60話 出店出店(でみせしゅってん)2
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鎮潮祭における「市場調査を兼ねた出店計画」
エマルシアと料理長を前に、ラングは昨晩ひねり出した作戦を語り始めた。
1.出店内容の検討・精査。
2.資材は不用品を有効活用し、不足分は魔物による素材売却益等、自力調達を原則とする。
3.有志を募り、終業後や休みを利用して準備を進める。
4.今後の店舗展開を視野に入れた活動とする。
ラングが提示したのは以上、四つの要点だった。
中でも今回最初に話し合うべきは、「出店内容」と「活用可能な資源」の二つである。
まずは「出店内容」からだ。
出店といっても、選べる内容は多岐にわたる。「食」や「衣服」「アクセサリー」などの物販、あるいは「占い」のようなサービス、はたまた「射的」のように物と体験を組み合わせた出し物もある。選択の幅は広い。
そのため、言い出しっぺであるエマルシアに希望を尋ねてみたところ――
「私は断然、スイーツを出すお店にしたい!」
と、即答だった。
これまでもカイエイン商会の出店は飲食類が主だったようで、彼女には「食」以外の選択肢が思い浮かばなかったらしい。
ならば「食」で決まりだ。
「ラングは、できる限りエマルシアの意向に沿った計画を立てるつもりだった。
そこでラングは「食」提供するにあたり、
「鉄板の使用」を提案した。
提供できる種類がある程度限定されるが、準備の容易さ、現地で調理する事による”仕込み”などの準備時間の短縮、及びこれに伴うスペース確保が不要となる点をメリットとして挙げた。
「なるほどそれは理にかなってる」
料理人としての見地から料理長も賛同した。
問題は、“スイーツ”を出すかどうかである。
これについて、ラングは大きな懸念を抱いていた。
――スイーツを出すことは可能だ。今のカイエイン商会ならば、十分に対応できる。
だがそれは、同時に「スイーツを提供する唯一の出店」となることを意味していた。
その影響は計り知れない。
評判が評判を呼び、あっという間に騒ぎとなる可能性がある。
さらに注目が集まれば、街全体を巻き込む騒動に発展する恐れすらあった。
もし目立ちすぎれば、ラングたち一般庶民――いや、今のラングは庶民以下の立場だ――では対処しきれない“大物”が首を突っ込んでくることも考えられる。
その不安を、ラングは正直に二人へ伝えた。
エマルシアはというと、社会経験が乏しいこともあってか、あまり実感が湧かない様子だった。反応も薄い。
一方、料理長はラングの危惧を真剣に受け止め、険しい顔でしばし沈黙したのち、口を開いた。
「ラングの心配はもっともじゃ。だが、ワシに考えがある。ユニオンじゃ……商業ユニオンを通せば、胡乱な輩も下手に手出しはできんはずじゃ。」
商業ユニオン――それは商業ギルドと並び、商人にとって欠かせない中立組織である。
簡単に言えば、
商業ユニオンは大都市を拠点とした、大規模商会による連合組織。
一方、商業ギルドは行商人や個人商店など小規模な商人の同業者組合で、地方都市にも広く拠点を持つ。
運営母体こそ異なるが、どちらも王権や宗教勢力に並ぶ独立した経済勢力として機能している。
ちなみにカイエイン商会は、商業ユニオンに所属しており、新規事業を始める際には必ずこちらを通して手続きを行う。
「坊主もわかっておると思うが、正式にユニオンへ登録された事業となれば、そう簡単には誰も手を出せんじゃろう。
じゃが、それには“事業としての継続的な実績”が必要となる。その点、どうなんじゃ?」
料理長の問いに、ラングはしっかりと頷いた。実はラング自身も、そのことを最初から見越していた。
だからこそ、提案の中に「今後の店舗展開を視野に入れた活動」を盛り込んでいたのだ。
可能であれば、今回の出店で扱うメニューを、将来の実店舗と連動させたい。
そのためには、当然、商会として今後店舗展開を進める流れを作っておく必要もあるだろう。
エマルシアがスイーツを希望することは、半ば予想していた。
彼女にとってスイーツは、単なる食べ物ではない。
落ち込んでいた自分を励ましてくれた“甘い魔法”。それに、もっと深く関わっていたいと願っている。
そんな想いが、彼女の言動から伝わっていたのだ。
では、その希望をどうやって形にするか。
ラングが辿り着いた答えは、「市場調査」という名目で出店を出すことだった。
それならば、たとえ今回の活動が収益に繋がらなかったとしても、商会からある程度の支援を引き出せる可能性がある。
まして、甘味の将来性は天井知らずなのだから。
実際にどれほどの支援が得られるかはともかく――これは、十分に“筋の通った”名目になり得る。
加えて、出店に必要な「人・物・金」の資源を集めるためには、コンセプトが必要だ。
「3.有志を募り終業後や休みを利用して準備を進める」という項目も、そのコンセプトを示す一環だ。
たとえ有志とはいえ、商会の人手を募るには正当な理由が求められる。
それを可能にするのが、「市場調査を兼ねた事業計画」という“建前”だ。
屋台、机、イス、食器など必要なものは多く、調達には時間も労力もかかる。
準備のために動いてくれる人たちにも、せめて飲み物やおやつくらいは用意すべきだろう。
それらを用意するには当然、金が必要だ。
材料費も馬鹿にならない。
だからこそ、大義名分が不可欠となる。
「商会として今後店舗展開を考えているからこそ、”出店”によって市場調査を行う」
とすれば、カイエイン商会の経営資源を投入してもどこからも文句は出ないであろう。
表向き商会に頼らず自力で運営する姿勢を打ち出しながらも、あわよくば商会の協力を取りつけようというラングの思惑が透いて見える。
「2.資材は不用品を有効活用し、不足分は魔物による素材売却益等、自力調達を原則とする。」というラングの原案がまさにそれだ。
それらを踏まえ、ラング、エマルシア、料理長の三人は意見を突き合わせ――
**「鎮潮祭における市場調査を兼ねた出店計画」**を策定したのだった。
甘味がこの世界では王侯貴族以外口にする事ができない超貴重な物というバックグラウンドがあるのです。
エマルシアがスイーツの提供を希望したのに対し、ラングが鉄板の使用を主張するのにもちゃんとした理由があるのでした。それは今後の物語の中で明らかになります。




