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15話 異世界で起こした最初の奇跡

「そ、それはすまんかったの。 よし、まだワシは認めておらん。 さぁワシを唸らせてみよ! こ、これでよいかの?」

なんとも間の抜けた展開ではあるが、料理長が空気を読んでくれたおかげでどうにか舞台は整った。



「よし! それならばこちらの切り札を切らせてもらうよ! 吐いたツバ飲まんとけや!」

料理長とラングによる小芝居が終わりようやく決着の時が来た。

結論がもう見えてるので、場はしらけ始めていたが、そんな事を気にするラングではなかった。



ラングの合図にジョンジョンは素早く応じ、小走りに厨房へと向かった。

そしてようやく真打の登場だ。

そう、今日偶然にも発見した食材から作った、スイーツだ!!



「一品目は『焼きカボチャの甘煮 ~琥珀こはくソースがけ~』です。

”ドテカボチャ”を蒸し焼きにして、煮詰めた”てんさいシロップ”をとろりと絡めてあります。ドテカボチャそのものも甘いですが、シロップをかけると異次元の甘さを楽しめますよ!」

俺がドヤ顔しながら料理を説明すると今日一番の反応が起こる。



「甘さを楽しめるじゃと!?」

目をまんまるにした料理長が叫ぶ。

その様子にようやくラングは留飲を下げる事ができた。


「もし本当ならとんでもない事じゃぞ……」

二人の料理人がスイーツに手を伸ばした。


そして――、


ゆっくりと口の中にあるものの感触を確かめるように租借した。


直後、


「なんという美味さじゃ。とんでもなく甘く、ただひたすらに甘いのじゃ!!!」

両手を握りしめ、身を震わせながら感動に打ち震えている。

まさに絶叫と呼ぶにふさわしい大声で叫んだのだ。


隣に座る副料理長も黙っていない。


「ん~~~あぁあっ!? ※△☆~っ!!」

副料理長の叫び声は言葉にもなっておらず、雄たけびに近いものだった。


(なんかしぐさが”カマ”っぽいんだが)


よく女子が喜びを爆発させて、手足をバタバタさせるような仕草だった。


(う~ん、これはかわいいお姉様方に身悶えしてもらわにゃならん案件だな)



もはや食レポどころではなくなった料理人二人。

ただたすらに食べ、そして何もなくなった皿をギロりと睨みつける。

まるで次の獲物を狙う猛禽類のような視線をラングに浴びせるのであった。



「コホン。次なるスイーツは“てんさいプリン風蒸し玉子”です。これはバイオレンスチキの卵にてんさいという植物から作った砂糖と塩少々、そして魔牛の乳を混ぜ、蒸したものです。ごめんなさい、魔牛の乳だけはちょいと拝借しましたが、本日一番のとっておきです!」

説明をいったん切り、二人を眺めると前かがみになり今にもペロペロ舐めだしそうだ。


まだ砂糖の可能性について語り足りなかったが――、

(よだれ)までたらし始めた二人をこれ以上焦らす事はさすがにできなかった。


(まるでお預けさせられてるワンコみたいじゃないか。凝視しすぎ!)



ラングはやれやれと言った感じで、”お預け犬”に許可を出した。


「ではお召し上がりください!」


その途端またもや一心不乱に食べ始める二人。

もはや完全に食レポなどする気はないようだ。


(断食あけかい!)


ラングが思わずツッコミたくなるほどの食べっぷりであった。

あっと言う間に完食した二人は、猛禽類を突破し、駄々っ子になった。


「「おかわり(じゃ)」」


「えっ?ありませんけど……」


「嘘を言うなまだ残っておるじゃろう。厨房の方からほのかに匂っておる」


そうなのだ。空き地の調査に付き合ってくれたメンバーへのお礼に作っておいたのを文字通り嗅ぎとったのだ。


「あっ! それは俺達の分だから無理なんですが……」

ラングが断りを入れるが、聞き入れられるわけもなく、駄々っ子は素早く立ち上がると厨房へ突進した。



ドワーフの中には酒も甘い物も両方好きといういわゆる”両刀使い”がいると聞く。

だが目の前にいるしかめっ面のドワースがその両刀使いだったとは……。


食にかける”職人の意地”が、”食い意地”と合わさったらどうなるのか、今日ラング達は思い知った。


(ごめんみんな)


