66話 出店出店(でみせしゅってん)8
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食堂での連絡会を終え、”出店実行委員会”は本格的に動き出した。
皆、日々の仕事の合間を縫って作業を進め、何より楽しみにしている食堂での食事すら手早く済ませ、空いた時間を使ってそれぞれの割り当て作業に取り組んでいく。
調理や食器洗いなど、水仕事を受け持つ女性陣は料理長の厳しい指導に悲鳴を上げつつ、なんとかくらいつく。
中には、これまで包丁をまともに握ったことすらなかった女性が、終業後も自ら進んで厨房の下ごしらえを手伝いながら、懸命に腕を磨こうとしていた。
エマルシアはと言えば――、その向き合い方は、鬼気迫るものがあった。
いくら目に入れても痛くないほど、彼女をかわいがっている料理長とは言え、エマルシア一人を甘やかす事などあり得ない。
時に厳しい叱責に悔し涙を浮かべながら、それでも歯を食いしばって料理長の教えに耳を傾けていた。
一方、運営チームの他のメンバーも負けてはいない。
食堂の常連である男性陣は、力仕事や備品の買い出しを担当する傍ら、出店の宣伝も兼ねて看板やのぼりの制作――いわば演劇で言うところの大道具・小道具作りにも励んでいた。
新たに加わった4人もその中に溶け込み、昨年の経験を活かして積極的に周囲に話しかけ、自らの知見を共有しようとしていた。
そうした真摯な振舞いに、他のメンバーたちも徐々に心を開いていく。
では、裏方の方はどうかと言えば、実は当初想定していたよりずっとやるべき事が多かった。
と言うよりは、例の出店の場所が予想通り芳しくなかったため、仕事が増えたと言った方がいい。
街の住人ですらあまり立ち入らない街外れという立地条件――、集客どころの騒ぎではなかったのだ。
これは外出ついでに参加の申し出を行ってくれたメンバーの一人が持ち帰った情報からわかった事なのだが、報告を受けた他のメンバー達も失望の色を隠せなかった。
そんな空気を一変させようと、ラングが声を上げた。
「――みんな、安心して。われに策あり! ってね」
その言葉とともに披露された秘策こそが――、
移動式屋台、しかも複数台の運用による、
「待っても来ないなら押しかけろ!作戦」だ。
これまで何度も登場したリヤカー(主にコンテナ)を改造し、調理台・シンク・コンロを搭載。
保温に加熱、果ては簡単な調理すら可能にするという、まさに“動く厨房”に作り変えるという案だった。
造るのは当然、あの凄腕魔道具士のドグマだ。
毎度おなじみ、困ったときの“ドグマ頼み”――この傾向は、きっと今後も続いていくのだろう。
今回割り当てられるであろう人通りの少ない”ショボい立地”に本部を置き、ここでひたすら調理を行う。
いくつかの移動式屋台は、ここで調理済みの”ブツ”(=お好み焼きorクレープ)を積み込み、四方八方出撃する。
そして、タマ(=ブツ)を打ち尽くしたら即座に帰還――、補充を行って、
再び前線へと出撃していくという作戦だ!
だがここで問題になるのが、「そもそも移動式屋台なんて許されるのか?」という大前提だ。
その点は祭り開催規則の抜け穴を研究した結果、行けると判断した。
なぜなら、規則に明記されていたのは以下のような内容だった。
「一か所に長時間滞在しての物品販売、サービス、または通行を著しく妨げる行為は禁止とする」
要するに、
「定位置での出店は禁止だけど、移動しながらならOKじゃね?」
という抜け道があったのだ。
昨夜遅くまで策を練っていたラングは、すでにこの移動式屋台案を想定しており、今日の申し出の際に、規則上の確認も済ませていた。
結果は、“白とも黒とも言えないグレーゾーン”。
……のはずだったが、ラングにしてみれば「明確に禁止されていない=真っ白」と、都合よく解釈して採用したのだった。
とは言え、さすがに商会の看板を背負っている以上、突っ走って商会に迷惑をかけるわけにはいかない。
念のため、ナターシャを通じて会頭に確認してもらったところ、
「問題なし」
との心強い一言をもらえたのだ。
若くして商会を立ち上げ、ポルテア屈指の大商会へと育て上げた人物だけはある。豪胆というか、怖いもの知らずというか……
まあ、そのおかげでこちらも後顧の憂いなく動けるのだから、感謝しかない。
かくして、裏方メンバーは当初の予定以上の仕事を抱え込むこととなったが、持ち前の団結力で見事な大車輪の活躍を見せるのだった。
……全部、ドグマが作るんじゃね?
いや、言い直そう。
ドグマを中心に、“大車輪の活躍”が展開されることになるのだった。
そして、ラングの仕事仲間である“筋肉キャップ”の面々は、その鍛え上げた筋肉を活かして討伐隊を結成。
仕事終わりや休日を利用し、狩りに出ては素材と資金を集め、現場の裏支えに一役買った。
しかし、このとき彼らが積んだ戦闘経験やスキル、そしてレベルアップによる能力の向上が――
まさか後に、思わぬ形で活きてくるとは、この時点では誰一人、予想していなかったのだった。




