55話 ポルトニア平原の探索2
お立ち寄りいただきありがとうございます。
ブックマークやリアクション等していただけると嬉しいです。
いつものように、採れたての食材を食堂に届けたあと、ラングは社屋の片隅にある”魔道具製造部”へと足を運んだ。
元は倉庫課が使っていた物置小屋だったが、現在は内装工事の真っ最中。その進捗を確認しておきたかったのだ。
現地に着くと、鋭い目つきのドグマが職人たちに次々と指示を飛ばしていた。
さすがは自らも手を動かす職人。職場づくりへのこだわりが半端ではない。
マニフェスもまた、職人たちに混じって内装作業を手伝っているようだった。
内装が終わらなければ本格的な仕事は始められない。彼なりに少しでも力になろうとしているのだろう。
ラングはしばしその様子を眺めていたが、やがてドグマが彼に気づき、ゆっくりと近づいてきた。
「なるほど、分かった。俺たちも同行しよう。忙しくなるのはまだ先だし、ついでに近くの魔物でも狩って魔石の在庫を増やしておくのも悪くないだろ」
ラングの提案に、ドグマは即答で応じてくれた。
「師匠の行くところに、マニフェスありっす! 当然、僕もご一緒するっす!」
すっかりドグマの弟子が板についたマニフェスも、異論はない様子だ。
二人の協力を取りつけたラングは、これ以上の長居は無用と、その場をあとにした。次なる協力者の元へと向かう。
「彼女なら、二つ返事で応じてくれるだろう」
そう踏んでいたラングだったが――その目論見は、意外にも外れることになる。
例によって食堂を訪れると、いた。
紺のスーツに身を包み、どこかすました表情で席に座る美女――ナターシャだ。
目の前に料理は並んでいるものの、手は付けず、どうやら誰かを待っているようだ。
そして――、
「ラングさん、お待ちしておりましたわ。お隣にどうぞ!」
いつものようにハンカチアピール(ハンカチでさっとイスを払う)をして自分の隣に腰を下ろすようラングを促す。
(向かい席に座った方が話しやすいのに、どうしてこうも隣に座らせたがるのだろう?)
ラングはその事を純粋に疑問に思いつつも、昼食のメニューをトレーに乗せて、素直に従った。
「その日からしばらく予定が立て込んでおりまして、残念ながら……痛恨の極みでございますが、ご一緒出来ないのですわ。あの〇〇商事の約束なんて断ってしまおうかしら。だいたい、あのハゲ親父ときたら、いつもいやらしい目で私の体を舐め回すように……わかりました、今から断りを入れて参りますので少々お待ちください」
ラングは暴走を始めた美人秘書を慌てて引き留めると、なだめすかして落ち着かせた。
(そんなこの世の終わりみたいな顔をしなくても……)
あまりの落胆ぶりにラングは話題を変えて気を紛らわせることにした。
「ナターシャさん、筋肉痛とか大丈夫でした? 俺はもう節々が痛くて……。なんかこう全身がこわばっていると言うか、カチコチで思うように体を動かせませんよ」
その一言に、隣の美女がギラリと目を光らせる。
「それはいけませんわね。さぞお困りでしょうから、食事が終わりましたら、私がマッサージして差し上げましょう。特にコチコチ固い部分を念入りに。愚腐っ」
まるで獲物を見つけた肉食獣のような視線を向けてくる。
「い、いえ、結構です! 今治りました!」
すかさず断りを入れるラング。
「そんな遠慮なさらず、ささ、今からでもご奉仕致しますわ!どこか空き室は……」
いつものようにじゃれ合っていると、不意に料理長が顔を出した。
「おい坊主、それならスーベを連れていけ。食材鑑定できる者がおった方がよいじゃろう。荷物持ちでもなんでもこき使ってかまわん」
なんという地獄耳か。
厨房の中から会話を聞きつけ、割り込んできたのだ。
そう言えば、エマお嬢と話している時も、ちょいちょい話に割り込んできてたっけ。
恐らく聴覚を研ぎ澄ますようなスキルか、シーツのようなものを持っているのだろう。
いや、料理長のことだ最低でもシーツから進化したアーツくらいは持っているに違いない。
ラングは、今後は食堂での会話にもっと気をつけようと、改めて心に刻んだ。
特にお嬢との会話で下手な地雷でも踏んだらとんでもないことになるだろうから。
――とはいえ、思わぬところから人手を借りられる算段がついたのはありがたい話だ。
ラングは胸をなで下ろしながら、笑顔で席を立ち、空いた食器を返却口へ運ぼうとした。
すると──、
「ラングさん、この後のマッサージは……?」
「だから、要りませんってば!」
しつこく誘ってくる、美人秘書。
……だが、どうせ冗談半分でからかっているだけだろう。
だよね……?
☆ ☆
ナターシャさんが来れないのは正直痛い。
直接魔法攻撃ができる唯一のメンバーだからだ。
それとこの前のあの凶悪なスキルも何かの時にはとんでもなく頼りになる。
物体を一時的に固定して動けなくするって、何?
マジで凶悪を通り通して極悪と言った方が良いスキルなんだけど!
だが、こればっかりは仕方がない。
遠距離攻撃はイワンさんに頼ることになるが、まぁ問題はないだろう。
魔物の脅威度もそれほどではないと、イワンさんも言っていたし。
出発までにはまだ少し時間がある。
その間にできる事はやっておこう。
……そのためにも、もう少し“少し頭の腐りかけた美女”とイチャイチャしておいた方がいいのかもしれない。
なぜか彼女と一緒に行動すると、ワラワラと新しい効果が発現するのだ。
もしかすると、スキルの中位形への進化にも、何か関わっているのでは……?
そう考えると、大変不本意ではあるが──できるだけ彼女と一緒にいた方がいいだろう。
こ、これは仕方なくなんだからね!
戦略的に不可欠だと判断し、やむを得ずそうするんだからね!
年上お姉さんとの楽しい時間のあれこれを妄想し、
鼻の下をグーンと伸ばした少年が言っても説得力は全くないのだが……。
活動報告にラングの現状スキルについてまとめました。
お時間がございましたらご覧ください!
ラングのスキル【言霊】の現在Vol.2
https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3482034/




