8話 チャレンジ成功のカギを握る男を口説き落とせ!
おっちゃんとのやり取りの中で――、
“食材ゲットでおっちゃんを唸らせろ!”チャレンジが始動した。
次の休みを使って、カイエイン商会の敷地内にある空き地を調べるつもりだ。
仕事場への行き帰りで見た限りでは食べられる食材がたくさんありそうだ。
あとは、おっちゃんに“良質”の太鼓判をもらえるかどうかが勝負の分かれ目だ。
その点は少し自信があるのだ。
見るからに”バジル”っぽい植物の姿は確認済み。
匂いを嗅いだところ、俺がいた元の世界の物とほとんど変わらないようだった。
あとは、声をかける相手さえ間違えなければ、勝算は高い――そう思ってる。
ということで――、
ある人物を口説き落とすために、
夕食後の仕込みや片付けが終わったタイミングを見計らい、食堂に足を運んだ。
社員寮の建物の陰に身をひそめ、食堂の裏口を見張った。
しばらくすると、おっちゃんを先頭に食堂の職員達がぞろぞろと外に出て来た。
「今日もご苦労だった。明日もまた頼むぞ」
おっちゃんの労いの言葉を受けとり、皆はそれぞれ帰途に就いた。
その人物は扉の前に残り、鍵を取り出して施錠していた。
「スーベさん!」
突然背後から呼びかけられたスーベは、ピクッと肩を震わせた。
「なんだ、ラング君かぁ。びっくりしたよ~」
後ろを振り返りながら安心した面持ちで言葉を発した。
「驚かせてごめんなさい。あの……この後少しお時間いいですか?」
少し甘えたような声色で、どこか普段とは違った響きがあった。
「うん、少しならね。なにかあったの?」
スーベは笑顔を浮かべながら穏やかにラングに問う。
――ここでラングはスキル【言霊】を発動し自らの熱意を言葉に託す。
「今度の休みに、一緒に行ってもらいたい場所があるんです。付き合っていただけませんか?」
普段のフランクな口調に似ず、丁寧語交じりの直球勝負をするラング。
「もしかして、今日の料理長との話? 聞くつもりはなかったけど、耳に入っちゃってね」
スーベはそのやり取りを思い出したのか楽し気な表情を浮かべていた。
「はい、その件でどうしてもスーベさんの力をお借りしたいんです!どうかお願いします!」
元気よく、精一杯の想いを込めてラングは願いを伝えた。
この時ラングの体がうっすらと光を帯びていたが、裏口に据え付けられた照明の光によってかき消されたのか、スーベには気付かれなかった。
「料理長のあの顔ったらなかったな。
表情こそしかめつらしい顔つきだったけど、目元が緩んでて、その後も終始ご機嫌だったからね。」
ここで思わず噴き出したスーベが続けた。
「あの坊主はどうもワシの調子を狂わせるから困っておる。口を開けばうまいだの、拙者感服仕っただの、ふざけた事をぬかす――」
スーベは、おっちゃんの言葉を思い出しながら笑みを浮かべる。
「“拙者”とはなんじゃと、思わず聞き返しそうになったがな。あやつのペースに乗せられると分かっておったから、そのまま流したのじゃ――って言ってたよ」
「へぇ、おっちゃんがそんなことを。いつも料理に塩を振りながらも“塩対応”だったから意外だな」
ラングは駄洒落交じりにそんな感想を口にした。
「だから、最近は以前ほど不機嫌になる事も少なくなって、食堂の雰囲気も明るくてさ。あんな事言いながらも、最近はラング君の話ばかりしてるんだよ。そのおかげだってみんな話してたんだよね。そのお礼と言っちゃなんだけど、力になるよ。僕が役に立つかどうかはわからないけどね」
こうして今回のチャレンジに不可欠な人物の協力を取り付けた。
どうしてスーベの協力が必要だったかと言うと――、
彼が持つスキルが大きく関係していた。
【食材管理】:食材の管理に特化した権能で、食材を衛生的に保管するための≪清浄≫や≪殺菌≫、状態を見極め食の安全を確保するための≪食材鑑定≫を行うことができる。
いくら見た目には食べられそうでも、毒でも入ってたら目も当てられない。
安全性を欠けば”食材の質”云々の話じゃなくなる。
だから、その場で鑑定を行ってもらう必要があったわけだ。
☆ ☆ ☆
そして、休みになり俺達は空き地に向かった。
ラングとスーベ、それに大きな籠を背負ったジョナサン。
それと――、
「食材探しってのはいいね。毎日の食事がより良くなるなら是非私も同行させて欲しい」
そう言って、ホルスさんが同行してくれることになった。
部屋に帰り料理長とのやりとりや今度の休みに食材探しに出かける事を話したら、
猛烈に食いついてきたってわけさ。
俺としては迷惑どころか大助かり。
躊躇なく首を縦に振ったってわけなんだ。
こうして仲間もそろった。
いよいよ“良質な食材”を求めて、俺たちの挑戦が始まる――!
さあ、出発だ!