閑話1 ジョナサンの独白
僕は人と話すのが苦手だ。
そもそも、人の目を見るのが怖いんだ。
だから、どうしても話をしなければならない時以外は人と話をしないし、
できるだけ人と関わりたくないんだ。
何かと言えば「図体ばかりでかいくせに」とか、
「声が小さい」だとか、
「なんの取柄もない」だとか、そんなことを言われちゃうから。
だから心の中でずっと──
『僕に話しかけないで……』
『お願いだから、そっとしておいて……』
そう願ってきたんだ。
けど、心のどこかで、
臆病な自分自身が大嫌いで、
人気者じゃなくていいから、友達くらいは欲しくて──
いつか、こんな僕を見つけ出してくれる人が現れないかなって思ってた。
見つけ出して、何もない、ただ静かなだけの世界から連れ出してくれないかなって思ってた。
でも、そんな願いは叶わぬまま……
辛いことばかりの真っ暗な暗闇の中を、
ビクビクしながら生きてきた。
いっそ何も考えず、言われたことだけを黙々とこなす方がよっぽどマシだった。
どうせこのまま一生、奴隷として生きるんだからと、全てを諦めてね。
……そんな毎日が変わり始めたのは、あの日、突然君に声をかけられた時からだったね。
水飲み場で顔を洗っていたら、後ろから声をかけられたんだ。
「えーっと……ジョイサン君だったよね? おはよう!」
僕はびっくりして、心臓が止まりそうになったよ。
そして、恐る恐る振り返ったら目が合ってしまって……。
気が付けば、体が動き出してたんだ。
一目散に部屋に逃げ帰って、しばらく胸のドキドキが治まらなかった。
それからの君は、とにかくしつこかったね。
いくら避けても、どんどん“寄せてきて”。
君に会わないように隠れても、なぜか見つかって……
君の目を怯える日が続いた。
けど、おかしいんだ。
「おはよう、ジョナサン君! 今日もモリモリ食べて、モリモリ出して、一日張り切って行こう!」
「お疲れ様、ジョナサン君。今日も一日頑張ったね。明日も頑張ろうね!」
そんな君の言葉を聞くと、朝から少し元気になったり、
仕事で疲れ切っていたのに、体が軽くなったり。
鉛のように重かった僕の体が、
なんだか軽くなっていったんだよね。
でも、君はちょっと意地悪だったね。
「おーい、ビッグジョン! 今日も張り切って行こう!」
突然、変な呼び方を始めたと思ったら──
「ねぇ、ビッグジョン? ねぇってば、ビッグジョンジョン。だから~、ビッグらジョン♪」
……どんどん、へんてこな呼び方をするようになったんだ。
僕の名前は「ジョナサン」だよ?
“ジョ”しか合ってないんだけど……おかしくない?
しかも、誰もが振り返るほどの大声で呼ぶんだもん。
僕は、穴があったら入りたくなっちゃったよ……。
どうせ君は、困った僕を見て楽しんでたんだよね?
ほんと、いたずらっ子なんだから、君は。
今思うと、もうすっかり君のペースに巻き込まれてたんだろうな、その頃には。
君から声をかけられても、驚かなくなったし、怖くもなくなってた。
それどころか──
しばらく君の姿が見えないと、僕のほうが君を探すようになってたんだ。
……一体、君は僕にどんな魔法をかけたんだい?
そして、あの日。
君は僕を──庇ってくれたね。
「おい! いくらなんでもそれはないだろ……やりすぎだよ!」
そう言って、僕よりもずっと小さな体で、僕を守ろうとしてくれたんだ。
「なんで? どうして僕なんかを庇ってくれるの?」
そう聞こうと思ったけど……いつものように、声は出なかった。
たくさんの人が集まってきたし、
何より、僕にいつも意地悪をする”あの人たち”が、怖かったから……。
僕のせいで、君はどんどん傷だらけになっていったのに。
それでも立ち向かっていく君の姿を見ながら──
僕は、身動きができなかった。
君への申し訳なさが、心の中で溢れていたのに……動けなかったんだ。
でも、あの一言で……僕の中の何かが変わった。
いや、”変わった”なんて一言じゃ、とても言い表せない。
それは──魂が燃え上がるような、凄まじい変化だった。
「そう、君と友達になりたいんだ。だから勝てないかもだけど、立ち向かってみようよ。そして一緒に負けよう!」
その言葉を聞いたとたん、体の奥から熱いものが込み上げてきて──
怖さよりも、勇気が勝った。
今思い出しても、本当に自分のことだったのか信じられないくらいなんだ。
僕は立ち上がって……溢れる力に任せて、
あの人たちを、なんと──ぶっ飛ばしちゃったんだから。
僕の初めての、大切なスキル。
【抗う木偶なる魂】とともに。
──ねぇ、ラング君。僕の親友。
僕を見つけてくれて、ありがとう。
僕を諦めないでいてくれて、ありがとう。
これからも、ずっと──仲良しでいようね!




