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56話 ポルトニア平原の探索3

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークやリアクションを頂けるととても励みになります。

早朝──鳥小屋の横に併設された管理小屋にメンバーが集まった。

(ちなみにこの小屋は、ナターシャがよく体操着に着替えている場所でもある。)




今回は、ドグマにもう一つ道具袋を用意してもらい、そこにリヤカーを仕舞しまい込んである。

実は、ドグマ謹製きんせいの道具袋は、小さな見た目に反して驚くほどの収納力を誇っている。

──が、いかんせん保存状態に関しては難がある。



たくさんの物をランダムに突っ込める便利さの反面、物によっては傷がついたり、破損する恐れがあるのだ。

便利なものも、多少の粗はあるものだ。




リヤカーが重宝されているのは、運搬する商品をしっかりと梱包こんぽうし、クッション材などで保護しておけば、傷つけずに運ぶことができるからである。


道具袋に無造作に放り込んでしまい、大切な商品を傷つけては本末転倒だ。


さらに、道具袋内に入れた()()()は時間とともに傷んでしまう。

討伐した魔物などを長期間放置したら、中でどうなるか想像に難くない。

うっかり仕舞ったまま忘れ、しばらくしてから開けたら異臭騒ぎ──なんて事態になったら目も当てられない!



幸い、道具袋の内部は極端に暑くも寒くもならず、常温で保管されていると考えてよさそうだ。


今回は、菜園で育成するためのサンプル採取が目的だ。

運搬中に傷まないよう配慮する必要があるため、リヤカーを使用することになった。


つまり、帰りは大切な荷物を運びながらの移動となるため、行きの倍近く時間がかかる見込みだ。


また、あまり欲張って積み込みすぎると荷崩れの危険もある。積載はほどほどにしておこう。




街を囲む城壁を抜け、王国を南北につなぐ街道をしばらく南へ進むと、景色が一変した。

街道こそ整備されているものの、周囲には草木が生い茂っている。

背の高い木は少ないが、まさに荒れ地と呼んで差し支えない光景だった。



街から少し離れただけで、これほど変わるのか──。

軽いカルチャーショックを受けながら進んでいると、やがて街道脇の茂みから「ごそごそ」と物音が聞こえてきた。



警戒しつつ視線を向けると、一体の魔物が茂みから飛び出してくる。

まごう事ない流線形のそのフォルム。

RPGで最初に出会う魔物の定番と言えば──、そうスライムだ!

仲間たちは「緊張して損した」、みたいな表情を浮かべて顔を見合わせている。



「よし、俺の出番だね!」


パーティー中で随一の弱さ(?)を誇るラングの成長のため、弱い魔物は彼に任せる方針となっている。


日々の特訓や”農地トレーニング”でラングも少しずつは強くなっている。

≪草刈り上手≫の実力を見せる時だ。……いや、今回は≪血気盛ん≫のほうか?



この世界における強さは、レベルやスキルだけでは測れない。

戦闘スキルを鍛えるには、実戦経験を積むことが何より重要だ。


スライムは体当たりくらいしか攻撃手段のない弱敵だが、初心者にとっては最適の相手。


ラングは慌てることなくスライムと向き合い、その動きを見極めながら、手にした短剣で――

スライムの核を一刺し!


