29話 卑劣な妨害
「物影に潜み悪事を見届けるナターシャイメージ」「※AI生成」「AI generated」
運搬部の職場は、目に見えて活気づいてきた。
これまでやせ細り、生気の失せた表情ばかりだった者たちが、今や血色も良く、見違えるようだ。
完全な個人主義の集まりだった彼らの間に、自然と連携が生まれ、時に軽口が飛び交う場面さえ見られるようになった。
働けば働いただけ報われる。
思いきり汗を流し、これまでとは比べものにならない食事を取り、さらにはささやかながらも“自分へのご褒美”を買える余裕さえ出てきたのだ。
「モチベマシマシ」
そんなラングの口癖を真似る者まで現れ、風通しの良い職場の雰囲気が現実のものとなっていく。
かつては“その他大勢”と一括りにされるほど没個性だった集団が、今では名前も顔もわかる、かけがえのない“同僚”へと変わり始めていた。
「ラング隊長、このレバーを引くんだったよな?」
リヤカーの操作を進んで覚えようとする男が、冗談めかしてラングを呼び止めれば、
「ドグマ師、今度タイヤ交換のやり方を教えてください!」
新たな“後師付”軍団が、天才魔道具士の周りを取り囲む。
もちろん仕事中に無駄話をしているわけではない。
集中すべき時は黙々と、作業の合間には和気あいあいと――まさに理想の職場環境が、ここに形成されつつあった。
もはや、取引先の担当者たちも「誰と打ち合わせすべきか」を明確に理解し始めていた。
ラングがわざわざ根回しをせずとも、彼の元へ“配置図”が自然と集まるようになっていたのだ。
――そう、特権グループに残された最後の命綱すら、静かに断ち切られたのである。
不思議だったのは、ここに至るまでの間、やつらが一度として表立った妨害行為に出てこなかったことだ。
不気味なまでの沈黙。
それが意味するものは何か――。
その答えは、ある“突発的な出来事”として、ラングたちを不意打ちのように襲った。
夕食を終え、自室で就寝の準備をしていた頃だった。
突然、遠くから警笛が鳴り響き、外ではあわただしい足音が飛び交い始めた。
何事かが起こったのは明白だったが、事の詳細を最初に知らせてきたのは意外な人物だった。
「コンコンコンコン! 大変だラング君! 君たちの運搬道具が……燃えてしまった!」
荒々しく扉が叩かれ、信じがたい言葉が飛び込んできた。
ラングは慌ててベッドから飛び起きると、部屋着のまま扉を開けた。
そこに立っていたのは、食堂メンバーのスーベだった。
「ラング君、早く! 食堂横の倉庫に来てくれ! 今はもう火は消し止められたけど、火勢がものすごくて……リヤカーはかなり丸焦げだ!」
滅多に取り乱すことのないスーベが、顔を真っ青にして訴える。
「兄い、俺は今からスーベさんと一緒にリヤカーの様子を見て来る。だから、お願い!ドグマ氏にもこの事を伝えて!」
ラングはコモドンにそう叫ぶと、振り返ることなく駆け出していった。
☆
倉庫に着くと、そこには黒焦げになったリヤカーやネコ車が無残な姿を晒していた。
金属でできた部品だけが形を留めており、それでさえ熱によりぐにゃりと変形していた。
「なんで……こんなことに……」
あまりにも変わり果てた姿に、ラングは思わず言葉を失った。
やがて、ドタドタと足音を響かせながらドグマが駆けつけてきた。
その後ろから、コモドン、ダール、ホルス、そしてジョナサンも次々に姿を見せる。
その顔ぶれを見たラングは、感情の高ぶるままにドグマに声をかけた。
「ドグマさん……せっかく作ってくれたリヤカーが……燃えちゃったよ……」
そう言うラングの頬を、涙がぽろぽろと伝った。
「ふん。壊れたら、また作ればいい。大したことじゃない」
ドグマは力強く、そして優しくそう言った。
「でも……ドグマさん、ろくに休まずに、クタクタになりながら頑張ってくれたのに……」
ラングは涙を堪えようと唇を噛みしめて、声を絞り出した。
「だからまた作ればいいんだ。俺にとっては物を作るのは息をするも同然でな、苦労ともなんとも思っておらん。楽しみがまた増えたってなくらいで、何もお前さんが気に病む必要なんて、これっぽっちもない」
ドグマはそう言って、にこりと笑った。
「それにな、作りかけのもう一台が、あと少しで完成するんだ。――さあ、楽しいものづくりを始めようじゃないか」
そう言って歩き出したドグマの背に、ラングが声を上げた。
「待って! 俺にも……手伝わせて!」
袖で涙を拭いながら、ラングは立ち上がる。
「ほな、夕食の腹ごなしに……ワシも手伝わせてもらいましょか」
ドグマは笑ってラングの肩に腕を回し、歩き出す。
「じゃあ、私たちもドグマ師に魔道具の作り方、教わるとしますか!」
ホルスの言葉に、残る二人もうなずいた。
「よし!」「うん!」
こうして、夜の静けさの中に再び明かりが灯る。
――そして、東の空が白み始める頃には、作りかけだった1台のリヤカーとネコ車2台が無事完成していた。
眠い目をこすりながら見上げた空は、どこまでも澄み渡っていた。
ナターシャの活躍お楽しみに!




