9話 おかしな名前の植物を生み出してしまった件
右から見ても左から見ても、そこは雑草が生い茂るただの空き地だった。
わかっているのは商会が所有し、近々除草業者が草木を根絶やしにするという事。
「なんてことをしようとしてんだ!ここにはお宝が眠っているんだぞ!」
普段ならプンスカ怒るところだが、今回はこれでいい。
あと数日中に根絶やしにする物を”煮て食おうと焼いて食おうと”誰にも文句は言われないはずだ。
却って業者さんからお礼を言われるくらいってなものだ。
まあ、まだ“お偉いさんとまともに話したこともない”今の俺には、黙って収穫するしかないってわけで、おっちゃんを納得させたら事後的にここでの収穫を認めてもらう予定ではある。
では早速開始しようと思う。
「ジョンジョンこの草の根元を掘ってみて!土の中にある塊を傷つけないようにソフトタッチでよろ~」
最近使い出した”ジョナサンの呼称”でもってオーダーを伝えるラング。
そして取り出したるはこれ――
「異世界のしゃべるぅ~」
某猫型ロボットの口調を真似てジョンジョンに手渡した。
こうして掘り出されたのがこれ――
「異世界のぽてと~~」
「ねぇラング君さっきから何言ってるのかよくわからないんだけど?”着せ替えノシャベル”とか”着せ替えポテト”ってどういう意味なの?」
土だらけの丸っこい表面凸凹の塊を握りしめ、ジョナサンはラングに尋ねた。
「ごめんついやってみたくなっただけだから気にしないで。シャベルとポテトでいいからね」
ラングはそう言ってジョナサンからポテトを受け取り、それをスーベに手渡した。
「キセカエポテト?なんだか変な名前だけど食べられるよ」
早速≪食材鑑定≫をしてくれたスーベがラングに告げた。
キセカエポテト確かに変な名前だ。
次に少し離れた所に生えた草を指さしながらホルスに土を掘ってもらう。
出てきたのはこげ茶色をした根っこにしては太いそのフォルム。
「4本でもゴボウ来た~!」
テンションの上がってきたラングは尚もふざけながら叫び声を上げると、
「”4本でもゴボウ”?この根っこの太いやつの事かな?1本だけだけどね」
ホルスはいたって冷静に答える。
「ヨンホンデモゴボウ?これまた変な名前だけど食べられるね」
そして鑑定を行ったスーベの言葉を聞いてラングは気付いた。
(あれ?ふざけて俺が言った通りの名前になってない?でもおかしいな。それなら”イセカイポテト”と”ヨンホンデモゴボウ”になるはずなのに……)
しばし考えたラングは手を打った。
「なるほど、これは“食材”として認識されてなかったってことか。つまり、元々名前がなくて、俺じゃなくこの世界の住人――ジョンジョンやホルスさんが見つけたことで名前がついたってわけだな。これは検証の必要があるぞ」
思わぬ知的好奇心をくすぐられラングは暴走を始めた。
足元に生えていた明らかな雑草を指さしスーベに尋ねた。
すると――、
「名前はないみたいだけど……残念だけど食べられないね」
「おかしいな”見るからに不味そう”っていう草だと思ったんだけど……」
「えっ、ほんと? どれどれ……」
スーベがラングの差し出した草を手に取り、≪食材鑑定≫を起動する。
「やっぱり、名称欄は空白みたい。”ミルカラニマズソウ”って名前ではないみたい。……!! あれ、おかしいな……“ミルカラニマズソウ”って出てる!? 見間違えたかな……」
慌ててスキル表示を二度見するスーベに、ラングは思わず吹き出しそうになった。
最初にスーベが鑑定したときには、確かに名称欄は空白だった。
それが、自分の言葉に反応して、彼がその名を口にした瞬間――
スキルに「ミルカラニマズソウ」という名が定着したのは、どう見ても明らかだった。
(……やっぱり、そういう仕組みか)
ラングは確信しながらも、スーベの少しおどけた反応を引き出してしまったことに、内心ちくりと痛みを覚える。
(……ピエロみたいな役をさせちゃったな)
それでも、そんな自戒の念とは裏腹に、いたずら心を止めることはできなかった。
結果――
その日だけでも、「ナンカチガウ葉」「種トビマストビマス」「ジュンビタイソウ」「タネクッツキマクルカイワイ」など、世にも滑稽な名称を持つ雑草たちが、この地に誕生することとなった。
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