をとること」


つまり、情報収集こそが勝敗を分ける。

地形や植生をいち早く把握し、効率的に動かねば全クリアは到底望めないのだ。


野営については高度な技術は求められないようだが、評価対象となる以上、単純にはいかないだろう。





以上を踏まえ、エマルシアたち三人のパーティーについて検討した。


今回の実習では、強力な魔物は事前に討伐済みのため、命を懸けるような戦闘は基本的にない。

とはいえ、スライム程度の弱い魔物は生息しているので、最低限の備えは必要だ。

この点は付き添いが対応することになっており、従者には一定以上の戦闘力が求められる。

万一、不測の事態に遭遇した場合は、携帯する発煙筒で速やかに教職員を呼ぶ手順となっている。


まず、アリッサ。

彼女は身体強化と偵察系のスキルを併せ持ち、斥候役として先頭に立ち、安全な道の確保を担う。

携帯武器は疑似スピア――木製で殺傷力は低いが、実習用には十分だ。


次にウルマ。

製薬スキルと薬草の知識に秀でており、採集担当となる。

実習にあたっては学園の植物図鑑で予習が義務づけられているため、まさにキーパーソンだ。

もっとも、紙が貴重なこの世界では図鑑の持ち込みは難しい。

試験勉強のように、指定ページを丸暗記して臨んでもらうしかないだろう。

彼女の携帯武器は疑似短剣――木刀に近い。


そしてエマルシア。

スキル【友愛の証】を活かし、動物や魔物から情報を引き出す役割を期待している。

これが成功すれば、他のパーティーにはない大きなアドバンテージとなるはずだ。

彼女の武器もウルマと同じ疑似短剣である。


次に従者。

結論から言えば、ラングと希、そしてバイオレンスチキのボスが随行することになった。


鎮潮祭の準備で、希は運搬部のマッスラーたちと共に魔物討伐をこなした結果、さらに屈強に成長した。

もはや護衛役としては申し分ない。


さらに、エマルシアに忠誠を誓うバイオレンスチキなら、スライム程度の魔物など一蹴できる。

その上で、女神アムピトリーナの使徒となり、チート級の加護を得たラングが加わるのだ。


ラング自身も筋トレや農地トレーニング、時折魔物討伐にも挑み、目に見えて強くなっている。

もはや“おみそ”などと呼ぶには失礼なくらいの戦闘力を身につけていた。


加えてスキル【言霊】で仲間を強化できるのだから、安全面では盤石と言ってよいだろう。




さて、エマルシアの話を聞いた大人たちの反応を伝えよう。

例の“有力者の娘”とやらへの対応策だ。


まずはエマルシアの父であり、商会のトップである会頭から。


「地元の有力者? そんなものは知ったことか。そもそも我が商会は貿易で財を成してきたのだ。質の良い舶来品を仕入れた時点で勝敗は決している。妨害だと? やれるものならやってみるがいい。それより――我が娘を虐げた有象無象など、消し炭にしてくれるわ」


……とのことだった。

いやもう、消し炭にされちゃうみたいですよ、有力者の娘さん。ご愁傷様です。


次に料理長。


「お嬢の敵は、すなわちワシの敵じゃ! 今からカチコミじゃあ~~!」


鼻息荒く飛び出しかけたのを止めるのが、ほんと大変だった。


支配人はと言うと。


「よってたかってエマお嬢を……ふむ、アークトーク商会の小娘でしたね。わかりました。商会ごと捻りつぶしましょう。生まれてきたことを後悔するほどに……フフフ」


……うわ、これまで見たこともないくらい悪い顔になってる。

権謀術数に長けた敏腕支配人を本気にさせたアークトーク商会さん、これはもう死亡フラグ確定ですね。


最後にナターシャ。


「支配人、悪行をリークするだけでは足りませんわ。屑どもを躾けるには、痛み――それも強烈なのが必要ですもの」


氷の微笑を浮かべるナタリン。

いやもう、普通に怖いんですけど~~!?


――いじめグループを主導する傲慢な少女の後ろ盾は、アークトーク商会。

目的のためには手段を選ばず、裏社会とも通じているらしい。

その分敵も多く、叩けば埃の出るような連中だ。


そこはアルマ支配人が徹底的に追い詰めるだろう。


加えて、例の甘味が彼らの力を削ぐ切り札となる。

アークトーク商会は飲食業が母体なのだから、真正面から客を奪い、痛い目を見せてやればいい。


もし裏社会を通じて妨害してきたなら……使徒として天罰を下すのも、やぶさかではない。


熱く、冷静に――敵を、捻りつぶしてやろうではないか。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