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36話 美少女の挑戦2

エマルシアに生じた変化の兆しがここに来て行動となって表れた。

引きこもりがちであった少女が自ら「何かをやりたい」と言い出したのだ。



「バイオレンスチキと仲良しになりたい?」

エマルシアからの突然の話にアルバート=カイエインは思わず声を上げた。


このところ足繁く食堂に足を運んでいる事は聞き及んでいた。

日に日に明るくなり、笑顔を取り戻した娘を見るのは何よりも嬉しかった。


学園にはまだ通えていなかったものの、そんな事はどうでも良かったのだ。

娘が笑ってくれてさえいれば、それ以上何を望むと言うのか。


それにしてもである。


「何故いきなり魔物なんだ?」

同じ年頃の子供達と比べて体格に恵まれているわけではない。

むしろ平均よりやや小さいくらいだろう。


昔から物覚えのいい娘だったから地頭はいいのだろが、魔法の才能はあまりないようで……。 

今は亡き妻に似ていればと、 何度思ったことか。

だが、資質の面では自分に似てしまったのだろう。


せっかく取り戻しつつある自主性。

だが娘の安全を第一に考える親心は即断を許さなかった。


「エマルシア少し考える時間をくれ」

その言葉を聞いてわずかに失望を浮かべた可愛い娘の表情に胸が痛んだ。



「旦那の気持ちはわかる。だが、娘の背中を後押しするのも親の役目じゃねーんですか」

トルマのその言葉が胸を刺す。



「お嬢の事はワシが絶対に守るから、どうか望を聞いてやってくれ」

真剣な眼差しで頼み込むトルマの言葉で心は定まった。


こうして幾つかの条件と引き替えに首を縦に振った。




当日、朝日の柔らかな日差しに照らされて、騒めく一団がいた。

爽やかな一日の始まりとは決して言えない物々しい雰囲気を漂わせて――。


「なんでこんな大げさな事に……」

想像の斜め上を行く展開にラングは思わず声を洩らした。


ミスリス性の鎧を身に着けた重装備の男を囲むのは、

一癖も二癖もありそうな面構えをした男達。


重装備の男は一歩前に出ると名乗りを上げた。


「君が()()ラング君だね、最近娘が随分世話になってるようだからまずは一言礼を言おうと思ってね」

この人こそラングの雇い主であり、エマルシアの父であるアルバート=カイエインであった。


「いえ、俺なんてそんな大したことは……」

カイエイン商会をまとめる男から滲み出る迫力に気おされながらラングは答えたのだった。


会頭が伴っているのはAランクパーティの”不屈の兵団(つわものだん)”。

港町ポルテアでも名の知れた精鋭達だ。


しかるべき護衛とはまさに彼ら事だったのだろう。



一方、ラング達も備えは万全だった。

料理長は装備こそ軽微だが大きな斧を片手に、ドワーフ特有の防御力に優れた強靭な肉体に気合を漲らせている。

それに加えて、ダール、コモドン、ホルス、ジョンジョンと言った仲間達も荷物持ち兼護衛として名を連ねていた。


これにラングのスキル【言霊】による身体能力強化が加われば、全く問題なかったはずなのだ。


だが、結果として過剰なまでの戦力が揃ってしまったのであった。


(正直言って過剰もいいとこだよ。バイオレンスチキは気が荒いのはやっかいだけど、強さ自体はそれほどでもないんだから……)




波乱含みの出発にはなったものの、道中、途中までは……、実に和気あいあいとした雰囲気だった。


柵で囲まれた菜園(まだ農園と言えるほどには広がってない)を通りかかった際には――、

育てている植物の幾つかを自慢げに説明しているラングがいた。


お嬢が食いついたのは――「てんさい(正式名称ラングクンテンサイ」というラングがいた元の世界のダイコンに似た植物だった。


「地面の中に”お砂糖さん”が眠っていただなんて――まさか思わなかったわ。

さしずめ”地下に眠る白いダイヤ”ってところかしらね」

本を好む少女らしい文学的な表現をするエマルシア。


「おっ!お嬢、うまいこと言うね。甘味の価値を表すのにぴったりの表現だよ」

思わず感心するラング。


「かかか、お嬢も最近坊主みたいな事を言うようじゃな。宝箱だなんだと言い出さないかワシャ心配になってきたぞ」

茶々を入れる料理長。


「あら、トルマさん? ”ラング君みたい”だなんて言われるのは心外ね。だってラング君ってば”まいうー”とか”気分アゲアゲ”とか変な事ばかり言って……ふざけてばかりいるんだもん」

エマルシアはかわいらしく”プクー”っと頬を膨らませる。


「そうですよトルマ。文学的センスの塊のお嬢と、せいぜい三文芝居のラング少年の言い回しを、お嬢と同等に扱ったら、いくらなんでもお嬢が気の毒ですよ!」

ここで支配人アルマから容赦のないツッコミが入る。


「みんなひどいや!よってたかってさ……。そりゃお嬢みたいな品のある言い方はできないけれど。プンプン」


「「「そういうところ(じゃ)(ですよ)!」」」



そうした和やかなやり取りを、面白くなさそうに見つめる人物が一人――

アルバート=カイエインである。


「ごほん。ところでラング君とやら、君とエマは……いったいどういう関係なのかね?」


文脈も空気も無視した、唐突すぎる質問が会話に割り込んできた。


(朝からやけに表情が固いと思ったら、そっちの心配してたの!?

魔物より“悪い虫”のほうが気になるってわけね……)


ラングは意表を突かれ、数秒ほど思考がフリーズした。


「お父さん、またその話? この前も言ったでしょう、ラング君は仲良しの“お友達”だって」


「いやいや、父としてはね、やっぱり気になるわけだよ。どのようなお付き合いなのか、ついね」


「だから~、今はまだ――“ただのお友達”よ!」


(“まだ”……?)


はっきりと「友達」と言われたことを落ち込むべきか――

それとも、“まだ”という一言に希望を抱くべきか――。


複雑な感情を胸に抱えつつも、これは誤解を解いておかねばとラングは決意する。


(いっそ座布団を横にずらして「お嬢さんを僕にください!」って土下座でもしてみる?)


そんな状況を確実に悪化させる妄想を振り払うように、ラングはブンブンと頭を振った。


「エマお嬢様には、ここ最近とても親しく接していただいていて……本当に嬉しいです!」


努めて純真無垢な少年っぽさを装い、ラングは丁寧に答えた。

――できる限り“大人ウケ”の良さそうな言い回しで。



その後、アルマとトルマの兄弟が間を取り持ち、どうにか場は収まったのだが――


「近々、私の部屋に来なさい」

全力で拒否したくなるような命令が、ラングに下されたのだった。


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