22話 ドグマチャレンジ
ラングとホルスは、カイエイン商会の敷地内にある空き地にいた。
休みの日を利用して、仲間たちと密林から運び出した木を適当な長さに切り、杭打ちの作業に取り組んでいる。
空き地の一角を囲い、農地を作るための準備だ。
ふたりは週に三日ほど、運搬部での仕事を午前中に切り上げ、午後はこうした作業に時間を割いていた。
ラングはその日々の中で、少しずつドグマへの働きかけも続けている。
はじめのうちは、朝に夕に挨拶を交わし、二言三言声をかける程度。
予想通り、取りつく島もなかった。
視線すら合わせず、完全無視だ。
だが、こうしている間にも――ドグマの身には、確かな変化が生じていたのだ。
ラングが投げかける“二言三言”の言葉。それはスキル【言霊】の力によって、ドグマの体調をすこぶる良好なものへと導いていた。
「おはようございます。今日も頑張ってくださいね!」
そんな励ましの言葉がかけられた瞬間、ドグマの体が淡く光り、知らぬ間に活力が湧いてくる。
「お疲れさまでした~! ゆっくり休んで、また明日もよろしくお願いします!」
仕事を終えて戻ってくれば、今度は労いの言葉。するとまた体が光り、疲労感がすっと抜けていく――。
肌艶なんかがまるで別人のように見える。
そうこうするうちに、ある夜のこと。
食堂を後にするドグマに、連日まとわりついてくるあの少年が小包を差し出した。
「お疲れ様のご褒美です!」
そう言って、おもむろにドグマの手に押しつけてきたのだ。
ほとほと迷惑していたドグマは、部屋に戻るなりその訳のわからぬ小包を捨てようとした。
だが――袋から漂ってくる甘い香りに、思わず手が止まる。
つい……口にしてしまった。
「なんじゃこれは!!!!」
思いもよらぬ衝撃に、ドグマは叫び声を上げたのだった。
そして翌日も、その翌々日も、同じように小包は届けられた。
さすがに、黙っているわけにはいかなくなったのだ――。
「何が目的だ。あるなら正直に話せ」
ドグマは、真っすぐに問いをぶつけてきた。
「実は……お願いしたいことがありまして……」
ラングは相手の顔色をうかがいながら、おずおずと切り出す。
「まったく、けしからん奴だお前は」
ドグマは心底呆れた様子でため息をついた。
「人を食い物で釣ろうだなんて、あさましいにもほどがある。
……だがな。あんなとんでもないもので餌付けされてはかなわん。反則もいいところだ」
ドグマはぽつりと吐き出すと、肩をすくめて続けた。
「負けだ負け。もう、あの口いっぱいに広がる“甘い幸せ”を知ってしまったからには、元には戻れぬ。
さあ言え、俺に何をさせたい?」
こうして、ドグマはラングの“甘味作戦”に屈したのだった。
ドグマを仲間に引き入れるべく、ラングは“おっちゃん”――料理長に相談を持ちかけていた。
「スイーツを食べさせればイチコロじゃ」
そう助言されたのだった。
そのため、まずは徐々に距離を詰め、タイミングを見て“一気に甘い物勝負”を仕掛ける作戦に出たのである。
そして――作戦は見事成功。ドグマの協力を取り付けることに成功した。
「フム、それはとてつもない話だな。お前らがその“砂糖”とやらを作り出し、今後も生産し続けられると?
しかも農園……だと? そんな見たことも聞いたこともないようなものを、いったいどうやって思いついた。お前は一体、何者なんだ」
そう言って一息ついたドグマは、静かに、しかし確かな決意を込めて続けた。
「まぁよい。その話、乗ろう。
俺がその“リアカー”だの“ネコだか犬だかの車”だのってやつを作ればいいんだな?
そしたらまた……あの”甘焼き菓子”が食えるんだな?」
「もちろんです! 甘焼き菓子だけじゃありません。いずれ他にもたくさんの甘味が食べられるようになりますよ!」
「なんと……甘焼き菓子以外の甘味もか!」
「はい、作れます!」
「そうとわかれば、すぐに犬猫車を作るぞッ!」
ドグマの意気込みに圧倒されつつも、ラングは満足げに頷いた。




