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32話 お嬢に笑顔を1

挿絵(By みてみん)

「エマルシア=カイエンイメージ」「※AI生成」「AI generated」




今朝は普段と違い、ラング一人だけが別行動を取っていた。

特権グループの件がひと段落し、この商会における改革を次のステップへ進めたいところ――。


だがその前に、どうしても向き合っておきたい問題があった。


料理長と支配人が心を痛めている「お嬢」と呼ばれる存在について、詳しい話を聞く必要があったのだ。


このところ、二人からは並々ならぬ協力を得ている。

今度はラングが、彼らの力になる番だった。


そして、三人は食堂に集まり、静かに話が始まった。


「“お嬢”ってのはね、カイエイン商会の会頭――アルバート=カイエインの娘さんのことさ」

アルマ支配人が、穏やかな口調で話し始めた。


「今年から、ここポルテアにある《ポルテパルア学園初等科》に入学したんけど……どうにも馴染めないようでね。

最初は張り切っていたんだが、徐々に足が遠のいて……今じゃ、まったく通わなくなってしまった」


言葉の最後に、アルマはため息を漏らした。



「天真爛漫な笑顔のかわいらしい子でな、時々この食堂にも顔を出して、ワシらにも随分懐いとったんじゃが、ここ最近は姿を現さんでの、ワシャ寂しゅうて……」

料理長はいつになく弱々しい口調で後を継いだ。



「そこでな、坊主なら年も近いしお嬢のいい話し相手にならんかと、兄貴と話しとったんじゃ。

お主には、どこか人を惹きつける不思議な力がある。どうじゃ、お嬢を元気づけてやってはくれんか」

料理長はそう言うと、ラングに頭を下げた。


「そう難しく考えなくていいんだよ。たわいもない話をして、少しでも気晴らしになれば十分なんだから」

支配人アルマが、優しく言葉を付け足す。


「俺なんかで良ければ――喜んで!」

ラングは二人の顔を交互に見ながら、力強くうなずいた。


(二人がこんなに心配してるくらいだ。……きっと、いい子なんだろうな)




ラングの快諾を受け、早速その週末――”お嬢を囲む会”が開かれた。


場所はもちろんここ”食堂”。


人数はアルマ・トルマ兄弟と、ラング、そして”お嬢”というごく少数の集まりとなった。



定刻、静まり返った食堂の扉がそっと開いた。

栗色の髪を肩先ほどに切りそろえ、フリルの装飾が施された衣装を纏う美少女がそこに立っていた。

瑞々しい肌、憂いを帯びた栗色の瞳がさらに彼女の可憐さを際立たせている。

まだあどけなさの残る少女と一瞬顔を合わせただけで、ラングは胸の高鳴なった。


(これはマジで超絶美少女登場の場面じゃないか!中身大人じゃなかったらイチコロだったな……)



最近ちょっと、心と体のバランスがおかしい気がしていた。

中身は大人のはずなのに、見た目どおりの反応をしてしまう――やっぱりこの”子供の体”に引きずられているのか?



やがて、用意された席の前に立った少女が声を発した。


「アルマさん、トルマさんこんにちは。今日はお招きありがとうございます」

見た目を裏切らない可憐な声が響いた。

(天使の歌声とはこれぞまさしく。口から弾ける声が歌の様だ……)


精神の低年齢化を証明するように思わず見惚れるラングの横で、現実に引き戻す野太い声が響いた。


「お嬢待っておったぞ。ワシの自信作をたっぷり堪能してくれ」

朝から妙にテンションの高い料理長が相好を崩してお嬢に話しかける。


「ささ、そこにお座り下さいね。

お嬢のためにトルマが腕によりをかけた料理を是非楽しんでください」

イスを引きお嬢が座るのを手伝いながらアルマは優しく声をかける。



「お嬢、ここにおるぼうず、いや少年はラングと言ってな、朝からお嬢のためにいろいろ手伝ってくれたんじゃ。ほれラング挨拶せんか」


「あのお嬢様初めまして。俺…じゃなくて、僕はラングといいま……っ、トゥ!」

美少女を前に思わずセリフを噛むラング。これも精神の低年齢化の影響に違いない。いや違いないはずだ……。


「ラングさん、初めまして、エマルシヤ=カイエンです。

みんなからは”エマ”と呼ばれているのでラングさんもエマと呼んでくださいね」

まるで一言一言にきらめく光が弾けるような、そんな輝きをまとっていた。


だが、当のエマルシアは一瞬笑顔を見せたものの、すぐに憂いを帯びた表情になってしまった。



「さぁ堅苦しいあいさつはこれくらいにして、早速食事をいただきましょう」

アルマ支配人の声を合図に食事会が始まった。


「おい、皿を運んでこい!」

料理長の号令でスーベ以下食堂のメンバーが次々と料理を運んでくる。

途端に料理が置かれたテーブルの周りは食欲をそそる香りで満たされていった。


さすが、料理長が腕によりをかけた料理の数々。

一口頬張った瞬間、エマルシアの顔がぱっと綻んだことで、その美味しさは誰の目にも明らかだった。


ここまで沈みがちだった彼女の動きに弾みがつき、感嘆の声を洩らすようになったのだ。


「ん~~♪この香りは罪作りね。それにこの食感もいけないわ。この味付けはなんなの!トルマさん、食堂がこんなに美味しい場所だなんて、私何故気づかなかったのかしら?」

エマルシアは込み上げる感激を両手をブンブン振り回しながら表現し、そして心から不思議そうな表情を浮かべた。


「お嬢、自分で言うのも何じゃが、ここ最近ワシの料理の腕前はうなぎ登りなのじゃ。食材がこう、ワシに挑みかかってくるんじゃよ。「もっと想像力を働かせてみろ」と言われてるようで、今は毎日、己との戦いの日々を過ごしているのじゃ」

料理長はエマルシアに話しかけながら、ふとラングに目を移し続けた。


「それもこれも全てこの坊主のせいなんじゃ。いや――、おかげなんじゃ。

今まで見落としていた、新たな食材――それも無限の組み合わせ、どこまでか見通せないほどの味の深淵を感じさせる――をワシらの目の前に出現させてみせた。これに奮い立たない料理人などいるものか」

料理長は身を震わせながら答えた。


こうして徐々に元気を取り戻しつつあるエマルシアにラングが語りかけた。


「おっちゃんに僕が手渡したのはこれまでただの石ころと同じものだったんです」

ラングが思いがけず口にしたその言葉は、静かに、しかし確かに、エマルシアの心の奥へと染み渡っていった。


二人目のヒロインが登場しました。彼女の心の闇をラングが光で照らします。

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