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20話 次は運搬道具で効率アップのターンだ!

支配人やナターシャを交えての話し合いは大成功に終わり、心強い”理解者”を得る事ができた。


一人はラングが働く”カイエイン商会”のNo.2にして料理長”トルマ”の兄である「アルマ支配人」。


割と広範な裁量権を持つ紛れもない実力者だ。


もう一人は才媛と呼び声の高いスタイル抜群のクールビューティ「ナターシャ」だ。


実は、彼女の本質は、親密になるにつれて徐々に垣間見えてくることになる。

——それがどのような姿なのかは、物語の進行とともに明らかになっていくだろう。



いずれにせよ、ラングの協力者は確実に増えつつあった。



アルマとナターシャの動きは早かった。

なんと翌々日には、《食の改革から始まる、革命へのロードマップ》について正式にゴーサインが出たのだ。


あまりの展開の早さに、ラングも思わず呟いた。


「仕事、はやっ!」


もちろん、すべてがすぐに実行に移せるわけではない。

準備に時間を要する項目も多く、順を追って段階的に進めていく性質のものだった。


それでもまず、敷地の利用許可が正式に下り、関連する除草計画は即座に中止された。

人員確保についても、すでに求人が手配されているとのことだった。


とはいえ、すぐに人が揃うわけではない。

ひとまずは、ラングを中心に奴隷の仲間たちの中から数名を選抜し、いわば“準備室”としてプロジェクトを立ち上げることとなった。


ただし、ラングたちが所属する「運搬部」は元々人手不足。

抜擢できるのはせいぜい2~3人が限界で、しかも専従ではなく、あくまで運搬業務との兼務という形である。


ラングは検討の末、ホルス氏を指名した。

空き地の調査で見せた姿勢から、その適性を感じ取っていたのだ。

今後は運搬部の仕事をこなしつつ、時間を見つけてラングと二人で準備を進めていくことになる。


──ところで、以前にも触れた通り、奴隷労働者たちは基本的に個人主義の集まりだ。

互いに没交渉で、職場環境も最悪。

そんな現状を変えたいと、ラングは“食”を通じた改善を目指し行動を起こした。


そのためには、まず心を許せる仲間をつくることが不可欠だった。

ラングはその構築に心血を注ぎ、そして小規模ながら信頼で結ばれたグループを作ることに成功する。


その名も─後氏付隊(ゴシップタイ)

(名前の後に〇〇氏とつけるからの命名。駄洒落なんだけどね)


のちに盟友モルモルとの“汚腐会(おふかい)”にて、


「どうして後氏()じゃないんですか!」


と鋭いツッコミを受けることになるのだが──そんなクレームは華麗にスルーである。


ラング達は決して腐ってはいないからだ。



そして、ここで明らかな対立構造が浮き上がって来る。



職場を牛耳る”特権グループ”に対してだ。


このグループはこれまで奴隷労働者の集まる職場の中にある唯一の集団だった。


どういう訳か楽な”持ち場”を独占し、自分達に従わなければ“より過酷な労働”を割り当てることで制裁を加える。。


そんな脅しをちらつかせ、我が物顔に振舞い続けてきた。


最悪なのは現場を取り仕切る「副支配人」と結託している点だ。


表立って歯向かえば、報復に加えて副支配人の名を使った“正式な処分”が下され、

事実上、誰も声を上げられない構造が出来上がっていた。


仕事中、一言も会話がなく、まるで葬式の列に並んでいるような職場なんて──もう、うんざりだ。


当然ながら、その弊害は如実に現れていた。


運搬部は日々ノルマを達成できず、

毎日のように翌日に作業を持ち越し、なんとか帳尻を合わせているのが現状だ。


不採算部門として、近々清算されるのではないか――

そんな不穏な噂すら耳に入ってくる。


そうなっては、元も子もない。

悠長に“奴隷脱出”などと言っている場合ではなくなる。


だからこそ、ラングは次の作戦に打って出ることにした。


題して──

《異世界知識で便利な運搬道具を作れ!》


現在の運搬作業は、商会の倉庫と停泊中の船舶を、手運びで何度も往復するという非効率の極みだった。


手で運べる荷物の量など、たかが知れている。

手が四本も六本もあるなら話は別だが、そう都合よくはいかない。


確かに、この世界の住人は身体能力こそ優れている。

だが──工夫が、あまりに足りない。


この世界には、リヤカーひとつ存在しないのだ。


ならば、作ればいい。

一度に多くの荷物を運べる運搬道具を。


作業の効率が上がれば、生産性も向上し、“廃部”も免れられる。

さらに、省力化によって人員にも余裕が生まれるだろう。


さて――


では、その運搬道具を誰が作るのか?


その目星は、すでについている。


カイエイン商会の中に埋もれている、紛れもない逸材。


次なる協力者は──そいつだ。

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