ラングは済まない気持ちで一杯になるが、誰があの強行突破をとめられるというのだ。


「ごめん、近いうちにまた作るからね」

ラングを後ろを振り返りながら仲間達に謝罪した。



こうしてラング達のスイーツまで分捕り、満足げに腹をさする料理長が口を開いた。


「まずは先ほども申したようにワシを納得させるに十分すぎるほどの食材じゃった。ラングを初め、皆もようやった。これで今日用意した水準のものを持ち込めば、ワシが存分に腕を振るってやろう。」

料理長は皆を見回しつつ言葉を続ける。


「じゃが、最後に出したスイーツ……あれは想定を遥かに超えとった。

特に、あの砂糖じゃ。あれは、この世の味覚を塗り替えるほどの代物じゃぞ。坊主……、お主それがどれほどの影響を持つか、わかっとるか?」

料理長は真剣な眼差しで、ラングに尋ねた。


「うん、ちゃんとわかってるつもりだよ。だからこそ”切り札”なんだ。

そもそも俺は調味料をもっと充実させたいって思ってるんだ。

さっきのソースだってそうでしょ? あれ一つで美味しくなるものがどれくらいある事か!」


ラングは前世の知識を活かすなら調味料だと思っていた。

たまたまこの世界では甘味がとてつもない価値を持っているから、今後はそれを前面に押し出すことになるだろう。


だが、味噌や醤油、そしてマヨネーズなど調味料の持つ価値は無限大なのだ。


「今日二人に出した料理の決め手になったのは砂糖やソースなんだ。 これらは調味料と言うんだけど、俺はこの調味料を作り、充実させたい。そして、いつか世に広めたいと考えてるんだ」


「フム。塩以外の味付けを増やす。そう言う事じゃな。それはわかった。じゃが、甘味は別格なのじゃ。そもそも甘い物は王族や一部の上級貴族の口にしか入らん、嗜好品の最たるものじゃ。それをたかがワシら風情が手軽に食べられるようになったらどうなると思う?」


「権力者たちの食い物にされる危険性があるよね。不用意かつ、拙速に事を進めればね」


「フム。それがわかっておるなら余計な心配はいらぬか。じゃが、決して事を急ぐでないぞ。それと、今後何か思いついたらまずはワシに相談せい。お主は見た目とは違いしっかりと物を考えとるようじゃが、過信してはならぬ。仲間達やワシのような大人に頼る事も必要じゃと肝に命じよ。ワシもできる限り力を貸そう」



思いもかけぬ頼りになる料理長の一言だった。

そして、この料理長こそが今後ラングの強力な味方となっていく事となる。


(お預けされてる犬だなんて思ってごめんなさい……)



ラングは内心で謝りつつ、自らのビジョンを語り出した。


『食の革命』――。


それがラングの望みであり、今後の成り上がりへの重要なプロセスとなる。


・近いうちに除草される予定である空き地について、その中止と――できればその土地を使用したい。

・商会から了承を得るために力を貸して欲しい。

・植物を植え、育て、収穫する”農耕”を実現させたい。

・それと、”バイオレンスチキ”を飼いならし、卵を安定的に生産したい。



これらを聞いて反応は様々だった。

だが、皆希望に胸を膨らませているであろうことは確かだった。


その証拠に。


「よかろう。小僧その話乗ったぞ。支配人には伝手(つて)がある。許可云々はワシに任せよ。それと、新たなレシピ作りも早速進めていくとしよう。じゃが、坊主のその閃きは欠かせぬ。当然ワシにも協力するのじゃぞ」


「うんもちろん!支配人さんの件はお願いします」



その他皆一様にできる事があれば手伝うと申し出てくれたのだった。




さて、ラングが手に入れた今後を左右する食材”てんさい”だが、この世界で正式には”ラングクンテンサイ”として記録された。


また、『ヨンホンデモゴボウとイッポンデモニンジンのきんぴら風炒め』はラングのいたずらでどうしようもなくふざけた名前の食材同士の料理となったせいか、後に『ヨンイチきんぴら』と呼ばれるようになる。


ラングの影響を受けて、料理長のことを気軽に“おっちゃん”と呼ぶようになった仲間たち。

「おっちゃん、ヨンイチお願い!」と、きんぴら風の料理を注文する声を度々耳にするようになり――


ラングはようやく気づいた。

この世界に、おかしな名前の植物をちょっと増やしすぎたかもしれないと……。




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