23話 新たな運搬道具の誕生
“甘味作戦”により見事ドグマを仲間に引き入れたラングたちは、それからの2週間、試行錯誤の日々を過ごした。
仕事終わりに少しずつ作業を進め、休みの日には全力を投入する。
おっちゃんやアルマ支配人たちにも構想は伝えてあったので、材料面の支援には困らなかった。
――とはいえ、頼りっぱなしというのも気が引ける。
そこで、材料の大半は周辺で集めた木片や廃材、そしてゴミの山から調達することにした。
普段ラング達奴隷労働者が通う倉庫では、ゴミの保管業務も請け負っていたため、うず高く積まれたゴミの山から”使える物”を見つけ出し、活用したのだ。
古くなった家具、壊れた工具、割れた陶器――そんな中にも、目を凝らせばまだまだ使える素材はあった。
問題は、“車輪”である。
この世界にはゴムなど存在しない。
ならば、いかにしてそれに代わるものを生み出せるかが鍵だった。
もちろん、いつかは天然ゴムを見つけることも夢ではないだろう。
だが、今はあるもので工夫するしかない。
木材を削り、丸く加工し、円形の“疑似タイヤ”を作る。
そして、摩耗や歪みが出やすいことを見越し、こまめな交換で対処する――。
彼らは、そんな前提での運用を決めたのだった。
「えっ、木なんかでタイヤが作れるの?」
その疑問には、ドグマが持つスキルが解決法を示した。
ドグマの持つ【万能鍛冶錬成】は、ドワーフの固有スキル【鍛冶】の中でも特別な存在だ。
鍛冶と言えば本来、金属を鍛えて武具や器具を作る技術だが、彼のスキルは金属以外の素材にも応用が効く。
さらに“錬成”によって、素材そのものを自在に状態変化させることが可能なのだ。
例えば、木をそのままタイヤに使えばすぐにすり減ってしまう。
だが、錬成によって硬く、伸びのある素材に変質させれば、まるでゴムのような性質を持たせることができる。
こうして性能は驚くほど向上した。
また、ゴミの山から見つけ出したクズ鉄も、このスキルによって立派な材料へと生まれ変わったのだ。
こうして出来上がったのが、俺が元いた世界のものとは構造の異なる、分離型リヤカーとポンプ式ジャッキだ。
このリヤカーは、車輪のついた台車部分(=ベースユニット)と、荷物を載せるコンテナ(=積載ボックス)が完全に分離できる構造になっている。
これによって、作業を二つの工程に分けて行えるようになった。
まずは、コンテナ単体で荷物を詰め込む「積み込み作業」。
その後、それをベースユニットに載せて運ぶ「運搬作業」だ。
この方式なら、荷積みに時間がかかっても、次の台車がすぐに動き出せるため、作業の流れが止まらない。
さらにコンテナを複数用意しておけば、入れ替えながら次々と荷物を運べる。
いわば、バトンを繋ぐリレーのような仕組みだ。
そしてこの分離構造を活かすために必要だったのが、ポンプ式ジャッキである。
これはベースユニット側に取りつけられた手動昇降装置で、レバーを上下に動かすことでコンテナの底面を持ち上げたり降ろしたりできる。
てこの原理と簡易ポンプ構造を応用しているため、力のない子ども(ラング)でも扱えるようになっている。
重たい荷物を手で持ち上げることなく、スライドして下に台車を差し込み、ジャッキを操作して持ち上げるだけで運搬準備が完了する。
また、日々の使用で摩耗する車輪部分の交換にも対応できるよう、簡易の整備設備も整えた。
車輪部分を素早く取り外せる構造にし、専用のスタンドと補助具を使えば一人でも交換作業が可能だ。
特に、“疑似タイヤ”として加工した木材は定期的な点検・交換が必要なため、この設備があることでリヤカーの稼働率を高く保てる。
やがて、この分離式リヤカーが投入されると、積み下ろしに時間のかかっていた倉庫からの荷出し作業が、驚くほど速く、そして楽になった。
荷物の重さに悩まされていた現場の仲間たちも、この“工夫された台車”の登場に目を丸くしていた。
結果として、作業員にも台車にも無駄な待ち時間が発生せず、かつ過度な重労働も軽減され、全体の作業効率は飛躍的に向上した。
ラングの発案によるこの“分離式リヤカー”は、奴隷労働者たちの現場において、**まさに“小さな革命”**をもたらすこととなった。




