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63話 出店出店(でみせしゅってん)5

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマークやリアクションを頂けるととても励みになります。

よろしくお願いします。

エマルシアが着実に協力者を集める一方、ラングも動いていた。


――今や運搬部名物となった、“筋肉キャンプ”の一場面である。


本日の教官は、ラングだ。


 


「さぁみんな~、今日も自分の限界に挑戦だ~~! ノリノリで追い込んでいくぞ~!」


「お~~~!!」


「リズムに合わせて~、イチ・ニイ! イチ・ニイ! はい、筋肉の声によく耳を澄まし、語り合うんだ~!」


「ラジャ、教官! オイ俺の大胸筋、この苦しみを耐え、でかく育つんだ~~ッ!」


男たちが大地に両腕を突き立て、黙々と腕立て伏せに励んでいる。


 


「いいぞ! 育ってきた~育ってきた~! よっ、いい乳しとるやんけ~~!」


仲間たちの鍛え上げられた大胸筋に惚れ惚れしながら、さらにテンションを上げる。


 


「さぁ育ってきたそのいい尻で! その乳で! 出店を盛り上げようじゃないか~~!」


どさくさに紛れて、ラングは関係ない一言を叫んだ。


 


しかも、つい先ほどからスキル【言霊】を発動中という確信犯。


≪煽≫≪奮起≫の二つのバフ効果がうなりを上げ、≪共感≫のデバフ効果が追い打ちをかけている。


 


「お~~っ! いっちょ祭りで、どでかい花火あげてやろうぜ!」


「我ら運搬部の実力、見せてやる~~!」


「俺は男より女の尻と乳が好きなんだ~~~!!」


 


こうして、知らぬ間にラングによって“言質”を取られていく仲間たち。


 


だが、そんな彼らもただの馬鹿ではない。


ラングの企みをうすうす察しながら、それでも力を貸そうとする熱き馬鹿たちだった。


 


「ハァッ、ハァッ……ラング、水くさいぞ! お願いって一言あれば、それで済む話だ!」


「うお~~、きっつ~~……なぁ、ラング、俺にも手伝わせてくれないか?」


「オイッチニ~、イッチニ~! ラング君と俺は“尻友”であり“乳友”なんだぜ!!」


 


こうして、ラングにも多くの協力者ができた。

ここでは触れなかったが同部屋3人衆やジョナサン、ドグマそれと、イワンやマニフェスももちろん協力者として名乗りを上げてくれていた。

 


――ものすごくうれしかったが、涙がこぼれ落ちる要素は皆無の「迷シーン」であった。




ラングはもう一つ、密かに情報収集を進めていた。

ナターシャに頼み込み、ここ数年の出店担当部署と担当者の記録を調べてもらっていたのだ。



――今やラングのマイブーム、“農地トレーニーング”の一場面である。


教官は、ナターシャだ。




「さあラングさん、手のひらに魔力を集めて、そのまま留めるのです!

 そして……大きく、さらに大きく、重ねていくのですわ!」


エアカッターをものにしたラングは、次に魔力制御に取り組んでいた。

体内の魔力を手に集め、その状態を長く維持するのだ。


「はい、今、俺の中の魔力が……手に集まり……ぐおぉ、熱い! めちゃくちゃ熱いです!」

眉をひそめ、苦しげに言葉を絞り出す。


「その調子です。五感を研ぎ澄ませて……己の内なる魔力と、外界との境界を感じ取ってくださいまし」

ナターシャもまた、どこか息を潜めるように静かに語りかける。


「はい……己に没頭し感覚を研ぎ澄ませばいいんですね。集中しろ、集中しろ……五感を研ぎ澄ませ、五感を……」

ラングはさらに深く意識を沈めていく――そして、そこで気づいてしまった。


(当たってる。背中に、ナターシャさんの……柔らかいものが、当たってる!!)


どういうわけか、今日もナターシャは背中にピタリと体を寄せ、しなやかなその腕をラングの両腕にまわしていた。


「教官……なぜ、毎回この姿勢なので? 内なる魔力を感じるのに関係がないような……」


「ラングさん、それは浅慮というもの。 外界とはつまり他者、他者とはつまり私。 いきなり自然との境界を感じるのは至難の業ですので、魔力制御を習得しやすいよう、内外の判別が容易な同じ人間同士での境界の確立を導いているのですわ!」


ナターシャは自信を持って答えた。



「すみませんでした教官! ですが、どうかお願いします。 せめて、もう少し、その大きな柔らかいものが背中にあたらない程度に離れていただけないでしょうか! 魔力以外の……その、血が一か所に集中して……ままならないんです~俺の暴れん坊がああああ!!」

ラングは情けなくも悲鳴を上げる。



「……あら。そういうこと、でしたのね。ふふっ、失礼いたしました。

 少々“集中”させすぎてしまったようですわ。では、少し距離を取らせていただきます」


ナターシャは余裕の中にも、湧き上がる喜びを押し殺し、告げた。


こうしてラングは――魔力を制御する前に、自分の暴れん坊を制御することに成功したのだった。



魔力制御は一朝一夕に身につくものではない。

今後も、地道な努力を積み重ねていく必要があるだろう。


だがラングは、心に誓った。

この過酷な農地トレーニングを、決して諦めまいと。


鼻の下がだらしなく伸びた少年が、何を誓おうと説得力も何もあったものじゃない。

明らかに楽しんでいるのは誰の目にも明らかなのだが……

そこには触れないのが優しさというものだ。



トレーニング終了後、ナターシャは一枚のメモをラングに渡した。

それは、イワンによる紙づくりの試行錯誤の成果――

管理小屋に少しずつ蓄積されていたものをナターシャが回収し、秘書業務に活用していたのだ。


「大変、重宝しておりますわ」


そんな報告も、すでに彼女から受けている。


そして今、ラングに渡されたそのメモには――

彼が求めていた情報が、確かに記されていた。


ここ数年の出店担当部署と、その担当者の氏名。


出店の成功の鍵を握る人物たちとの邂逅は、もう間もなくだ。








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