57話 ポルトニア平原の探索4
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日が暮れる頃、ラングたちは野営の準備に取りかかった。
今日の成果は、まずまずといったところだ。
回収した魔石の数こそ、先日の魔物討伐には及ばなかったが、討伐数そのものは今回の方が多かった。
魔石が少ない理由は――まあ、察しの良い者ならわかるだろう。某・食いしん坊な神獣のせいである。
とはいえ、これは許可を得たうえでの“魔石食い”なので、まったく問題はない。
ましてや今回の主目的は植物の採集。
その点では、イワンの精力的な探索のおかげで、十分すぎる成果を収めることができた。
報告は、夕食後に行われる予定だ。
今夜泊まる宿は、道具袋から取り出せば完了だ。
覚えているだろうか、以前リヤカーに乗せていた“コンテナ”を。
職場環境を改善するために作られた、あのリヤカーの「一部品」である。
今回はそのコンテナに少し手を加え、簡易なコンテナハウスへと改造したのだ。
制作者はもちろん、凄腕魔道具士・ドグマである。
形状はほとんど変わらず、せいぜい幅を広げた程度。
開口部をこれまでの上部から、短辺側の側面へと変更し、そこに出入口を設けた。
安全面を考慮して窓は設けず、通気口をいくつか備えたシンプルな構造。
――つまり、ものすごく頑丈な“箱型テント”とでも思っておけば間違いない。
野営するには、これで十分すぎるほどだ。
こうして、一行は“安全が確保された頑丈な箱”で、横一列に眠る異世界アウトドアな夜を迎えるのである。
「よし! 野営準備、完了!」
道具袋から飛び出した大きな箱に、イワンとスーベがそろって驚きの声を上げた。
「これは……! この箱がテント代わりになるんですか? すごく頑丈そうですね。中は……ふむ、五人が余裕で横になれそうだ……」
イワンはコンテナの壁をあちこち叩いたり、扉を開けて内部を覗き込みながら、ブツブツと評価を呟く。
「のわ~~っ!? そんな大きな箱が、あの小さな袋の中に!? これがテント!? おかしいでしょ!? 組み立ていらずの野営アイテム!? 駄目だ、頭がついていけない~~!」
普段は穏やかなスーベが、思わず声を張り上げた。
コンテナそのもののインパクトもさることながら、道具袋の見た目からは到底想像できない収納力に、完全に度肝を抜かれてしまったようだった。
食料は現地調達。
ここまでの道中で討伐した魔物の肉をまるごと焼き、仕上げに塩をパラパラッと振りかければ――はい、全品料理の完成!
肉がこの世界で主食として親しまれているのも納得の味だ。
滴る肉汁のなんと美味なことか……!
付け合わせは、採れたて野菜のサラダやバター炒め、そして豪快な具だくさんスープ。
これらもすべて、凄腕魔道具士・ドグマの“着火魔道具”で、あっという間に調理された。
「いやはや、こうして食べてみると野菜というのも悪くないな。シャキシャキとした食感がたまらないぞ」
「ほんとっすね~。なんで今まで見向きもしなかったのか、不思議っすよ! めっちゃ損してた気分になるっすね~」
「僕は植物を観察するため、野原に分け入っては試食してきたので……みなさんに美味しさが伝わって嬉しいです!」
「まいう~! 食感と肉肉しさの宝石箱や!」
「出たぞ、ラングの“宝石箱”が……。あれ、どうにも耳に残って困るんだ。ついこの前なんて、口をついて出そうになって焦ったからな!」
「ドグマ師~。美味いもんを食べたら、心のままに叫ぶのが正解っすよ!」
「おい、誰がドグマ“氏”だ。ホル氏だの、コモドン氏だの……俺もついに“後氏付隊”の仲間入りか?」
「いやいや、ドグマ“師”は“師匠”の師でしょ? “氏”じゃない方の“後師付”だよ!」
「決まってないだろ、そんなもん! ややこしいこと言ってないで、もっとがっつり食えって。あれだろ、“オイ、俺の上腕二頭筋、大きくなれ!”……ってやつ? 俺が鍛えてやろうか?」
「あ~、それって運搬部名物の“筋肉キャンプ”っすね! 今じゃ休憩時間にみんなで筋トレや特訓してるっていう……」
