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25話 抵抗勢力

商会内に通達文が張り出されると、運搬部には少なからぬ動揺が広がった。


ラングたちは「商会改革推進室」の一員に任命されたものの、これまで通り運搬部での業務も継続することになる。


いつものように倉庫前に集合すると、押し寄せる嵐を前にした労働奴隷たちは、不安げな面持ちでざわついていた。


ラングたちに対する視線もちらちらと注がれ、

加えて、今日から試験運用が始まる見慣れぬ運搬道具に、当然ながら好奇の目が向けられていた。


普段は滅多に姿を見せない副支配人も、今日は珍しく顔を出していた。不機嫌さを隠す気配もなく、敵意に満ちた視線をラングたちに真正面から突きつけていた。


当然、特権グループの面々も、さらに険しい顔でこちらを睨みつけてくる。


中には舌打ちしながら、聞こえよがしに脅しの言葉を吐き捨てる者もいた。


「チッ、いい気になりやがって……どうなるか思い知らせてやる」


「フン、たっぷり”楽しい作業”を割り当ててやろうじゃないか」


今までのように陰湿なやり方でねじ伏せれば済む――そう思って疑っていない様子だ。

(まだそんな手が通用すると思ってるのか……まったく、頭の足りない連中だ)




「ごほん。何やら急な決定が下されて、得体の知れない運搬道具とやらを使うことになったようだな。どんな代物かは知らんが、せいぜい勝手にやるがいい。ただし、くれぐれも職場に迷惑だけはかけるなよ。それから、万一混乱を巻き起こした場合は、その場で即刻中止させる。肝に銘じておけ」


副支配人は忌々しげにそう言い放つと、(きびす)を返した。

地面をわざとらしく踏み鳴らし、力を誇示する様は、まるで『ディスプレイ』と呼ばれる野生動物の威嚇行動のようだった。


「お前たちもしばらくは、目立つ真似は控えておけ」


帰り際に、例の特権グループへ釘を刺し、その場を立ち去っていった。


グループの連中は不承不承といった様子で、ぞろぞろと動き出した。

おそらく、いつもの持ち場に向かうつもりなのだろう。




ここで、これまでの仕事の流れを簡単に説明しておこう。


運搬部では、出発地または目的地となる倉庫、あるいは停泊中の船に数名が配置される。

これらはどちらも運搬元にもなり、運搬先にもなり得る――というのも、各地から港町ポルテアに到着した船は、まず船内の荷を倉庫に運び入れ、そこから問屋や小売店へと荷が分配される。

逆に、製品の出荷時には、まず倉庫に集められ、船の到着を待って積み込まれるのだ。


こうして運搬部では、貨物の「割り当て」と「移動先の指示」を担う係が必ず現場に配置されることになる。

割り当て係は運ぶべき荷を指名し、運搬係に指示を出す。移動先指示係は、荷の搬入先で配置図を片手に待ち構え、目的地となる部屋や場所を指示する役割だ。


それ以外の者は、そうした指示を受けてただひたすら荷を運ぶ「運搬係」となる。


そして、特権グループとは、この「割り当て係」と「移動先指示係」という、最も労力が少なく、しかも他人に命令を下せる立場を独占してきた連中なのである。



運搬係としては割り当て係の胸前三寸(むなさきさんずん)で運ぶ荷物の内容が決まる。

軽い物か、重くて持ちづらい物か――その差は彼らの機嫌一つなのだ。


つまり、気に障るような態度を取れば、毎度のように重くて厄介な荷を押し付けられる羽目になる。

そうならないために、彼らの機嫌をうかがい、言いなりになるしかない――これが運搬部の”現状”だった。


だが今回、投入される分離式リヤカーによって、彼らの特権の一つが完全に形骸化することになる。


なぜなら、荷の“割り当て”などする間もなく、たった1~2回の往復で運搬作業が完了してしまうからだ。


出発点でやることといえば、ただ荷物をどんどんコンテナに積み込んでいくだけ。

「あれでもない、これでもない」と偉そうに指図する余地などない。

そんなことをしている暇があれば、一つでも多く荷を積み込んだ方がずっと効率的なのだ。



そうとは知らずいつも通りに持ち場に散った連中をラング達は生暖かく見送った。



そして――、



「ではこの分離式リヤカーの使い方を説明します!」

ラングの宣言と共にいよいよ試験運用が始まった。



「ここをこうすると台車が上がり、反対にこうすると下がります」



「おお~!」

ラングが台車を上げ下げ様子を見ていた”運搬係”から歓声が上がる。



「ですからあちらに用意したコンテナが満載になってもこうして地面すれすれに下げた台車を差し込み……」

ラングはここで実際にコンテナの底面に台車を差し込んで見せる――、



「見ての通り、荷物が山積みでも簡単に持ち上げられるんです。……”力持ち”の俺でもね!」

ラングが冗談めかして胸を張ると、周囲から笑いが起きた。



「こりゃぁすげーぞ!」


「いったいどんな仕組みになってるんだ?」

周囲から再び驚きの声が上がる。


「確かにこれなら”力持ち”のラングでも簡単だわな」

そうツッコミを入れたのは最近ラングと親しく話すようになった運搬係だった。



掴みはOK。後は習うより慣れろだ。



初日の今日は”商会改革推進室のメンバー”がリヤカーの操作を担当する事とし、徐々に操作を教えていくことにしよう。



という事でドグマにその役割を任せ、ラングはその他のメンバーと共に先頭に立って積み荷をコンテナに積み込む事にした。



「はいみなさん、”コンテナ”――その大きな箱の事でしたね――にどんどん積み込んでいきましょう!」

ラングの声に続いて仲間達が、そしてそれに倣って他の奴隷労働者達が三々五々積み込みを始めた。





するとその様子を忌々し気に眺めていた例の連中が騒ぎ出す。



「おい、お前ら何を勝手な事を……いつもみたく俺達の前に並びやがれ」

割り当て係の一人が怒鳴り声を上げる。


「てめぇら、そんな奴らの言うことなんて無視して、今まで通り俺たちの指図に従え! ……じゃねーと、どうなるかわかってんだろうな?」

他の割り当て係の男も凄んで見せた。



実はこの場に残った連中の人数は3人だ。どこをどう考えれば3人も必要なのか不明なのだが……、

やれ、「指示通りの物を運んでいるかしっかり確認しなければいけない」――だの、

「新たに持ち込まれた荷物の受け入れ対応も必要だ」――などと屁理屈を捏ねて当然の顔をして居座り続けてきた。


誰の目にも――というか本人たち以外には――“単に楽したいだけ”なのは明らかだった。



今、特権グループは純然たる”抵抗勢力”としてラング達の前に立ちはだかった。


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