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3話 僕はただの木偶の棒なんかじゃない

「なんだてめぇ。関係ない奴はひっこんでろ」

狸は肩を怒らせすごんでくる。


「ジョナサン君大丈夫?怪我してない?」

俺は倒れ込んだ彼を気遣う。


「うぅっ……」

ジョナサン君は声にならない呻き声を上げる。


(どこか打ったのかな?ちくしょう痛そうじゃないか)


「ジョナサン君大丈夫だからね、俺がなんとかするから!」


(俺はスキル【言霊】を発動し、彼に応援の気持ちを届けた。こんなやつらに負けちゃだめだ!)


「黙って見てればお前!ジョナサン君がかわいそうじゃないか。」

俺は込みあげる怒りのままにさらに言葉を重ねる。

(俺も怖いけど立ち向かってみるよ。ジョナサン君頑張れ負けちゃだめだ。届けこの気持ち)



すると騒ぎを聞きつけた人達がぞろぞろ集まってきた。


まずは自分のこと以外まるで無関心な奴隷たち。

彼らの目は冷たく、手を差し伸べようとするそぶりは露ほども見せない。

ただ距離を取り、面白がるようにささやき合う声が聞こえてくる。


「なんだなんだ喧嘩が始まったのか?」

「例のあいつがまたやられてるのか、図体ばかりでかいわりに情けない奴だ」


続いて狸の取り巻きの連中。

徒党を組みジョナサン君を虐げる連中だ。

ニヤニヤと品のない笑みを浮かべ周囲を恫喝するかのように見渡しつつ歩み寄ってきた。


「なんだなんだ、見せもんかよ」

「おい狸、やっちまえ。黙らせてやれよ」


狸は仲間たちの声援にか気が大きくなったのか、鼻を鳴らして挑発を始めた。


「てめぇ誰に向かって偉そうな口を利きやがる。それとも痛ぇ目に遭いてえってか、お?」


「お前だよ、お前。ジョナサン君に謝れよ!」

いじめグループまで集まってしまったが、もう後には引けない。


「けっ”デク”に何しようが俺様の勝手だ。図体ばかりでかいが何一つまともにできねぇ。

返事一つとっても声すら出せねぇ臆病者だ。まっとうに働けるよう指導してやってる俺らに感謝してもらいてぇくらいだっつうの!」

狸は悪びれずに言い放った。


そのやり取りを聞きながらもジョナサン君は身じろぎもしない。

いや、よく見ると――手を握りしめてプルプルと震わせている。


(きっとジョナサン君だって悔しいんだ。けど立ち向かう事ができないほど心を折られてしまってるだけなんだ)




――言葉を発する事も出来ないジョナサンの身に変化は起きていた。

じわり心の内に湧き上がる温かな気持ち。


誰も自分なんかを気遣ってくれない……助けようとしてくれない……


自分なんて役に立たない木偶の坊なんだ……


そう思い込んでいた自分の心に訴えかける強い何かを感じていた。――





「フン、後悔しても遅いぞ」

そう告げるや否や狸は俺に殴りかかってきた。


最初の一撃こそなんとか躱せたが両手を振り回して容赦のない攻撃をしかけてくる。

左肩、右頬、脇腹と――次々と被弾していった……。


まともにやり合っても勝ち目はない、俺はガードを固めひたすら守りに徹しつつ反撃の糸口を探る。


「なんで……」


突如俺の耳に届く小さな声。


ふと目に入った先でジョナサン君が俺の顔を見つめている。


(……いま、ジョナサン君が――俺に、声をかけてくれたんだ!)



例え小さくても、単に疑問を口にしただけでも、それでいいんだ。


気持ちを、自分の想いを伝える事が大切なんだ!


「見ていられないじゃん。仲良くなりたい人が苦しめられてたらさ!」

ガードをくぐり抜けて”いいの”をもらったが構わない。


「僕と、仲良く……」


「そう君と友達になりたいんだ。だから勝てないかもだけど、立ち向かってみようよ。そして一緒に負けよう!」



その瞬間、白い光が彼を包んだ。

長く地を這い、声すら失っていた魂が、ついにその名を得る。

【抗う木偶なる魂】――逆境の中にこそ輝く、不屈の光。能力を向上させ、怯まず立ち向かう勇気沸き立つ。



ずっと、心のどこかで諦めていた。

どうせ自分にはできない。誰も助けてくれない。

だけど――


「仲良くなりたい」

たったそれだけの言葉が、こんなにも温かくて、こんなにも心を弾ませるなんて。


【抗う木偶なる魂】。

僕の魂が、今、初めて――自分で立ち上がった。

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