「え? 俺、最近はそっちじゃないよ。“農地トレーニング”がマイブームさ!」
ラングの元の世界の言葉を次々に持ち出しながら、話題もだいぶ脱線しているようだ……。
夜風が手つかずの平原を吹き抜け、満天の星空が頭上に広がる。
一行はイワン特製のハーブティーを手に、しばし食後のひとときを過ごした。
さて、イワンからの報告だ。
まずは、今回の採集で最も期待されていた“穀物”について。
これは、あっさりと目標達成となった。
イワンが穀物を意識して探索を進めてくれていたおかげで、到着早々に“小麦”を発見。
十分なサンプル量を確保することができたのだ。
さらに、とうもろこしによく似た植物も採取。
これで「穀物を主食に」という目標に大きく前進したと言えるだろう。
なお、植物の命名はすべてイワンに一任。
これ以上、おかしな名前の植物を増やしてはならないと、ラングが自重した結果である。
とはいえ、上記の二つについては混乱を避けるため、あえて似た名前を採用した。
そのまま「コムギ」と「トウモコロシ」である。
……え? “トウモロコシ”じゃないのかって?
それは、イワンの聞き間違いによる命名だったことを、ここに明記しておこう――ラングの名誉のために。
次に野菜類。
ネギ、玉ねぎ、ニンジン、長芋などなど――葉物野菜も含めれば、なかなかの種類が集まった。
今後は育成の難易度も含めて、一つずつ検証していくことになる。
それぞれの名称はイワンのセンスで決定されたが、この物語では読者の理解を優先し、ネギや玉ねぎといった元の世界の名前で統一することにする。
香辛料については、いくつかハーブ系の植物を発見できた。
しかし、残念ながら胡椒に相当するものは見つからず……。明日の探索次第ではあるが、こればかりは輸入品に頼ることになるかもしれない。
そして最後に、イワンがとても興味深いものを見せてくれた。
ふわっふわの、まるで綿のような繊維――
元の世界で言う「綿花」にそっくりな植物だ!
これは偉大な発見だ。
これまで“食”に焦点を当てていた植物採集に、“衣”という新たな側面が加わった瞬間だった。
もし綿花の生産が可能になれば、衣服づくりの夢が一気に現実味を帯びてくる。
何より、この世界の人々の装いは、どうにも華やかさに欠けるのだ。
毛皮はたしかに良い。もふもふの手触りには誰しも癒される。
なめした革もまた、引き締まった大人の格好良さを引き立ててくれる。
ラング自身、そんな凛々しい佇まいに憧れを抱いている。
木の皮から作られる布――たしかにこの世界ではそれが一般的で、生活には十分だ。
だが、それだけで満足してしまっていいのか?
色の種類が、あまりにも少なすぎる。
黒、茶、こげ茶……それだけじゃ、世界は彩れない。
赤や黄色、オレンジや青。
もっとたくさんの色で、この世界を満たしたい。
お洒落をもっと身近に――もっと自由に楽しめる世の中にしようじゃないか。
フリルをまとった美少女の「かわいい」が見たい。
洗練された美女の「セクシー」が見たい。
スタイリッシュなイケメンも、渋さを極めたイケオジも、この世界にもっと登場してほしい!
……不覚だった。
食だけでは駄目だ。「衣食住」すべてが揃ってこそ、本当に豊かな暮らしと言えるのだ。
もう少しで、俺は大切なことを見落とすところだった。
天は我を見捨てなかった――ってことか。
明日からは、“食”とともに“衣”も意識して探索していこう。
食べられない花だって、染料として使えるかもしれないし。
見た目が悪い木の実にも、実はダイヤの原石以上の価値が眠っているかもしれないのだから。
反省し、修正し、進むのだ。
活動報告にラングの現状スキルについてまとめました。
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ラングのスキル【言霊】の現在Vol.2
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