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53話 思春期な主と神獣な従者

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戦いの緊張から解放されたラングは、その場にへたり込んでいた。

一方、彼の手のひらに乗った子蜘蛛は、わずかながら元気を取り戻したようだった。


前足で頭のあたりをくるくると撫でるしぐさが、なんとも愛らしい。

毛づくろいでもしているのだろうか。


親も、数百といた兄弟たちも皆死んでしまった。

けれど、ラングの手のひらでこうしてくつろいでいる――このたった一匹だけが、奇跡的に生き残ったのだ。


「小さい体で、よく頑張ったな、おまえ」


ラングはそっと子蜘蛛の背に触れ、優しく撫でながら語りかけた。

掌の中の小さな勇者を見つめながら、彼はあらためて決意する。


この子を、俺が守っていこう――。


「なあ君、うちの子になるかい? 一緒に帰ろう!」


すると、思いもよらぬ変化が起きた。


子蜘蛛の体がふわりと白く光ったかと思うと、その光に包まれるように全身が純白へと染まっていったのだ。


それは、半透明でか弱かった姿とはまるで別物。

神々しさすら感じさせる、まばゆい純白の姿へと変貌していた。


さらに――。


両目の間、やや上の額の位置に、第三の瞳が現れた。

その瞳は、かつての親蜘蛛と同じ、深く黒い色をたたえていた。



さらに、驚くべきことが起きた。


あるじ、名前つけて」


ラングの頭の中に、突然、子蜘蛛の声が響いた。


「えっと……“主”って、俺のこと?」

「そう。早く名前つけて。お願い」


ラングは一瞬、頭が真っ白になったが、じっと自分を見つめてくるその瞳に背中を押されるように、ふと思い浮かんだ名前を口にした。


「……“くもすけ”はどう?」


「なんか嫌」


「じゃあ……“くもきち”とか?」


「それも嫌」


「わがままだなぁ。うーん……」


続けざまに二度拒否されたので、今度はしっかり考えてみる。


親蜘蛛も、数百匹の兄弟たちも、みんな命を落とした。


だが、唯一生き残り、たった一つ残された希望。


ならば……。


のぞみはどうかな。希望という言葉からとったんだ。」

「のぞみ……うん、“希”!」

子蜘蛛は気に入ったみたいで、嬉しそうに頭をすりすりしている。


「じゃぁ希、家に帰ろう」そう言いながら立ち上がろうとした途端、

ラングは思わずよろけて倒れ込んでしまった。


その様子を傍らで見守っていた仲間たちは、子蜘蛛――希の突如として起きた変化に、ただ呆然とするばかりだった。

マニフェスは口をぽかんと開けたまま固まり、

ドグマは目をカッと見開き、

イワンは腰が抜けたみたいだ。


その中で、ただ一人――ナターシャだけが落ち着いていた。

彼女はすぐさまラングのもとに駆け寄り、優しく抱き起こしてくれる。


こういうとき、女性は本当に頼りになる。


「ラングさん、大丈夫ですの?」

ナターシャが心配そうに声をかける。


だが――、ラングのほっぺたのあたりに柔らかい感触が……。

(あ、あたってる!豊満な胸のふくらみが……頬に…… 俺、大丈夫じゃないんだけど、下半身の方がもっと大丈夫じゃないやい!)


ナターシャに抱きかかえられながら、なんとか邪念を振り払おうとする。

違う事、違う事を考えて――、

そうだ!どうして体から力が抜けたんだろう?


ラングは考えをめぐらす。


すると、


「ラングさん。もしかすると、その子蜘蛛の急激な変化……いえ、“進化”と呼んだ方がいいでしょうか? その影響が、あなたにも何らかの形で及んだのかもしれませんわね」


まるでラングの思考を読み取ったかのように、ナターシャは言った。




その言葉を聞いて、ラングは自らのステータスウィンドウを開いた。


すると、常識をはるかに逸脱した情報が飛び込んできた。


――称号欄に、新たな称号が表示されていたのだ。


《神獣蜘蛛の主》


「神獣蜘蛛? えっ……?」


ラングは思わず声を上げる。するとナターシャが、心配そうにラングの顔を覗き込んできた。


「何か変わったことが?」

短く尋ねる巨乳美女。


(ダメダメ!下を向くとさらにぼよ~んとした感触が!ダメ、ほんとダメ反応しちゃうから……)


ラングは目を閉じて精神を安定させようと努める。収まれ~収まれ~と念じながら。



「え~と、今、その子蜘蛛にうちの子になるかい? って言ったんですけど、その時急に真っ白に変化したのは見てましたよね? なんとこの子――、その時に神獣になっちゃいました~!」

ラングは自分の”きかん坊”の事に気付かれないように努めてあっけらかんとした口調でおちゃらけた。


「まぁ! それはとんでもない出来事ですわ! さすがラングさん、やはり使徒の方は奇跡を起こすものなのですね。それと……さきほどからずっと、腕に感じる“固いもの”も、私にとってはひとつの奇跡ですわ」

最後の方は、ラングの耳元に口を近づけ囁いたのであった。


(バ、バレてた~~~!? OTZ……しかたないだろ! 俺だって年頃の男の子なんだから~~~っ!)


あまりの恥ずかしさに、顔を真っ赤にするラングなのであった。



――そうそう、もう一つステータスウィンドウで明らかに変化していたものがあった。

ラングのバイタル値(Vt.)が、「1500/101500」になっていたのだ。


おそらく、希が神獣へと進化した際、その代償としてラングのバイタル値の大半が消費されたのだろう。

この表示からすると、時間が経てば回復するようだが、一気にここまで減れば体にも負荷がかかるのは当然だった。


完全に元に戻るには、何日かかるだろうか……。

次回の“汚腐会”では、バイタルの仕組みについて、モルモルにじっくり聞いてみようとラングは思った。



さて――。


色々あったが、俺のレベルも一気に12も上がったし、今回はまずまずの成果ってところだろう。


いや、違うな。

希という神獣が、俺の従者になったのだ。

これは“まずまず”どころか、”かなりの結果”なのかもしれない。


この子からは、何かものすごく大きな可能性を感じる。

俺は、この子と一緒にもっと強くなっていこう――そう、心に決めた。



……って、ナターシャさん! そろそろ俺の顔を覗き込むのは勘弁してぇぇぇ!


もう大丈夫なんだから~

それより大丈夫じゃない部分があるんだから~

一か所に血が集まって、貧血にでもなったらどうするってんだ!

この感触を手放すのはもったいないが、みんながニヤニヤ見てるから もうやめてぇぇぇ!




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