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96話 奴隷からの卒業

この日の夜。

アルバート会頭の部屋に呼び出された俺は、いつもとは違う緊張を覚えながら列の右隅に“気をつけ”の姿勢で立っていた。


俺の隣では、一歩前に出た男性が会頭から書類を受け取り、深々とお辞儀している。

その男性が列へ戻るタイミングで、ついに俺の名が呼ばれた。


「ラング君」

「はい」


返事とともに一歩進み出る。


「王国歴七九三年九月一日付をもって、貴殿を新設・企画生産部の部長に任命する」

「謹んでお受けいたします」


短いやり取り。

だが俺にとってはこれまでにない緊張の瞬間だった。

こうしたフォーマルな場に立ち会うのは初めてだったからだ。


なお、これまで魔道具製造部部長(仮)として現場を率いていたドグマ師も、先ほど同じように辞令を受け取っている。



――思えば、この数か月は怒涛の日々だった。

管理職を目指したレベル上げ特訓に始まり、鎮潮祭のドタバタ、お嬢の課外授業に向けた猛特訓。さらに社会人としての一般教養の勉強。息つく暇もないほど多忙な日々だった。



ナタリンから話を振られた当時まだ見習い労働者(LLA)であった俺は無事熟練労働者(EXLA)へと至り、ついに管理職(JMA)へと格上げされた。

そして今日という晴れの日を迎えたわけだ。


そう、俺は労働奴隷を卒業し、晴れて一般市民になったのだ。

式が終わり、会頭の部屋を出たところで声をかけられる。


「ラング君、それとドグマさん。この後、僕についてきてもらえますか?」

「あっジョンジョンどうしたの? 何か用事かい?」

「うん。来てくれればわかるよ」


案内された先は食堂だった。

すでに夕食は済ませており、今は時間外のはず。

一体何の用だろうと首を傾げつつ中へ足を踏み入れると――


待っていたのは盛大な拍手だった。


「お~兄弟! それとドグマ師、昇進おめでとう!」

「師匠! ラングさん! さすがお二人っす~~!」


コモドンとマニフェスが真っ先に声を張り上げ、続いて食堂に集まった面々から口々に祝いの言葉が飛ぶ。


「うわぁ……マジか! お祝いしてもらえるなんて思ってなかったから、嬉しすぎるんですけど!」

「いやはや、私まで祝ってもらえるとは。これは恐縮するなぁ」


思いがけない祝いの席に、俺もドグマ師も驚きを隠せなかった。


「さぁさぁダーリンとドグマさん、こちらへどうぞ! お二人の席は、皆に顔が見えるよう前にご用意しましたわ」


ナタリンに促され、前方の席へ。

見渡せば、仲間たちだけでなく食堂の常連メンバーも勢揃いしている。

企画生産部や魔道具製造部の新人たちの顔も見える。

ホルスの隣には、ちゃっかりゴンゾーラが陣取っていたが……そこはスルーしておく。



やがて料理長が音頭を取る。


「おほん。本日は皆よう集まってくれた。今日は商会のおごりじゃ。存分に飲み食いし、この二人の新たな出発を祝おう! ――ではご唱和くだされ。坊主……いやラング新部長と、ドグマ新部長の昇進を祝って乾杯!」


「かんぱ~~い!!」


俺は未成年ゆえ果実水での乾杯だ。

だが、こんなにも多くの仲間に祝ってもらえるなんて……心の底から嬉しい。


ドグマ師も、はちきれんばかりの笑顔を浮かべていた。



「ドグマよ、今日はとことん付き合ってもらうぞ! ドワーフの飲みっぷりを皆に見せる、またとない機会じゃからの」

「よしきた。今日ばかりは浴びるほど飲ませてもらおう」


こんな楽しそうな顔をしている二人は見たことがない。

杯を重ねていく様子を眺めながら、早く自分も大人になりたいと思うのだった。


祝いの言葉をかけに代わる代わる訪れる仲間たち。

宴が最高潮に達したところで、司会を務めるナタりんが声をあげる。


「では本日の主役の一人、ドグマさんから一言いただきましょう」


促されて立ち上がったドグマの声が、静まり返った食堂に響き渡った。


「今日は皆さんありがとう。まさかこのような日が来るとは、一年前の私には想像もできなかった。

このカイエイン商会での生活は、余生を過ごすようなものだったからだ。

だが、不思議な少年との出会いが私を変えてくれた。

ラングよ――お前が俺に光を当ててくれた。再び『楽しい』と思える毎日をくれた。ありがとう。

そして、この場にいる皆にも心から感謝したい。ありがとう。これからもよろしく頼む」



大きな拍手が鳴り止まない。

気づけば俺の目には涙が浮かんでいた。


いかんいかん。これから挨拶だというのに泣いてる場合じゃないだろ、俺!!


「続いて、もう一人の主役、ラングさんお願いします」


立ち上がった俺は、涙をぬぐいながら口を開いた。


「え~、皆さん。本当にありがとうございます。

さっきのドグマさんの言葉に、正直グッときてしまいました。

『困った時のドグマ頼み』――この数か月、俺はどれだけ頼り、甘えてきたことか。心から感謝しています。


そして、この場にいる仲間や食堂の皆さん、そして……いつも俺を助けてくれたおっちゃんたち。

普段は言えないけど、今だから言わせてください。いつも本当にありがとう。

皆さんと出会わせてくれた神に感謝します。これからもよろしくお願いします!」


言葉を重ねるうちに涙があふれた。

記憶を失い、すべてを諦めかけていた自分を救ってくれたモルモル。

彼女がいなければ、この幸せは存在しなかった。


――この出会い、この絆を胸に生きていこう。

お世話になった人には倍返しで恩を返そう。


復讐を忘れたわけじゃない。

だが今この瞬間だけは、その想いを脇に置いて、仲間と共にいられる幸せを噛みしめたい。


この先どんなことがあっても、俺は負けない。

だって、こんな素敵な人間関係を築けたのだから。



異世界で奴隷から成り上がれ! 奴隷解放編 完


奴隷解放編が終わりました。

ご覧いただいた皆様ありがとうございました。

続編もどうぞよろしくお願いいたします。

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