見事、討伐に成功した。





出現した豆粒ほどの魔石を手のひらに乗せたまま、ラングは初めての単独討伐の余韻にじんわりと浸っていた。

するといつの間にか、腕からラングの手のひらへと移動していた希が声をかけてきた。


「主、それ食べたい」


「えっ、何を? まさか魔石を?」


「うん。とても美味しそう。だからお願い」


魔石は通常、パーティー全員の共有財産だ。

今回ラングが単独で倒したとはいえ、勝手に処分するのはご法度である。


「えーっと、みんなにお願いがありまして……希がこの魔石を食べたいそうなんですけど、いいですか?」


すると、スライムの魔石程度では魔道具の材料にもならず、売っても大した値にはならないということで、あっさり許可が下りた。


「希、食べていいってさ。はい、どうぞ」


希は豆粒大の魔石を、まるっと一飲み。

なんだかとても美味しそうにしている。


以後、スライムを倒すたびに希からおねだりされ、そのたびにラングは魔石を与え続けた。


そして――10個目の魔石を食べた時のことだった。

突如、希の体が白く発光したかと思うと、中央からぱっくりと割れたのだ。


「おい、希、大丈夫か!?」


突然の出来事にラングは慌てて希の体を両手で包み込んだ。

だが、よく見ると割れていたのは表皮だけで、中からひと回り大きくなった希が姿を現したのだった。


「えっ、脱皮……? 希、脱皮したの?」


目の前の新しい姿に驚きつつ、ラングはふと思い立ってステータスウィンドウを開いた。


「うげっ! 希のステータス、結構上がってる! しかもスキルもいくつか覚えてるし……って、うわ、魔眼まで覚えてるじゃん!」




〖新たに希が覚えたスキル〗

【体当り】――突進の威力を強化し、与えるダメージを増加させる。

視温しおんの邪眼】――対象から発せられるオーラを感知し、その敵性を色で識別する能力。

【操糸】――尾の先端から数種類の糸を吐き出し、自在に操る能力。

【献身】――主に対する強い想いが具現化。主の指揮下で能力が上昇し、主が受けたダメージの一部を肩代わりする。



【視温の邪眼】と【操糸】は、使いこなすにはある程度の訓練が必要だろう。

そして【献身】──これは少し注意がいる。使い方を誤れば、希自身の命を危険に晒す恐れがある。

当面の間は封印しておくべきだと、ラングは判断し、念話でその旨を希に伝えた。



その直後から、希はさっそくスキルを使い始めた。

主の命令に応えて動くことが、希にとって喜びなのだとヒシヒシと伝わってくる。その様子が、また何とも可愛らしい。


「主、あの木の陰にスライム一体。その奥の岩陰にもう一体いる」


「了解。近い方から順番に仕留めるよ。希、粘着糸で動きを止めてくれる?」


「わかった、糸くっつける!」


ラングは希に的確な指示を出しながら、意識してスキルを繰り返し使わせた。

少しずつ連携の精度も上がり、二人は次々とスライムを倒していった。



やがてスライム以外の魔物も現れるようになったため、パーティーメンバー全体で連携しながらの戦闘へと移行した。



意外にも、食材鑑定以外はあまり期待していなかったスーベが、案外戦えるという事実に驚かされた。

普段使っている包丁より少し長めの双剣を持たせてみたところ、これが意外にも器用に扱えていたのだ。

ラングのスキル効果もあってか、戦力として十分通用している。


「半月切り! そら、いちょう切り! かつらむき~~!」

手慣れた包丁の扱いそのままに、軽やかに魔物を切り刻む。


最後の”かつらむき”でどうして魔物を倒せたのかはわからないが、次々と魔物を仕留めていった。


実のところ、一番驚いていたのはスーベ本人だった。



「どういうわけか体が動くんだよね。力が漲って来るというか…… これがラング君のスキルの効果なの?」


「多分そうだと思います。普段より100倍くらい強くなってるはずですからね!」


「いやそれはとんでもないね……。恐れ入ったよ」



そんな軽口を叩けるほど、一行にはまだ余裕があった。



そうして──、


ようやく目的地「ポルトニア平原」に到達した。




視界いっぱいに広がる草原は、ただただ広大で、どこまでも穏やかだった。

遠くには草食動物の群れがのんびりと草を食む様子が見え、

色とりどりの花々が、そこかしこに可憐に咲き乱れている。


「さすが、植物の宝庫と言われるだけのことはあるな……」


思わずラングが感嘆の声を洩らす。


そして俄然やる気をみなぎらせたのがイワンだった。

スーベを引っ張り回しては、あれを鑑定しろ、これも鑑定しろと大はしゃぎ。

これまでひたむきに植物を研究してきた男の情熱が、まざまざと伝わってくる。



ここからは。探索に夢中になる二人を護衛するのが他のメンバーの役目だ。


途中現れる魔物はドグマ、マニフェスが中心になって倒していく。

当初聞いていた通り、命の危険を感じるような敵は現れていない。


一方ラングと希は――自由行動という名の、戦闘訓練に没頭していた。

ちぎっては投げ、倒しては魔石を頬張り、希の戦闘本能と食欲は無尽蔵だ。


面白いくらい、目に見えて動きが鋭く、強力になっていく。

あまりの成長の速さにラングは一抹の不安を覚えた。


「……俺、この遠征が終わる頃には、希より弱くなってるんじゃね?」

ラングのその心配は――残念ながら現実のものとなる事をまだ二人は知らなかった。



というよりも、「自分には何の恩恵もないスキル【言霊】が、希にはちゃんと影響している」時点で、

既に主従の力関係は逆転していたのだった。


フレ~フレ~ラング~!

めげるな、挫けるなラング!



主の腕にしがみつきながら、嬉しそうに魔石を舌で転がす希を撫でつつ、

複雑な想いに頭を悩ませるラングなのであった。



こうして、探索と討伐に没頭した一行の第一日目は、ゆっくりと暮れゆく空の下、静かに幕を下ろしていった。





活動報告にラングの現状スキルについてまとめました。

お時間がございましたらご覧ください!

ラングのスキル【言霊】の現在Vol.2

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3482034/

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