21話 その男寡黙にして
「脳筋集団イメージ」「※AI生成」「AI generated」
カイエイン商会の“お荷物部署”と化しつつある運搬部では、
本来の仕事が減る一方で、最近は同業他社の“手伝い”ばかりが増えていた。
ラングの元いた世界で言うなら、それは“人夫出し”や“常用”といったもので、要は“応援”という形の労働力提供だ。
そして、その応援先で目にした光景は――
この世界の“労働”の在り方を、如実に物語っていた。
体格に恵まれた人材たちがずらりと並び、
まるでこれから戦場に赴くかのような気迫を放っている。
作業前から目は血走り、息も荒い。
ひとたび作業が始まれば、
大きくて重たい荷物を軽々と持ち上げ、小走りで運ぶ。
そして手が空けば――全力疾走で帰還。
次の荷物を“なるはや”で運び、また全力で戻ってくる。
――その繰り返しなのだ。
恵まれた肉体をとことん酷使する、
「勤労意欲だけは異様に高い脳筋集団」。
そんな異様な姿が、そこにはあった。
この世界にこそ、“働き方改革”が必要だ。
ラングがそう強く思った瞬間だった。
対する我らが奴隷労働者たちは、
決してサボっているわけではない。
ただ、一歩一歩を踏みしめるように進んでいく――。
つまり、脳筋集団とは比べものにならないスローペースだ。
そもそも、労働意欲の差が天と地ほどある。
片や脳筋集団は、やればやっただけの見返りがある。
全力ダッシュで、高収入ゲットと相成るわけだ。
他方、奴隷労働者はどれだけ頑張ったところで、賃金が嵩増しされることはない。
であれば、過度に疲れることを避け、怪我をしないよう注意深く運ぶのは当然の判断だ。
それをスローだと責めるのは、あまりに酷というものだろう。
不採算部門として問題視されるのも仕方ない部分はあるかもしれないが、
すべての原因を奴隷労働者に押しつけるのは、理不尽だ。
だからこそ――もしも、脳筋集団のように、
がむしゃらに働くことだけが“正解”だというのなら。
それはもう、仕事のやり方そのものを見直すべきなのではないか?
そう思ったラングは、
より多くの荷物を一気に運べる『リヤカー』の開発に踏み出すことにした。
そしてもう一つ――
船内用として、小回りの利く『ネコ車』も同時に開発することにした。
さて、ここからが本題だ。
――いったい誰が、そんな運搬道具を作るのか?
当然、そこに疑問が湧く。
だが、ラングにはすでに目星があった。
彼が“逸材”と見込んだ人物――その名はドグマ。ドワーフの男性だ。
かつては魔道具士として名を馳せ、工房付きの店を営んでいたという。
だが、信頼していた共同経営者に裏切られ、巨額の借金を背負わされ、ついには奴隷として売られてしまった。
ある意味、奴隷たちにありがちな転落のストーリーかもしれない。
それからというもの、彼は希望を失い、夢も野心も枯れ果て、他の労働奴隷たちと同じく、ただ無気力に日々をやり過ごすようになっていた。
しかも悪いことに、心の傷をこじらせて偏屈な性格になってしまったらしい。
年齢的なこともあるのだろう。
ドワーフは長命種だが、その実年齢を他種族が見極めるのは難しい。
とはいえ、彼がすでに人生の折り返しを過ぎていることは、誰の目にも明らかだった。
つまり、次にラングが挑むは”ドグマチャレンジ”という事となる。
心を閉ざし、偏屈になった男を口説き落とそうというのだから一筋縄ではいかないだろう。
言葉を尽くすだけじゃ足りないかもしれない。
という事でいつものように”人参”を用意を用意する事となった。
時間をかければラングの「言霊」スキルでなんとかできるだろう。
だが、悠長に構えている暇はない。
「タイムイズマネー」。
時間は無駄にできないのだ。
手っ取り早く胃袋を掴み、
なびいたところで一気に【言霊】を浴びせる――。
それが、ここ最近の必勝パターンだ。
当然、ここは食堂の料理長に協力を仰ぐ場面となるだろう。
腹を割って相談するには、ちょうどいい機会でもある。
料理長なら、きっと的確なアドバイスをくれるはずだ。
同じドワーフ族としての意見も、十分に参考になる。
ここのところ世話になりっぱなしだという自覚もある。
だからこそ、先日の話し合いで話題に上がっていた
「お嬢」とやらの件で一肌脱ぐことも、やぶさかではなかった。
あの時、エールから始まって徐々に酒精の強い酒に移っていき、
最終的には、互いの愚痴をぶちまけ合う場になってしまったが――。
支配人の締めの言葉には、さすがは実力者だと一同うなる場面もあった。
……が、その後の展開はやや残念なものだったと言わざるを得ない。
“引きこもりがち”だという”お嬢”の事――
あの兄弟の悩みを解決するために、ラングは自分にできることを全力でやると決めた。




