2話 ただ君と仲良くなりたいだけなんだ……
最初の仲間にしたい……
その想いからロックオンした人物の名は「ジョナサン」。
まずはこの人物について情報を集めようと、自分の頭の中を探った。
「思い出せ~思い出せ~」
念じても、頭を捻っても、右を向いても左を向いても何も思い出せない。
ここで一つの推測が頭に浮かんだ。
「ラング君(俺が宿った少年)ってば周囲に全然興味が無かったんじゃね?」
そう思い至り考えてみれば当然とも言えた。
何故なら世の中に絶望し、真っ暗闇のような人生を歩んでいた彼にとって、
周りの事なんてどうでもよかったのだろう。
生きている事すら苦痛でしかなかった彼を思い、俺は少し悲しくなった。
だが、俺は決めたのだ。彼の無念を背負い、生きていくことを。
この前みたく両手で頬を叩き気合を入れると、俺は動き出した。
「当たって砕けろ。とにかく彼と話すんだ」
そうしてその日からひたすら彼につきまとった。
ん~字面がやばい。
つきまとうだなんてまるでストーカーじゃん。
でも仕方がないのだ。
だって、あの大きい人すぐに逃げるんだもん。
どんだけ俺の事が嫌いなんだ。
そう思って枕を涙で濡らした夜もあったさ。
ただ、始終追い回していたわけではない。
えぇありませんとも!
食堂でそっと前の席に座ったり、
偶然を装って水飲み場で鉢合わせたり……
うん、やっぱりアウトだな
ジョナサン君はどうもいじめられているらしい。
いじめと言うほどでないにしても、少なからず嫌がらせされたり、
雑用を押し付けられている様子を何度か見かけた。
誰よりも目立つ大きな体。
その半分くらいの人に顎で使われている様は見ていて痛々しい。
それでも周囲の人は手を差し伸べる様子はなかった。
そもそも労働奴隷全般に言える事だが、何しろ他人に無関心。
無気力、惰性そんなネガティブな姿勢しか目に入らない。
挙句の果てには他人の心を傷つけるいじめと来た日には……
自らが置かれた環境の劣悪さに今さらながら気づく次第だ。
かく言う俺も――自らの非力さを自覚しているがゆえに――表立って彼のために何かをするわけではなかった。
(あぁ自分で自分が嫌になる……)
多勢に無勢。
ジョナサン君を”デク”と呼び、粗雑に扱う連中は徒党を組んでる。
そもそも個人主義の集まりなのがこの労働奴隷という身分の人達。
その中でグループを作っている珍しくも迷惑な連中なのだ。
そうしてある日さすがに俺も怒りを抑えられない場面に出くわしてしまったのだ。
「おいデク、まだ運び終わらねーのか?ほんとテメーはグズだな」
小太りの狸みたいな獣人がジョナサン君を足蹴にする。
大きな荷物を抱えたジョナサン君は不意に膝裏を蹴飛ばされて転んでしまう。
「あっ危ない!」
とっさに俺が声をかけるが、それでどうなる事もなく、大きな物音が響いただけだった。
幸いなことに荷物は投げ出され彼を傷つける事はなかった。
「○▼※△☆▲※◎」
ジョナサンは何かしゃべっているようだ。
「てめぇ声が小さすぎて何言ってっかわかんねーんだよ。もっとはっきりと話せって何度もいってんだろうがこの木偶の坊」
あろう事かその狸はジョナサンの頭を踏みつけ、唾まで吐きつけた。
あまりの仕打ちに頭に血が上った俺は気づけば走り出していた。
「おい!いくらなんでもそれはないだろ……やりすぎだよ!」
ジョナサンを背にかばいながら俺は非難の声を上げた。