67話 出店出店(でみせしゅってん)9
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日々は、コマ送りのフィルムのように、大いなるスピードで時を刻む。
日常の仕事をこなしながら、屋台の準備に追われる日々――
メンバーたちの時間も、まるでコマ送りのシーンのように淡々と、しかし確実に過ぎていった。
そんなある日の、一区切りの場面。
「お嬢、そして嬢ちゃんたち――よくぞ、ワシの厳しい指導についてきた。
涙を浮かべながら食材と向き合った日々は、決してお主らを裏切らん。
食べた者の笑顔を思い浮かべ、魂を込めて作るのじゃ。
さすれば、“美味しい”の一言が、必ずお主らに返ってくる。大きな喜びとともにな。
料理とは、人に幸せを運ぶものぞ。それを――忘れるな」
「はい、トルマさん! お忙しい中、本当にありがとうございました!
その言葉、絶対に忘れません。そして――出店、絶対に成功させます!
私たちの本気料理で、たくさんの笑顔の花を咲かせてみせます!」
「料理長~! 本当にありがとうございました~!」
疲れた体に鞭を打ち、自分の限界に挑んだ日々。
そのすべてを思い返しながら、達成感と充実感に包まれた彼女たちは、涙を浮かべて心から礼を述べた。
なかでも――、
「りょーりちょ~! もう終わっちゃうの~?
もっともっと教えてほしかったのに~……寂しいよ~!」
ひときわ大きな声で嘆き悲しむ者がいた。
彼女は、包丁すらまともに扱えず、食堂の下ごしらえを通じて腕を磨いてきた、いわば問題児だった。
「こら……お主には包丁さばきと盛り付けくらいしか教えておらんぞ。
教えるべきことが多すぎてな……ワシはもう、勘弁してほしいくらいじゃがの……」
そう言いながら、料理長は遠い目をする。
「最初に包丁を上段に構えて、振り下ろしたときには目ん玉飛び出たわい。
皮むきをさせれば“厚切りの野菜の皮”になるし、輪切りをやらせたら、何故か二等分か三等分じゃった。
何度、眩暈がして倒れそうになったことか……じゃが、世話の焼ける弟子ほど、かわいいもんでな。
気が向いたら、いつでも来い。時々なら、教えてやらんこともない」
最後まで“ツン”な料理長だったが、その一言に――彼女の涙腺は、完全に決壊した。
「ししょ~~! またおねがいしますぅ~!」
期間限定の、かりそめの師弟関係。
けれどそこには、確かな絆が芽生えていたのだった。
一方――運営チームの男性陣はどうだったか。
彼らもまた、仕事と実行委員としての活動を両立させる日々に苦労しながらも、充実した時間を過ごしていた。
完成した看板やのぼりを前にして、思わず感慨深げな表情を浮かべる面々。
「……いやあ、終わったな。どうにか間に合って、ほんと良かったよ」
「だね、だね~。最近は夢にまで出てくるくらいだったからさ、もうホッとしてるよ。
何度、“当日に間に合わずイエローシスターズにこっぴどく怒られる”って悪夢で飛び起きたことか……」
「それもこれも、トマスさんたちのおかげだよな。ほんと助かった! な、みんな!!」
「いや、僕たちの方こそ感謝しています!
皆さんが温かく迎えてくれたからこうして実行委員会の一員として充実した毎日を送る事ができました。そして、また食堂に再び通えるようになりました。
僕達を受け入れてくれて、仲間にしてくれてありがとうございました!」
「ありがとう(ございました)!」
人事部の他の三人も、声を揃えてトマスに続いた。
彼らもまた日々の活動を経て確かな友情を育んでいたのだ。
心の中に積もっていた澱のようなわだからまりは、全て洗い流された。
すでに内装が終わり、本格稼働を始めた魔道具製造部の部屋には、
夜な夜な裏方部隊が集い、奮闘を重ねていた。
「こうして魔力を注ぎ込めば、あとは内蔵した魔石の力で温め続けられるんだな。
つまり魔力を使うのは、起動のときだけってことか! これなら魔力量が少ない俺たちでも扱いやすい!」
説明を受けたマッスラーたちは、口々に感嘆の声を上げて頷き合っていた。
一通りの説明を終えたドグマは、どっかと椅子に腰を下ろす。
連日の居残り作業で疲労の色は濃かったが、その顔には確かな達成感がにじんでいた。
――はっきり言って、普通では考えられないほどの仕事量だった。
それでも彼は黙々とやり遂げ、ついに明日に迫った鎮潮祭に間に合わせたのだ。
その間、マニフェスもまた別の方面で奮闘していた。
ラングはできる限り顔を出し、二人に声援を送り続けた。
もちろん、スキル《言霊》を全開にして――。
そのおかげもあって、人間離れした力を発揮、大仕事を果たしてくれた。
しかも、技能の急激な向上と言うおまけ付きで、神器魔道具に大きく近づいた。
そしてもう一人、ここまで語られてこなかったが、裏で奮闘していた男がいた。
その名は――イワン。
今回、移動屋台が作戦の要となる中、提供するお好み焼きやクレープの「器」も課題だった。
定位置で机や椅子を並べるのとは違い、移動しながら提供するとなれば、器をその場で洗って使い回すわけにはいかない。
そこでラングが考えたのは、紙で包んで提供する方式――
いわゆる“〇〇バーガー”スタイルを模したものだった。
提供したら「はい、どうぞ」で終わり。
あとは客自身が持ち帰るなり、所定の場所で処分してもらう。
手軽で、回転も早く、後片付けもラク。まさに理想の方法だった。
あまりの良案に、ラングは小躍りして喜んだほどだ。
――だが、任されたイワンは地獄だった。
紙は水分に弱い。
水気たっぷりの料理なんかを包めば、すぐに破れてしまう。
しかも、紙そのものの生産すら安定していない状況である。
無茶ぶりもいいところだったが、ラングの懇願に根負けしたイワンは、ある人物の協力を得て紙の開発・加工に成功する。
それが、マニフェスだった。
この男の持つスキル【応用錬成】が、ここで本領を発揮。
ラングの【言霊】によるブーストが浴びせられ、血走った目で試作と調整を重ね……
ついに、必要数の特殊加工紙を用意することに成功したのだ。
こうして、準備万端整った“出店実行委員会”は、いよいよ祭り本番を迎える。
前夜祭・後夜祭を含めた、長い一週間が始まろうとしていた。
もちろん、その間は商会も全面休業となる。
ポルテアの街をあげての――
まさに「お祭り騒ぎ」の始まりを告げる鐘の音が、夜の闇に高らかに響き渡った。




